世界の移民政策、移住労働と日本

日本型移民政策とは何か?世界の移民政策に関するニュース、エッセイ、本の紹介など

移民国家ニッポン―1000万人の移民が日本を救う

2008年07月30日 | 移民関連の本や映画

移民国家ニッポン―1000万人の移民が日本を救う
坂中 英徳,浅川 晃広
日本加除出版

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自民党の提言する「日本型移民政策」のたたき台ともなった本書。「定住型」「育成型」がそのキーワードであることは以前の投稿で書いた。

この本の中にはオーストラリアの移民政策について詳しく触れた一章がある。北米、オセアニアなどのいわゆる「伝統的移民国家」の経験や政策が、提言「日本型移民政策」を策定するプロセスにおいて、ひとつの理想像として念頭に置かれていたことがわかる。正直言ってこれには少々驚いた。歴史を通じて大規模な人の移動を経験した国であれば、そういう経験値をもって、伝統的移民国家の政策からノウハウを拝借することは可能であろう。ただ、それが「単一民族」「島国気質」と称される日本である場合、伝統国をモデルにするのは少々時期尚早であるように思える。日本はまだ、在日日系人の子女に基礎教育を十分に提供できていないレベルなのだ。また、オーストラリアが移民の受け入れを積極的にせざるをえない背景には、オーストラリアに移民する人は多くても同時に流出する人材も多いこと、開拓されていない広大な土地があることを忘れてはならない。

近年、「伝統的移民国家」でない国々が続々と独自の外国人労働者受け入れ策を打ち出しており、こういった国のモデルを見ていくことも意義があると考える。お隣の韓国では 2003年にEmployment Permit System (通称EPS)を導入し、外国人単純労働者の数十万人の大規模受け入れを始めた。アジアの主要送り出し国と覚書(MOU)を結び斡旋業者の介入を排除し、適性な循環型・短期受け入れを図るシステムだ。これは中東や台湾、マレーシアなどの経済新興国の受け入れモデルに、一定のセーフガードを付け加えた変化球バージョンといえよう。高度人材の受け入れと平行してこのような単純労働者受け入れ枠を設けることで様々なスキルを持った人材を確保することが可能となる。

一方で、とくに教育・資格をもった移民を対象に長期型受け入れのモデルを模索する国(イギリス、チェコ、デンマークなど)も増えてきている。ある一定の基準(年齢、学歴、技術・資格など)を満たせば、まず短期間の労働許可が下りるというもの。数年後には優先的に定住ビザに切り替えが可能となる。中には、基準を満たせば雇用契約の有無を問わずに就労ビザが発給され、合法的に就職活動を行えるスキームもある。この形の受け入れを行っている国の特徴としては、すでに「事実上」の単純労働者の受け入れが進んでおり(家族統合、難民受け入れ、EUであれば域内移動の自由など)とくにその部分での対応が必要でない場合が多い。

本書に書かれていることで、自民党提言に盛り込まれていない、興味深い点のひとつとして、予算の問題があげられよう。どこから、だれが移民政策にかかる莫大なコストを捻出するのかという点だ。本書はODA(政府間開発援助)がそのひとつだとするが、これがもし提言に折り込まれていれば確かに議論を巻き起こしたに違いない。日本で就労するにあたって必要な日本語能力や職業技術を養成する施設の創設・運営をODAからひねり出すというのは、援助国の利益があまりにも露出しているのではないか、日本での稼ぎが母国に送金されることで送り出し国はさまざまな恩恵を受けるのであるからODAからの支出は合理的ではないか、というところが論点となろう。移民政策と開発援助をひとくくりにするやり方は日本では目新しいかもしれない。その良し悪しの議論は別としても主要ドナー国の間では、近年目立ってその傾向がみられる。

最後になるが、日本の移民受け入れ政策を考える上で、本書は2つの重要な点について多くを語っていない。それは育成の必要性の低い単純労働者の受け入れの是非と受け入れるのであればその受け入れ方法、そして移民を受け入れることで必然的に派生する家族統合という新たな課題についての対策だ。これについては次回の投稿で触れることにする。





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