背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

今夜は聖夜【1】

2011年11月15日 04時05分58秒 | 【図書館危機】以降
今夜はクリスマス・イブ。
土日に24・25日がかかった今年の師走。
武蔵野図書館の独身寮では今年も恒例のパーティーが開催されていた。
パーティーはパーティーでも、仮装パーティーである。
主催は寮母さんたちで、彼女たちの忘年会も兼ねているとかいないとか、専らのウワサ。
恋人のいない寮生が、街が浮き立つイブに一人きり無聊を託ったりしないようにと親心ではじめたとされているが、今やそれはどんちゃん騒ぎ以外の何物でもない。
寮生以外の隊員や家族も、仮装さえすればパーティーに潜り込めるからである。チェックが甘い。
仮装、そう、コスプレさえすれば。


「なんでこんな馬鹿げた格好をせにゃならんのだ」
 往生際が悪いのは堂上。寮の自室で頭を掻き毟る。
 Tシャツにジーンズという部屋着でうろうろと歩き回る。
「全員参加って寮母さんに言われたら、従うしかないよねえ」
 苦笑する小牧は既に衣装に着替え終えている。今日の彼はアメリカン・カウボーイだ。テンガロンハットを少し斜めに被り、ダンガリーシャツにチノパン。首にはバンダナ。
腰にはガンホルダーを巻いているが、いつも扱いなれている拳銃ではなく今日挿しているのはピストルのレプリカだ。
 小物から始め、すべて自前というのが小牧「らしい」ような、「らしくない」ような。
 仮装にお金をかけるのは主義じゃないと公言しているのはいかにも彼らしいが。
 くだけたカウボーイという役どころを見事に体言していた。
「寮母さんは最強の生き物だからね。ある意味ここでは」
「んなこと言ったってな。コスプレってのは日本人に似合うかどうか、微妙なとこなんだぞ」
 ぶつぶつ言いながら、堂上の私室に顔を出していた手塚を見遣る。しばし、その頭のてっぺんからつま先までひとくさり、視線を這わせて。
 堂上はため息をついた。
「なんです? おかしいですか俺」
 手塚が自身の格好を鏡に映す。
 堂上は力なくかぶりを振った。
「……いや。お前、似合うなと思って。そういうカッコ」
 いい意味で日本人離れしてるよ。と重ねた。
「全部借り物です」
 手塚は顔色ひとつ変えずあっさりと返した。
「去年の俺のを貸したんだよ。おおまかなパーツはね」
 小牧が笑って口を挟んだ。
「でも着こなすよねー。まあタッパあるから何でも似合うんだけど、手塚は基本」
「ありがとうございます」
 固い口調で返す。
「もしかして狙ってるのか? 仮装大賞」
 堂上が訊くと、一も二もなく「はい」と頷く。
「昼の食堂代、一週間無料券のためなら、なんでも着ますよ」
 生真面目に言う。
 小牧は肩をすくめた。今宵のコスプレに、そういう欧米風の仕草はよく似合う。
「手塚っていいとこのお坊ちゃん育ちの割にきっちりがめついよね」
「なんとでも言ってください」
 それより、と話題を変えて、
「堂上教官はまだ着替えないのですか。そろそろ時間が」
「ああああ。分かってる! みなまで言うな」
 堂上は頭を掻き毟った。うがーと吼える。
 取り乱した堂上は滅多に見ないので、手塚が唖然とする。
「着る。着るから。もう少し心の準備をさせてくれ」
「は、はあ」
 あははとそこで遠慮なく小牧が笑う。
「袖とおしちゃえば結構着こなすのにねえ。抵抗しすぎなんだよ、班長殿は毎年」
 褒めているのかけなしているのかさっぱり分からない。堂上は苦虫を噛み潰した顔で小牧を睨んだ。
「仮装パーティーなんていう馬鹿げた風習、いつの間に日本に定着したんだ」
 しぶしぶ、用意された衣装に手を伸ばす。それももちろん小牧が堂上のために調達してやったものだ。
 渋る堂上でも着ようかと思えるぐらいの、絶妙のチョイス。
「定着なんかしてないよ。局地的にやってるの、うちだけ」
「だから、なんで!」
「決まってるだろ。我らが隊長が好きだからだよ、基本。こういうお祭り騒ぎが」
 今年はどんなカッコで乗り込んでくるかな。そう呟いた小牧の声を掻き消す音量で「あああああああ」と堂上がわめいた。


 毎年恒例。図書館寮、冬の風物詩。
 クリスマスの玄田のコスプレ。
 仮装パーティーに嬉々として乱入する玄田の姿を見ると、寮生はみな「ああ、今年も冬が来たのだなあ」と実感するとかしないとか。
 そして、「俺たちもこの上司の下、よく一年頑張ったよな」としみじみ互いを慰労しあうとかしないとか。
 玄田が仮装パーティーなんていう美味しいイベントを、ただ指を咥えて眺めているはずがないのである。特殊部隊全面協力。強力バックアップ体制。


