背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

クリスマス大作戦 【2】

2008年11月25日 04時42分40秒 | 【別冊図書館戦争Ⅰ】以降

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なんで、と改まって訊かれると、郁も即答しかねる。
「だって、あんたも誘ったんでしょ。クリスマス。柴崎を」
言ったとたん、目に見えるほど手塚がはっきりと動揺した。
どうやらど真ん中をヒットしたらしい。壁際によろける手塚を郁はさらに深追いする。
「そうなんだ。断られたの? あんたも。……かっわいそー」
「まだ断られてない!」
反射で声を荒げてしまう。焦って周囲の目がないのを確認してから、声のトーンを二段階落とした。
「その、……これから誘うとこだったんだ」
「え」
何をのんきなことを、と郁が言いかけたのを手塚が制する。
「だってな、あいつ、それとなく水を向けると、それとなく話を逸らすんだぞ。それはそれは、巧みにだな」
言い訳めいた台詞をこねくり回す手塚。
郁はそれこそ頭をばりばりと掻き毟りたい衝動に駆られる。
「あーもう、何やってんの。柴崎には遠まわしにとかだめなんだって。それとなくじゃなく、もっとストレートに押さないと」
「うるさい。お前に関係ないだろ」
とうとう手塚も切れた。しかしこれには郁もさすがにカチンとくる。
まっすぐに手塚を見上げて言った。
「関係なくないわよ。あたしは柴崎の友達だよ」
手塚はその言葉で、ヒートアップした頭が急に冷えたような顔をした。
「そっか。……ごめん」
珍しく殊勝に謝る。謝られるとなんだか調子が狂う。郁もごにょごにょと返すしかできない。
「う、いや、こっちこそ……」
気まずいムード全開。
互いに視線を合わせないようにして、態勢を整えあった。そして、
「……本当に柴崎がそう言ったのか? クリスマスイブは結婚式だって」
手塚は脱線した話を戻した。
郁はうん、とあごを引く。
「そう。なんでもね、大学の同級生が都内に勤めてて、ホテル内のチャペルでお式を挙げるんだって。その後の披露宴に招待されてるって。だから勤務を早めに切り上げて、都内のホテルに駆けつけるみたいよ」
郁は昨晩聞きだした柴崎の予定を反芻してみる。
手塚は顎に手を当て少し怪訝な顔を作った。
「イブって平日だろ? そんな日に結婚式って珍しくないか?」
「んーまあね。でもクリスマスイブが結婚記念日になったら、女の子は嬉しいからねー。式場も空いてたら花嫁さんが押しちゃうんじゃないのかな。その日に挙げたっていう花嫁の気持ちは分かるよ」
「ふうん、そんなもんか」
「そんなもんよ」
したり顔で頷く郁と、納得したような納得いかないような複雑な顔の手塚と。
「で、……なんで俺にそれを教えてくれるんだ?」
話がまた前に戻る。
さすがの郁も「ん、もう、鈍っぶいなあもお」と舌打ちした。
「つまりね、不幸中の幸いというか、なんというか、披露宴に招待されたお陰で、今年のイブは柴崎ってばあらゆる誘いを断ってるわけよ。ってことはよ、お式ハケた後、柴崎はフリーなわけじゃない? 逆にこれって、チャンスじゃないよ」
「チャンス?」
「ホテルまで迎えに行ってあげなよ。で、デートでもしてくりゃあいいじゃん」
ぐいぐい、肘で手塚のわき腹をつついてやる。
手塚は「あほか、お前は」と憧れの教官の口真似で郁を貶めた。
「大学の同期の式って言ったら、二次会とかにも参加するだろ普通。フリーなことあるか」
「そうかなあ? だって次のクリスマスも平日であたしたち、勤務だよ? 柴崎ならさりげなく一次で引けてきそうな気がするんだけどなあ」
それに、と意味深な目で郁は手塚を救い上げる。
「な。なんだよ」
「二次会とかに柴崎を参加させていいのー? 昔の大学時代の彼氏とかと再会しちゃってさ、焼けぼっくいにいい具合に火がついてもしらないよー。なんせ、当日はイブだし? ムードは満点だしねえ」
みすみすとんびに油揚げ持ってかれちゃうかもよ。
と、郁は油揚げ呼ばわりされたことを知られたら、柴崎に一喝されそうだな、と内心思いながら手塚を力いっぱい焚きつけた。
手塚はまじまじと郁を見た。それこそ、昔彼女に付き合わないかと告白したときそのままに。
「な、何よ」
あまりにも手塚が真面目な顔で見つめるので、郁は思わず身を引いた。
か、顔に何か変なのついてるのかな?と手探りで頬を撫でる。
「いや、……お前でも焼けぼっくいに火がとかいう言い回し、ちゃんと知ってるんだなーと思って」
手塚は言った。
郁は、一呼吸だけ息をするのを忘れ、そして、
「~~ば、ばっかにすんなあ! もおおお!」
せっかく人が親切で言ってんのに! このすかぽんたん! という罵声とともに、鉄槌の拳を繰り出した。


