背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

ランチタイム

2008年08月18日 05時44分21秒 | 【別冊図書館戦争Ⅱ】以降

「てーづーか」

昼休みを終え、午後の仕事を始めたところで、郁がタイミングを見て声をかけてき

た。今日は内勤、書架整理である。

「ん?」

本を一番上の棚に戻しながら背中でこたえる。手塚は殆ど脚立を使わず書架で動く

ことが出来る。小牧に言わせると「はしご要らず」男だ。

「ねえ、どうだった? 柴崎の愛妻弁当、美味しかったでしょお~?」

ぶ。

でかい背中が大きく揺らいだのを見て、郁はひとの悪い笑みを浮かべた。

「ななななななんでお前それをっ。てか愛妻弁当ってなんだよ?」

「今日は柴崎お手製のお弁当でラブラブランチだったのか、なんであたしが知って

るかって? そりゃあ知ってるわよ。だって昨夜柴崎に台所貸したのあたしだもん

ねー」

郁はしれっと言って書架に向き直る。

ラブラブランチ。――その言葉に手塚は真っ赤になる。呑んだ時もこんなにはなら

ないだろ、というほど。

あ。図星だったかな? 

手塚の表情からぴんとくるものがあった郁は、それ以上突っつくと柴崎が嫌がると

ころまで触れちゃう? とばかり、「いいわねー、あたしも明日は篤さんにお弁当

もたせようかな」と巧みに台詞をすり替えた。

「笠原は、料理できるの?」

悔しそうにそう言い返す手塚。なんとか一矢報いたいという思いは分かるが、その

言い方だと柴崎ができると認めた上での質問になっているよ? と完全に見透かさ

れている。小牧あたりならきっと嬉々として突っ込んでいるところだが、既婚者の

郁には流してやるだけの余裕が今ではあった。

「でーきーまーす。いちお主婦なんだからね。これでも」

「なんちゃって主婦だろ」

手塚は話を切り上げようと蔵書に手を伸ばした。

「なんちゃってだって! まー可愛くない! その言い方」

「お前に可愛がられるほど困ってない」

「ふん! 何さ手塚の馬鹿!」

小学生レベルの憎まれ口を利いて、郁はぷんとそっぽを向いた。無駄口はそれきり

叩かず、分類作業に入る。

それにしても、と昨日の夜のことを思い出す。

柴崎ってば、悔しいくらい弁当作る手際、よかったなあ……。

かつての同室の意外な、というか、うわ手な部分を見せ付けられ、先輩主婦として

郁は少しへこんだ。




「手塚、ちょっと」

昼休み。館内に柴崎を迎えに行った手塚は、アプローチを出たところで制服の袖を

くいと引かれた。

え? と思う間もなく柴崎は食堂に続く遊歩道を横に逸れ、低い柵を跨いで芝生に

すたすたと入っていく。

「おい、どうした?」

「いいから来て、こっち」

訳が分からずそれでもついていくと、柴崎は植え込みに隠れたところで足を止め

た。そしてトートバックからハンカチで包んだものを取り出した。

「今日はお弁当持ってきたの。ここで食べましょ」

「弁当?」

って、え? お前が?