「去年はキョーフの女装だったからね。魂消た、っていうかあれはある意味ホラーだったよね」
 幾分平坦な声で小牧が言った。去年の悪夢を脳裏に思い描いているらしい。
「ああ、取り押さえるのに労が要ったな」
 堂上が遠い目。
 特殊部隊班総出で、隊長がアルコールに塗れてランチキ騒ぎを起こす前に捕獲したのだ。
「隊員で泣きを入れましたよね。土下座して。頼みますから隊の名誉のため女装だけは勘弁してくださいって」
 手塚も神妙な面持ちだ。唇を噛み締めている。
 一年前の労苦を思い出しているのだろう。雪降る聖夜に大の男がそろって隊長の前に膝をついて男泣き。
 まさにナイトメアだった。
「ああ。俺たちだけじゃなく、緒方さんとかまであんなに頭を下げたんだ。今年は少しは自粛してくれるだろう。あの人も」
「甘い! 甘いよ、堂上」
 びし! と音がするほど鋭く突っ込む小牧。
 鞭で打たれたかのように堂上が背筋を伸ばした。
「え、そ、そうか?」
「一年も前の約束をあの人が覚えていると思う? 覚えてたって喜んで反故にして乗り込んでくるって思っとかないと。楽観はできないよ」
「う。それは確かに」
「――まあ。隊長の仮装にはコアな固定ファンがついてるから、多少キテレツでも喜んではいただけるとは思うんだけど」
 それに、と小牧はずるい笑み。ぽん、と自分より低い位置にある肩に手をかけた。
「いざとなったら、隊長のお守りは堂上に任せてるからね。頼んだよ、班長」
「な、――ま、丸投げか貴様っ」
 堂上は激高した。
「別にいつものことだろ。今に限ったことじゃなく。隊長の後処理はお前の仕事」
「そんな役どころ、固定化するな!」
「あはは。顔真っ赤にして抵抗したって無駄だよ。さ、手塚、堂上の支度まだかかるみたいだから、俺たちだけ先に会場に行こうか」
 手塚を促す。
「え、あ……」
 はらはらとしながら二人の上官のやり取りを見守っていた手塚が、腰を上げていいものかどうか迷い、中途半端な体勢になった。
「おい待て! 俺を置いていくな」
 仮装して一人でのこのこ後入りなんかできるか! とすごい形相で噛み付く。そしてあたふたと衣装を着込んだ。
 それを横目で眺めながら、小牧が言う。
「はじめからちゃっちゃと着ればいいんだよ。往生際が悪いね」
 そしてドア口に向かった。テンガロンハットのつばをちょんと指先で弾いて。
「さ、行こう。パーティーはこれからだ」
 部屋の二人に華麗にウインクを決めた。


 小牧、手塚、そして渋りに渋った堂上が寮の広間(いつもは大食堂)に降りていくと、ほおおおおといっせいにため息が漏れた。
先に集っていた寮生たちの感嘆の吐息である。
堂上は今夜は長い白衣を纏っている。首からは聴診器を提げ、有能な外科医といった風情だ。中はきっちりしたイタリア製のスーツ。
まるで「白い巨塔」の財前教授を再現したような。唐沢寿明版の。
苦々しい面が、いっそう「苦悩する医師」といったニュアンスを与えて、憂いを誘う。
女の寮生たちが「堂上さん、かっこいい」と色めき立った。
そして隣には一転、ヤンキースタイルの小牧。アメリカンテイストの遊び心満載のコスプレに、女性たちはきゃあと歓声を上げる。歩くたびにチャリン、チャリンと鳴るブーツの金具がおしゃれだ。
なにより、目を引くのは手塚だった。
今夜の彼のコスプレは、自称「カリブの海賊」。
パイレーツ・オブ・カリビアンだ。
頭にバンダナ。ビーズをひっつめた長いエクステンション。胸元の大きく開いた白のシャツをゆるく着て皮のベストを羽織り、黒のタイトなパンツに黒のロングブーツを合わせている。勿論腰には細身の長剣。
そして右目を黒の眼帯で覆って。隻眼を演出。
 いつになくワイルドに、いつになく華麗に。
スパロウ船長、ここに見参。
「て、手塚、」
「かっこいい……!」
 男女を問わず、歓声とともに拍手で迎えられる。
 照れくさいような、開き直ったような心地で足を踏み出すと、隻眼が仇となって距離感がつかめず、がん! と観葉植物の鉢に足をぶつけけつまずいた。
 いてて、とよろける。
 どうにも決めきれないのがいかにも手塚らしかった。

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6 コメント

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ばっくん! (たくねこ)
2011-11-15 21:26:06
手塚のジャックスパロウ???
ばっくんと食いつきましたよ!
このままばっくり食いついていきますので、
よろしくお願いします!
返信する
ちょっとというか、かなり贔屓入りました(汗) (あだち)
2011-11-17 05:47:04
>たくねこさん
食いついていただいて有難うございます。
手塚贔屓でごめんなさい。。。
堂上さん贔屓は、他のサイト様でいっぱい
あるでしょうから、我が家だけでも、と思い。
こちらこそ生ぬるく見守ってくださると嬉しいです。
返信する
まってました! ()
2011-11-17 16:19:08
久しぶりの手塚でしかもジャックスパロウ!!
本当に楽しみにしております。
寒くなってきておりますので、お体にはお気を付け下さい。
返信する
最高です (たくねこ)
2011-11-18 15:21:07
手塚贔屓、最高です。
だって私は手塚スキー(n‘∀‘)η
返信する
優さん、たくねこさん (あだち)
2011-11-19 07:28:45
コメント有難うございます。
手塚ファンの後押し嬉しいですv
柴崎ファンはいるかな?笑
返信する
love (kana)
2017-05-07 16:50:02
はじめまして♪

有川先生のファンです!!
図書戦LOVEです♪
この作品大好きです☆
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