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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

又吉直樹「火花」

2015-08-22 10:07:20 | 読書のススメ
★ネタバレなし★

芸人の又吉に芥川賞なんて!と批判する人が多いようだ。
私にはその批判の意味が少し理解しかねる。
なぜなら、「芥川賞」とは完成された作家に贈る名誉ある文学賞ではないからだ。
もともと、若手の作家の登竜門として設定されているものだ。
だから、当時十代だった綿矢りさも受賞している。
受賞以降ほとんどといっていいほど作風が変わった作家も大勢いる。

芸人だから受賞した、という側面もあるだろうが、「これからどうなるのかみてみたい」という意味もあるだろう。
もし本当に完成された作品しか受賞させないのなら、毎回受賞作が出ていることじたいが、おかしな話なのだ。
そして、受賞した作家がどれだけ「食っていけているか」を考えればこの文学賞の意味がわかるだろう。

と、批判に対する批判を申し上げてもあまり意味ないだろう。

私は彼がどのような漫才師なのかしらない。
読書家で多くの作品を読んできた知的な芸人であることは知っていた。
(NHKのEテレの「0655」に出るまではそれすら興味がなかったが。)

私はこの作品、おもしろいと思った。
なぜなら、この作品は、若手の漫才師にある戸惑いや挫折、逡巡をきっちりと描いているからだ。
「お笑いとは何か」を考えずに舞台に立つ漫才師はいない。
同時にそれは、自分とは何かということを考えることと同義だ。
そして、その問いは、きっと文学的価値、普遍的価値を有するものだろう。

私の知人に漫才師がいる。
いや、漫才師だった人がいる。
その人との交流を思い出しながら、私は読み進めた。
日々突きつけられるその問いに、漫才師たちは向き合っている。
私もその人と話をするとき、自分もまた同じようにその「生きていくために自分をどう生かすか(あるいは殺すか)」ということを考えさせられ続けた。
それは、十分漫才師以外にも耐えうる問いだろう。

その意味で、私は読む価値がある作品であり、また十分受賞に値する価値の作品だと感じた。

又吉直樹という作家がどのような作家なのか、それは今後の作品を読んでから評価すれば良い。


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2 コメント

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芸人の裏話 (iina)
2015-08-24 09:25:01
文藝春秋で芥川賞受賞作を読みました。

「火花」は、芸人の裏話ですね。
問題を起こす先輩タイプは、いるものです。本心か芸のこやしで演じているのか、わからぬ者もいますネ。師匠宅でウンチしてしこたま叱られたと方言するのは、果たしてどちらでしょうネ?
川柳川柳がその本人ですが、熱烈なファンも多く笑わせます。川柳が出た寄席に、後で出演した師匠が楽屋で何ごとかあったらしく、枕で川柳のことを狂ってると怒ってました。 問題児といっても84才ですが、日頃から問題行動を起こす芸人のようです。
http://eplus.jp/sys/T1U14P002155985P0050001

さて、又吉直樹さんは、次は何を題材に選ぶのでしょうね。

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返信遅れました。 (menfith)
2015-08-29 17:47:22
管理人のmenfithです。
人生2度目のぎっくり腰でした。
パソコンの前に坐ることもままならない状態でした。

>iinaさん
コメントありがとうございます。
返信おくれて申し訳ありません。

何にしても、やはり次の作品によりますね。
他の受賞作家と違って、注目度が高いぶん、本人にはきついでしょうが。
返信する

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