secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

her 世界でひとつの彼女

2014-07-01 17:43:34 | 映画(は)
評価点:86点/2013年/アメリカ/126分

監督・脚本:スパイク・ジョーンズ

It's just time to say good-bye.

セオドア(ホアキン・フェニックス)は、幼なじみだった妻との離婚を控えていたが、なかなかサインすることができなかった。
彼は手紙の代筆業者のエージェントだった。
そんなある日、街で見つけた最新の人工知能OSを知り興味がわいて購入する。
そのOSは「サマンサ(声:スカーレット・ヨハンソン)」と名乗る女性のOSだった。
あまりに自然な彼女の口調に、彼は少しずつ惹かれていく。

「マルコヴィッチの穴」などの監督、スパイク・ジョーンズの作品だ。
今回は脚本も担当し、その脚本がアカデミー賞に選ばれた。
他にも様々な賞を受賞したり、ノミネートされたりしている。
特に、一切顔を出さないスカーレット・ヨハンソンが女優賞を獲得している賞もあるところがおもしろい。

スパイク・ジョーンズなので、一筋縄にはいかない話になっている。
OSと出会ってからの話の方向性がなかなか見えてこない。
しかし、エンドロールが始まったとき、この物語の意味が見えてくるだろう。
非常におもしろい。
夏休み前のおすすめ映画である。

▼以下はネタバレあり▼

iPhoneのユーザーでなくとも、音声によるスマートフォンやパソコンのオペレーション・システムは、いまや現実的なものになってきた。
若干話し方に違和感はあるものの、会話が成立していると言えなくもないやりとりができるようになってきた。
それは単なる「命令するもの」と「それを実行するもの」という関係性からやや発展した来たものになりつつある。
だから、この映画にあるOSと恋に落ちるという話は、少し前までは完全に絵空事だったかもしれないが、現実に起こりうるかも知れないと思わせる設定になっている。

たまたまだが、この映画を観たとき、このあと「トランセンデンス」という別の映画を見にいった。
なんとまあ、似た話であることか。
「トランセンデンス」は別の記事に書くが、若干両者を比較してしまっているところはある。
「her」を見た人は、是非、こちらのほうも見てみて欲しい。
同時期の作品で、これだけテーマとモティーフが似ている作品も珍しい。
真逆のアプローチという点も見逃せない。

話が脱線したが、この話はOSと恋に落ちる物語ではない。
正確には、「恋人に別れの手紙を出すまでの物語」である。
あるいは「きちんと別れを言うための猶予期間の物語」と言っても良い。
この映画がスパイク・ジョーンズらしいというのはそのあたりに表れている。

主人公のセオドアは最近妻と別居し、離婚届にサインを迫られている。
しかし、彼はまだその悲しみを乗り越えることができない。
そしてまた、彼は手紙の代筆を行う仕事に就いている。
他人の手紙なら、驚くほど気の利いたことを書くことができる一方で、彼自身の妻へどのような内容の手紙もまだ書くことができていない。
それがセオドアの課題である。
いわば、彼は仕事で名文が書ける自分と、本心を綴った手紙が書けない自分とが分裂しているわけだ。

OSに恋をする、というとどこかヲタクめいていて、現実離れをした、現実を見つめられない人物にみえるが、実際にはOSを通して、彼は妻との別れに向き合っていく。
それが明かされるのは最後の最後だ。
だからこの映画を観ていて、「話をどういう方向性にもって行きたいのか」という戸惑いを感じる。
OSに本当にのめり込んでしまうのか。
あるいは中盤に登場する、サマンサの「身代わり」と恋に落ちてしまうのか。
サマンサと出会うことで、妻との関係性が改善されるのか。
少しだけ付き合ったことのあるエイミー(エイミー・アダムス)とくっつくことになるのか。
様々な可能性が考えられるため、見ている方は混乱してしまう。
その迷いはまさに、サマンサに恋をしてしまったセオドアの迷いそのものなのだろう。

しかし、サマンサは人工知能として成長を極め、一つの存在として、ネットワークとして個を保てなくなってしまう。
無限の可能性を知り、OSであることさえ辞めてしまう。
急速に進化した結果、存在し得なくなってしまう。
このあたりは「トランセンデンス」と比較するとおもしろい。
無限であるということは、消滅するということと同義なのかもしれない。

とにかく、自分の元を去ったサマンサとの時間は、確実にキャサリンと向き合うための時間を用意してくれていた。
別れるということは、自己否定でもなく、過去の否定でもない。
お互いがお互いを一歩先に進めてくれる出来事なのだということに気づかされるのだ。
そして、キャサリンとの別れを決意する。
その決意は、「離婚届にサインすること」ではない。
彼女へしっかりとした本音で手紙を書くことなのだ。
言葉にすることで人は悲しみを整理し、区切りを付ける。
サマンサを失ったことにより、セオドアはきちんと悲しみに向き合い、別れに向き合うことができたのだ。
ラスト、エイミーとともにその悲しみに浸っている。
それはエイミーとの新たな恋を意味するのではない。
それは悲しみを悲しみとして向き合うことでしか、悲しみは癒やされることはないということをお互いが理解しているからだ。
エイミーもまた離婚を経験し、OSとの別れを悲しんでいる。

この映画のすごいところは、このテーマと結末が秀逸な点だ。
OSに恋をするという設定は誰しも思いつきそうな題材だ。
しかし、それをOSに溺愛して成就してしまうというようなリアリティではなく、しっかりと現実に目を向けさせる契機として用意している。
その切り取り方は、やはり鬼才のスパイク・ジョーンズならではだと言えるだろう。

しかし、そんなことはどうでもいい。
そんなことはどうでもいいのだ(李朝風)。
おれが言いたいのは、テーマのほうではない。
OSになったスカーレット・ヨハンソンのエロさのほうを、おれは言いたかったのだ。

……。
ともかく、セオドアとサマンサの(疑似)セックス・シーンはこの映画を見にいかせるだけの価値がある。
私は何度かこの映画で涙したが、一つはこのシーンだった。
すばらしく美しく、すばらしく幻想的だった。
愛を感じるのに、肉体は必要なのだろうか。

スカーレット・ヨハンソンが単なるエロい(容姿の)女性ではなく、すばらしい女優であることが証明されたような配役だった。
ブルーレイ購入決定ですね。

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2 コメント

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Unknown (絨毯リュックと爆弾おにぎり)
2014-07-06 18:30:33
本日、鑑賞しましたが、相変わらず鋭い批評で感激しました。

スカーレット・ヨハンソンと言えば、LUCY/ルーシーも彼女の魅力が詰まっていそうで楽しみな映画ですね。
予告を見る限り、映画の出来としてはどう転ぶか怪しい気もしますが…笑

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あんなOSが欲しい (menfith)
2014-07-06 20:59:05
管理人のmenfithです。
大阪はやっと梅雨らしい天気になってきました。
来週台風はちょっと余計ですが。

>絨毯リュックと爆弾おにぎりさん
書き込みありがとうございます。
あんなOSがあればいいんですけれどね。
さすがにsiriもあそこまでなめらかに返してくれないですね。

スカーレット・ヨハンソン、また新作公開されるんですね。
知りませんでした。
リュック・ベッソンですか。
かなり不安な感じですが……。
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