作ったのか、と目で訊くと、「早く。あんた大きいから座らないと見つかっちゃ

う」と急かされる。

台詞を呑み込んでとりあえず腰を落とす。初夏の陽射しをたっぷりと吸った芝は柔

らかく二人を受け止めた。

「いつも食堂か外だからねー。じゃなきゃ、コンビニ弁当か。

マンネリだからお弁当でも作ろうかなって。気分転換に。はい、どうぞ」

にっこり。

半分仕事、半分プライヴェートの笑顔でハンカチ包みを差し出される。

それはいま仕事時間だけど昼休み、という微妙な時間のせいだと手塚は分かる。就

業後だと完全プライヴェート顔になるんだけどな、と思いつつ、いやそれよりもこ

れだろ、柴崎の手製弁当……、とまじまじと手の中を覗き込んだ。

平日、忙しいときに、わざわざ、と言おうと口を開きかけたところで、「まず食べ

て? あ、これウエットティッシュね。あと箸と」とてきぱき渡される。タイミン

グを逃して礼を飲み込み、

「――頂きます」

両手を合わせ、手塚は弁当を開いた。芝生の上、胡坐を掻いていたが、正直正座し

て食したいほど、神妙な気分だった。





「そっか、……お前んとこの台所借りて作ったのか、あれ」

タイムラグを伴ったその背中の呟きを、郁は聞き逃さなかった。

肩越しに見ると手塚ははっと表情を強張らせ、「え、じゃあもしかして、堂上一正

も柴崎が俺に弁当作ってくれたってこと、知ってるのか?」と訊く。

何を今更。

「あったり前でしょー。10時近くまでかかって二人で台所にこもったんだから。

篤さんはリビングできゃあきゃあ言うあたしたちを全部見てました」

てか、見守ってくれてました、が正解よね。夫のやれやれと言いながらも優しい眼

差しを思い出すと、自然と郁の頬が緩む。

でも手塚は目下の懸案に気をとられ、それには気づいてやれない。

憧れの上官に知られた、と分かった途端、頬が熱くなった。わああああと叫び出し

たいのを必死で堪える。

「だーいじょうぶよ。篤さんて大人だもん。そういうことであんたをからかうこと

ないと思うよ? 安心してていいよ」

そう請け負う郁はすっかり「奥さん」の顔で。

こいつもきっと、ウチに帰れば一正にしか見せない顔を見せているんだろうな、と

ふと想像した。

「……迷惑かけて、すまなかった」

柴崎が邪魔して自分の弁当をこしらえてくれたんなら、俺が選ぶのこの台詞で合っ

てるよな? そう目に含ませて言うと、郁は鷹揚に笑った。

「いいええ、とんでもない。迷惑なんて。

あんな可愛い柴崎見られるなら、手作り弁当大歓迎って感じよ」

「え」

「すっごい嬉しそうだったよ。柴崎。あんたの弁当作ってるあいだじゅう。

基本寮ごはんだし、自己管理できる人だし、栄養のこととか心配はしてないけど、

って言ってたけど、それでもやっぱし心配なんだと思う。あんたの身体のこと。こ

れからもたまに台所借りに来ていい? って訊いてたよ」

郁はそう言って年長者が見せるような瞳を手塚に向けた。

「……柴崎が嬉しそうなの見るの、あたしも嬉しいんだ」

手塚は何と答えればいいか迷った。そして、目を合わせないようにして、呟いた。

「――サンキュ」

と郁もえへへ、と照れくさそうに笑った。






「ご馳走様……でした」

二人の中では使い慣れぬ敬語で、両手を合わす。と、柴崎も「お粗末様でした」と

丁寧に返した。

「完食ありがとー。嬉しいわ」

気持ちいいくらいすかっと空になった弁当を手塚から受け取り、片付け始める。

「美味かった。すごく」

「それだけ?」

少し斜に見上げてくる目が、実は照れ隠しだということぐらいは分かる。ので、

「栄養のバランスが取れてたし、見た目もキレイだったし、ほんと、美味かった

し、料理上手なんでびっくりした。

弁当だけじゃなくお前の気持ち、全部食った気がする。ありがとう」

しっかりと言葉を一語一語選んで伝えると、柴崎が耳を赤くして俯いた。

まだ食べかけの自分の弁当の上を箸が彷徨う。

「……またあんたは素面でそういうことサラッと言うし……」

え、赤くなるとこか、ここ。

俺としては普通に礼を言ったつもりだったんだが。

手塚は意外な思いで柴崎を見つめる。しばらく会話が途切れた。

柴崎もまた箸を動かし、おかずを摘んでもぐもぐと咀嚼する。

手塚はゆっくりと空を仰いだ。快晴。限りなく透明なブルーが頭の上広がってい

る。

そういえばそんなタイトルの蔵書があったよな、と職業病的に思い出しつつ、

「今度の休み、少し遠出しようか」

気がつくとそんなことを言っていた。

「遠出? ドライブ」

「うん。親父から車借りられるから」

「そこですぐにお兄さんからって言わないあたりが、手塚兄弟まだまだよねえ、っ

て感じ」

くすくす笑いとともにからかわれる。手塚は鼻の付け根に皺を刻んだ。

「茶化すな。いいんだろ、提案」

「いいわよ。でもどこに行くの? あてがあんの?」

「金沢」

即答した手塚に、柴崎はなんともいえない顔を向けた。

虚を衝かれるってのは、きっとこういうことを指すのだろうな。手塚は内心思いな

がら「いいよな」と重ねた。

「……遠いわよ? 車だとけっこう」

「大丈夫。運転は好きなほうだ」

「あまり面白いとこもないっていうか派手な街でもないし。……田舎だしね」

「いいじゃないか。美味い酒にありつけそうだ」

「お酒だめでしょ。車だと」

「あ、そっか」

そこで柴崎は箸を置いた。弁当を終えて手早くハンカチで包みなおす。

数秒迷ってから、口を開いた。

「あのさ、」

「ん?」

「その……。日帰りじゃなくて、一泊でもいいわよ」

「……うん」

「外泊届け、出さなくちゃね」

事務的なことを持ち出しつつも、柴崎の口調はなんだか軽かった。頬が陽射しを浴

びてつややかに光っていた。

「麻子」

名前で呼んで、唇を重ねる。身を乗り出したのを支える掌に、芝のちくちくした感

触がくすぐったい。

反射のようにぴくっと身体が固まった。が、柴崎は黙ってキスを受け入れた。

ややあって唇を離すと、吐息をかすかに零しながら、瞑っていた目を開いた。

「……罰則1。勤務中に下の名前で呼ばないってルール、破ったわね」

不意打ちが悔しいのか、上目で睨んでくる。

「そうだな」

「罰則2。館の敷地内で、勤務中にこんなことしていいの? 誰かに見られたら上

官に呼び出し食らうわよ。手塚三正」

「じゃあ見られないように」

そう言って手塚はもういちど柴崎にキスをした。

前よりもっと長くて深いキスになった。





「いろいろご馳走さん、ありがとな」

それぞれの持ち場に帰る前にふざけてそう言うと、「バカ」とすげなく返された。

「今度の公休、外泊取っとけよ」

黒髪を翻して行く背中に声をかける。と、右手を挙げて親指と人差し指でOKのサ

インを作って寄越した。


(そして冒頭に戻る)

fin.
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2 コメント

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らぶらぶらんち ()
2008-08-18 06:01:08
書いてしまいましたー…

ゴチです>ご両人!て感じで。笑

いったい付き合ってどれぐらいから名前呼びしたんですかね?手塚からっすかね、柴崎ですかね?(柴崎っぽいなあ)
そういうこと想像すると時間があっという間に経ってしまいます…
返信する
あ”~~~~っ ()
2008-08-18 20:55:46
文中ひどい間違いを発見。。。
何でこんな勘違いをー!!叫

速攻で直しました。そうだよ柴崎の実家は金沢…(><)すいません。
以後気をつけたいと……
返信する

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