misty green and blue

Life is like an onion...

Songs of Innocence

2016-05-29 | artist


「20世紀最後の巨匠」と称えられた画家のBalthus(Le Comte Balthazar Michel Klossowski de Rola)は、ポーランドの貴族の流れを汲む家柄の伯爵として、1908年パリに生を享ける
両親共に芸術家、幼い頃より画家ボナール(Pierre Bonnard)やマティス(Henri Matisse)、ダンサー兼振付師のニジンスキー(Vaslav Fomitch Nijinski)、作曲家兼指揮者のストラヴィンスキー(Igor Stravinski)等、20世紀初頭の著名な芸術家たちに囲まれて育った彼は、やがて美術の勉強を願い出るもあえなく反対に遭い、プッサン(Nicolas Poussin)やシャルダン(Jean-Baptiste Siméon Chardin)、マザッチオ(Tommaso di ser Giovanni di Mone Cassai)等、過去の巨匠たちの作品模写を試み、絵画技法の基礎を身に付ける
1922年、幼少時から東洋に憧れを抱いていた彼は「ミツ(光)」と名付けた猫と少年の交流をモチーフに、子供らしい素朴な絵のみで構成された40枚の素描画集『ミツ(Mitsou)』を出版する
1961年、当時フランスの文化大臣だった友人のマルロー(André Malraux)からローマのアカデミー・ド・フランス(Académie de France)の館長に任命されたバルテュスは、アカデミーのある由緒正しい建物ヴィッラ・メディチ(Villa Medici)の修復に全身全霊を捧げる
1962年、熱烈な親日家でもあるマルローからの命を受け、パリのプティ・パレ美術館(Petit Palais, Musée des Beaux-Arts de la Ville de Paris)での日本美術展開催のための選任者として訪れた東京で、54歳のバルテュスは上智大学フランス語科在学中の20歳の出田節子(Ideta Setsuko)と出会い、1967年に結婚する
1977年、妻を伴いスイス・ロシニエールに移住、260年もの歴史を持つスイス最大の木造建築「グラン・シャレ(Grand Chalet:大きな山の家)」が終の棲家となる
2001年、バルテュス死去 享年92歳

彼の友人には、俳優・詩人・小説家・演劇家のアントナン・アルトー(Antonin Artaud)、キュビスムの創始者である画家兼彫刻家のパブロ・ピカソ(Pablo Picasso)、彫刻家ジャコメッティ(Alberto Giacometti)、小説家兼哲学者のアルベール・カミュ(Albert Camus)、詩人ルネ・シャール(René Char)、「映像の魔術師」の異名を持つ映画監督兼脚本家のフェデリコ・フェリーニ(Fédérico Fellini)等の名立たる著名人が多い
そんな中、彼の葬儀の出席者のひとりがBono(U2)であったことにやや驚いている
彼は生前のバルテュスと面識があり、しかも和服を着ていたという.....


バルテュスについてはその名を知る程度で、ほとんど縁がなかった
彼を知るきっかけになったのは、たまたま招待券を持っていたためにちょっとした好奇心に駆られて?訪れた、『ド・ローラ・節子の暮らし展 ~バルテュス夫人、受け継いでゆく和の心~』だった (28日)

故バルテュスの未亡人、節子・クロソウスキー・ド・ローラ・伯爵夫人(La Comtesse Setsuko Klossowski de Rola)は、公私に亘りバルテュスを支えつつ、1970年代には夫の許し(「水彩画ならOK」)を得、自らも画家として活動を始める
バルテュス財団の名誉会長(2002年~)やユネスコ平和芸術家(2005年~)として社会活動に取り組む傍ら、現在は随筆家、作陶家としても活躍の場を広げている
彼女は40年以上ヨーロッパで生活し、知日家で着物好きであった生前のバルテュスの勧めもあり、祖母から受け継いだ着物を身に付けるなど普段から和服を愛用中
本展では、彼女の絵画作品をはじめ、手作りの着物や贈答品、制作のための愛用品、自身がデザインした食器などを用いた四季折々のテーブルコーディネートなど約180点を展示、日本人の和の心を大切にしつつ、和と洋、それぞれの良さを取り入れた美しく豊かな暮らしぶりを紹介している

四季折々の庭園の花や手作りの食器で設えたリビング、数々の手芸が彩る仕事部屋など、その高い美意識と深い愛情にはただただ驚嘆するばかりである
煙草の焦げ跡が付いたキルティングのちゃんちゃんこは、その象徴とも言えるだろう
心を込めて縫い上げた節子
長年愛用し続けたバルテュス
夫妻の深い深い愛情の絆にふと涙腺が緩んだ

幼少時に描いた猫の名前が日本名だったように、夫妻の子供や孫たちの名前にも和名を用いている
春美


その名に込められた想いもまた、涙を誘う
“新たな出発に心をときめかせ、物事に囚われず、賢く生きる―”


展示品のひとつに、ボノが贈ったメッセージ付きLP『Songs of Innocence』があった
その上には寛いだバルテュスに体を寄せ優しく話しかけるボノの姿を収めた、貴重なツーショット写真がひっそりと掲げられていた
その写真こそ、件の“彼は生前のバルテュスと面識があり、しかも和服を着ていた”ことを物語るものだった

Wim Wenders、Richard Gere、Christian Louboutinなど彼女の幅広い交流を示すセレブ写真の中で、一際目を引いた

バルテュスの葬儀の際、彼の墓前で鎮魂歌を披露したというボノ....
U2の最新アルバム『Songs of Innocence』に収められた曲のひとつだったのだろうか....

Song for Someone / U2
 

  
  もし常には見えない光があり
  常にはたどり着くことの出来ない世界があるのなら
  もしどうすることも出来ない闇があり
  それでも光があるのなら
  その光を大事にしてほしい


バルテュスは猫好きだった
彼の最初の作品に登場する猫の名前が「光」だった

偶然だろうか


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