secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

グランド・ブダペスト・ホテル

2014-09-21 07:40:59 | 映画(か)
評価点:75点/2014年/ドイツ・イギリス/100分

監督:ウェス・アンダーソン

〈喪失〉と〈語り〉の物語。

現代。作家の墓の前で、ある1人の読者が彼の作品を紐解こうとする。
その作品にはその作家がかつて若い頃に聞いた話を語っていた。
その話は、1968年栄華を極めた「グランド・ブダペスト・ホテル」という山奥にあるホテルのオーナーの話だった。
そのオーナー・ゼロが若かりし頃(1932年)、まだ1人のスタッフ(トニー・レヴォロリ)として働いていた頃のこと、客から愛される1人のホテルマンがいた。
彼の名はムッシュ・グスタヴ(レイフ・ファインズ)だった。
彼からホテルマンとはなんたるかをすべて教わった。
しかし、あるとき彼の最重要得意客のマダムDが何者かに殺されてしまう。
彼女の遺言には、名画をグスタヴに譲るという内容だった……。

見た方が良いと勧められて映画館に向かった。
おそらく公開終了間際で、只でさえ単館上映だったのに、その一日だけの回で見にいった。
滑り込みセーフだと思った人間が多かったのか、映画館の中はなかなかの賑わいだった。

私はほとんど予備知識無しで、ヤフーのレビューが高いことだけを知って見にいった。
レイフ・ファインズが出ていることもあまり気づかずに見終わってしまった。
コミカルでありながら、テーマはしっかりとしている。
とてもおしゃれで、ウィットに富み、かつ鋭い物語だ。
もう映画館で見ることは難しいだろうが、機会があればぜひ見て欲しい一本だ。


▼以下はネタバレあり▼

ヤフーなどのあらすじでは、入れ子型になっていることが明確ではないが、この作品の特徴は入れ子型構造になっているところにある。
この作品についての予備知識をまったく入れずに私は映画館に向かった。
だからちょっと面をくらった。
なんでこんなに語り手が重層構造になっているかと戸惑ったのだ。
しかし、この映画の最大のミソはその点にあった。
非常に大人な物語で、映画をよく見た経験がないなら、きっとよくわからないまま良い映画だったと語ることだろう。
私が映画に詳しい人間だとは思わないが、ちょっとひねったこのような作品は大好きだ。

現代の読者が、四半世紀前に書かれた作品を、読むという導入で始まる。
さらにその作品はその作家が若い頃に聞かされた話を題材にしている。
その話というのは、すでに最盛期を過ぎたホテルが絶頂だった頃を舞台とした物語だ。
そのホテルがなぜオーナーの手に渡ったのか、といういきさつを語るものだった。
そのオーナーとなったグスタヴ・H(レイフ・ファインズ)がいかにしてオーナーになるかという物語はいかにもややこしい。

すべてのストーリーを並べていると無駄に文章が長くなり、日が暮れてしまうのでやめておく。
とにかく無実の罪をかぶせられたグスタヴがどのようにして自分の尊厳を取り戻すかという物語になっている。
しかし、本当におもしろいの彼が何のために自分の尊厳を取り戻そうとしたかという後日談が語れてからだ。

グスタヴは自分の無実を晴らすことに成功する。
グランド・ブダペスト・ホテルに再び栄光がもどる。
しかし、時代はきらびやかな好景気だったころから、既に第二次世界大戦のナチ侵攻が本格化していた。
既にグランド・ブダペスト・ホテルが必要とされた時代は終わっていたのだ。
この物語の最大のおもしろい点は、グスタヴはこの終わってしまった輝かしい時代をいつまでも終わらさずにとどめておこうとしたという点だ。
彼は自分が好きだった時代が終わってしまっていることに気づいてた。
しかしそれでも「この使用人は私が身元保証人だから連れて行くことは許さない」と頑固なまでに拒否する。
1度目はそれで許されたとしても、2度目は許されずに撃たれてしまう。

それはきっとグスタヴ自身も分かっていたのだ。
既にその文言は通用しないだろうということが。
それでも彼は頑なにその意志を曲げようとしない。
なぜなら、彼にとって守るべきは自分が大好きだったホテル(=時代・生き方)を曲げることを良しとしなかったからだ。
そして、すでに役目を終えたそのホテルを、若い作家(ジュード・ロウ)に語るオーナーの老人ゼロも、すでに過ぎ去ってしまった輝かしいホテルを、恋人アガサを思い出すために、守り続けている。
恋人アガサを本当に愛していたことを証明するために、確認するために、ホテルを守り続けているのだ。
誰も来ない、お一人様しか来ないような悲しいホテルは、そのことじたいが、アガサ以外を愛することなんてできないことを宣言するかのようだ。

そしてまた、その小説を読んでいる現代に生きる名もなき少女もまた同じだ。
「グランド・ブダペスト・ホテル」という小説を読みながら、かつて輝かしいキャリアを持っていた作家の作品を頑なに読みながら「かつてあった大切な過去」を守り続けているのだ。
だからこの作品はこの重層的な語りをもってして、「ホテル」という閉じられた空間と時間を守り続けるということを示している。

この重層性を抜きにしても、非常に語り口が上手い。
コミカルでかつ、スリリング、サスペンス効果は高い。
物語の中身をしっかり描きながら、こうした語りのうまさ、物語構造の深さをきちんと描いている。
どうしてもキャスティングに目が行くが(私は見終わるまで知らなかったが)、それ以上にこの脚本と演出はすばらしい。

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