「……ってえ。あいつ、本気で殴りやがって」
上腕をコートの上からさすりながら、手塚は寮への道を辿っていた。
完全に青あざになってるな。加減ってものを知らないからな、やつは。
堂上教官も苦労してるんだろうな。いや、あの人は苦労だなんて思っちゃいないか。
……柴崎にはセーブしてるんだろうな、あんなに言い含めたんだから。
頼むぜ。
一人物思いに耽りながら、歩道を黄色に染める銀杏の葉を踏みしめて歩く彼の姿は、怜悧な容貌とあいまって人目を引くことこの上なかったが、その実、頭の中ではたいした深刻なことは考えてはいない。いかにも小難しい哲学的な考証を行っていますというような顔をして、実は今晩の寮の夕食のメニューはなんだったかな、とさくっとそんな感じだ。
しかし今日は何度も昼間の笠原とのやりとりが頭に浮かんで離れなかった。何度目かのため息を彼はつく。
……柴崎をこれから誘おうと思っていたと、笠原にはさっき言ったけど、あれは正確には違う。
正直に言うと、手塚はクリスマスのような特別なイベント時の誘い方がよく分からないのだった。誘いあぐねていたというほうが正しい。
これまでイブを異性と過ごしたこともないではない。お泊りのコースだって、少なからず経験はある。
でも、すべてそれらは付き合っていた相手がお膳立てしてくれたもので。自分は上げ膳据え膳でその計画に乗っていればよかった。
完全に受身だった。
そのツケが今の今になって回ってきている。
本命を、イブの日にスマートに誘うのはどうしたらいいのか皆目見当がつかない。
飲みに行こう、だといつも居酒屋に誘う時と変わらないし、まさか初回からホテルなどに誘うわけにもいくまい(いくらクリスマスだからとはいえ)。
柴崎という自分の中で微妙な位置にいる女に、どう仕掛ければいいのか。
実戦には長けていても、恋愛のシュミレーションはてんで苦手な手塚だった。
そんなとき、背後から声をかけられた。
「手塚」
と。
振り向かないでも分かった。今まさに思案していた意中の相手だったから。
上官に呼ばれたときよりも背筋が敏感に反応し、ぴしっと伸びる。
「柴崎」
半身開いて、後ろから歩み寄る彼女を待つ。
「寒いわねー。今晩のごはん、何かな」
おでんとかだといいわね。そう言って隣に並んだ。
寒さのせいか、鼻先が少しだけ赤い。
それが幼く見え、手塚は目元を緩めた。
「肉まんでも食うか。コンビニ寄って」
「いいわねー。って会った早々、肉まんって何? 今あんた、あたしの顔見て思いついたでしょ」
柴崎は不快そうに口を尖らす。
手塚は笑った。
「違う違う」
「いいや。思った。反射みたいに!」
ひどい。肉まん呼ばわり? と更に尖がってくる唇を今ここで奪ってやろうかとふと乱暴な思いが浮かぶ。
あのとき、この女に奪われたように不意打ちで。
慌ててそれを打ち消しながら、手塚は、
「怒るな。奢ってやるから行こうぜ」
「ホント? じゃあ行くわ」
「現金なやつ。……肉まんでいいのか」
「んー。あたしとしては、チーズ明太子まんとか」
「なんだそのコアなリクエストは」
帰寮のコースから逸れて二人は基地から一番近いコンビニに向かう。
雑談を交わしながら手塚は思った。
……コンビニぐらいなら、こんなに簡単に誘えちまうのにな、と。

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2 コメント

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おおお (たくねこ)
2008-11-25 07:13:08
そういう展開ですか…
て、手塚、頑張れ~~~~~~!!!!
としか、今は言えません~~~(;д;)
返信する
こういう展開なのです(^^; ()
2008-11-25 18:39:57
が、がっかりさせましたかな?汗

私も心の中ではエールを送っております。が、


すんなり作戦成功しちゃうのもどおかなああ!?ナンテ…

ヘタレ男前、本領発揮していただかないと、彼には。ネ?
返信する

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