世界の移民政策、移住労働と日本

日本型移民政策とは何か?世界の移民政策に関するニュース、エッセイ、本の紹介など

経団連「人口減少に対応した経済社会のあり方」

2008年12月01日 | 日本の移民政策

経団連「人口減少に対応した経済社会のあり方」
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自民党議員連盟が日本型移民政策(案)を6月発表、また自民党プロジェクトチームにより作成された外国人労働者の短期就労制度案も7月に公にされたが、それに続く経済界からの提案。10月に発表されたのでややニュース性に欠くのだが、日本型移民政策と短期外国人就労制度という異なる外国人労働力の受け入れモデルが提示されるなかで、大きな影響力をもつ大企業のスタンスを把握しておきたいと考えた。

移民および外国人労働者受け入れにあたって、必ずその背景・理由としてあげられる「人口減」。しかし人口減=移民受け入れと直結して考えるのはすこし単純化しすぎており、それは経団連もこのレポートで認識していることをうかがわせる。人口減を食い止める必要があるのか?人口減を自明の理とし、それに照準を合わせた経済の成長を目指せないのか?また人口減により、経済規模が収縮するとしても一人当たりの富が減少しないのであれば特に問題はない、逆に都市の人口過密を緩和するよい機会だという考えもある。しかしながら、経団連は、財政、年金、経済社会システムという観点から、急激な人口減が日本を極端に脆弱にすると警笛を鳴らしている。そもそも市場拡大、そして収益拡大が資本主義のメインテーマであり、規模を誇る大企業の姿勢でもある。人口の減少に対してソフトランディングを計画する一方で、攻めの姿勢も見せたいという本音が垣間見える。

経団連提言のうち、移民、および外国人労働者の受け入れに関する箇所で次のような記述が目を引いた。まず外国人研修制度に関して- 経団連は依然として「国際貢献」の視点から継続、拡大を提案している。より高度の技術をもち、わが国にも貢献する人材の受け入れを、とある。すでに研修制度は多くの問題を抱えており、諸案では廃止の方向で話が進んでいるだけに、国際貢献のレトリックがここで再度なされることが非常に残念だ。国際貢献をするのならば途上国の人材を研修生ではなく、労働者として受け入れ、適正な賃金をはらうことが推奨されよう。労働者や移民う受け入れ国際貢献としてカウントされる時代にはいった。

単純労働者受け入れに対して、経団連レポートは、ヨーロッパを例にだし、様々な問題を抱えることになるとして積極的姿勢をみせていない。現在ある受け入れスキーム(研修制度、日系人、留学・就学生)で十分な労働力の供給がなされているとの考えだろうか?ただ現在の入管法が定める以外の一定のスキル(高度人材ではないが、一定の資格や職務経験のある人材、たとえば介護人材)の受け入れについては緩和を求めている。日本型移民政策を積極的に検討とあるが、具体的に踏み込んだ記述はない。

この提言から見えるのは、経団連がのどから手が出るほど欲しい人材、それはより高い付加価値をもたらすイノベーションを生み出す人材。経済成長がまだまだ見込まれるアジア地域出身の研究者や優れた企業家などをどうやって日本に取り込めるか、というところのようだ。中国やインドの高度人材にとって、日本はまだまだ北米への移住の飛び石的な存在としてしか位置づけられていない。こうなると受け入れ政策うんぬんというよりは、日本の社会・企業自体が改革を迫られていることになるだろう。

外国人労働者の受け入れの議論は開国・鎖国論を超えた新たな局面を迎えた。むしろこれから議論していかなければいけないのは、受け入れにかかる社会整備だ。とくに受け入れコストを負担するのかというところであり、「経済界」の役割が期待されるところである。外国人労働者や移民の流入で直接的に、最も経済的な恩恵を受けるのはスバリ経済界ではないか?本提言を読む限りでは企業も受け入れた外国人のさまざまな生活支援などに協力するという新しい姿勢がみえる。よい変化を期待したい。





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3 コメント

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移民について (JTikeda)
2008-12-03 20:22:44
日本語教師をしています。いつもブログを拝読し、勉強させていただいています。外国人研修生のお世話などもしていて、移民というか、グローバルな労働力の移動についてもっと専門的に勉強してみたいと思うようになりました。書籍についてはブログで拝見しましたが、大学や大学院などでお勧めのところがあったら、教えていただけないでしょうか。すみません、不躾なお願いで。
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移民研究機関 (ブログ管理者)
2008-12-04 10:33:33
こんにちは。コメントありがとうございます。

お問い合わせの件ですが、国内の研究機関と海外の研究機関がありますので、分けてご案内させていただければとおもいます。

まず移民の研究といっても社会学、政治学、法律、人口学、労働経済、ジェンダーなどさまざまな視点からの切り口が存在し、あるいみ乱立している状態で、どの観点から研究をされたいかによって選ぶ大学院も変わってくるかと思います。

国内の研究機関では、とくに後の海外の例でみるような移民専門研究機関というものがありません。というのもそもそも日本の移民政策というコンセプト事態が比較的新しいものであり、一貫性のある移民政策というものはまだ存在しないからでしょう。ということは、書籍をあたり、専門の研究者の在籍する大学院で研究をされるのがよいかとおもいます。移民を中心に研究されている先生方が集まっている大学院もありますが(一橋など)、どちらかといえば散在しているように見受けられます。移民政策学会も近年創設されていますので、そちらからアプローチすることも可能かとおもいます。

海外には移民研究の専門機関が多数存在するため、網羅することは難しいのですが、こちらなどからさがしていただければとおもいます。
http://www.iom.int/jahia/Jahia/pid/1296

ご参考になりましたでしょうか?
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どうもありがとうございました。 (JTikeda)
2008-12-08 21:32:29
参考に致します。
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