secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ビッグ・フィッシュ

2008-11-11 23:40:47 | 映画(は)
評価点:87点/2003年/アメリカ

監督:ティム・バートン

これぞ、CGの正しい使い方!

ウィル・ブルーム(ビリー・クラダップ)は、父エドワード(アルバート・フィニー)の話がいつも荒唐無稽なことに、疑問を持っていた。
自分の結婚式の日にも、伝説の川の主を釣り上げたというウィルの「誕生秘話」を話す父に対し、ウィルは怒ってしまう。
その後、父親が病に臥せってしまうまで、殆んどお互い話さなくなった。
父親の容態が悪化し、帰省すると、ウィルは、父親の話の真意を確かめようと、本人に確かめるが、、、。

「シザー・ハンズ」「マーズ・アタック」などの数々の名作(迷作?)を世に発表してきたティム・バートンのファンタジー・ドラマ。
彼は、子どもの頃から日本の特撮映画にあこがれてすごしたそうだ。
独創的な世界観の由来は、日本の「ゴジラ」などにあったのかもしれない。

髪の毛を切りに行くと、そこのお兄ちゃんに、「ビッグ・フィッシュは観にいくべきですよ、僕も泣きました」と言われたので、衝動的に観にいく事を決定した映画。
他の人からも良いとは聞いていたので、期待して観に行った。
そして、見事に泣いてしまった。
ティム・バートンのマジックに拍手、という一言に尽きるだろう。

▼以下はネタバレあり▼

ストーリーにも書いたけれど、父親の荒唐無稽な話を信じられない息子が、父親の物語の「真相」を突き止めようとする話である。
単純な構造ではあるが、回想(父親のお話)と現実という二項対立の世界を、上手く操作している。
ある時は、父から子へ、ある時は、父から義理の娘へ、父をよく知る女の人から、息子(ウィル)へ。
話し手と聴き手が微妙に変っていくため、飽きさせない。
また、「事実を追う」という大きな目的があるため、全てを「過去」として位置づけてしまうこともない。
単なる回想を、単なる過去として描かなかったのは、非常に上手かった。

また、そこに描かれる独創的な世界も、非常に好感が持てる。
大きすぎる男、下半身がくっついた双子、夢のような街、伝説の川の主などなど、とてもユーモアに溢れ、そして人々をひきつける魅力を持った世界である。
この温かさに溢れる世界も、この作品の大きな魅力である。

さて、そろそろ物語のテーマについて言及しよう。
結論から言って、父親の話していた内容の殆んどは、事実を脚色された「ウソ」の物語だった。
それは「big fish」という語が「ほら吹き」という意味を持っていることでもわかる。
しかし、ここで問題なのは、「ウソ」か「フィクション」かという区別である。

「ウソ」は正に「虚偽」であり、「事実」や「真実」とはある種対極にあたる。
しかし、「フィクション」は「虚構」であり、「事実」、特に「真実」とは対極にあたる語ではない。
むしろ、物語や小説というのは、その「フィクション」を追求する事によって、「真実」「真理」を追求するものである。
この作品の中の父親の話は、言うまでもなくこの「フィクション」なのである。

父親の話す話は、全て父親が受けた印象(あるいは表象)によって成り立っている。

大きな魚 → 「なかなか見つけられない」宝物(息子・ウィル)
5メートルの大男 → 巨大に「見えた」2メートルの大男
下半身が一つの双子 → 息のぴったりあった「一つに見える」双子
美しい街 → まるで「御伽噺のような」美しい街

などなど、父親の話は、事実とは異なり、多分に脚色されている。
しかし、父親の感動を伝えるためには、必要な「フィクション」だったのである。
「大人の話は短すぎて面白くもない」という父親の話の通り、彼は「面白い」話を、そして出会った感動を息子に伝えたかったのである。
その感動は、やはり「真実」なのである。
事実を淡々と伝えるというのは、確かに正確に伝わるかもしれない。
しかし、感動や気持は伝わらない。
父親が伝えたかったのは、後者の方だった。
だから、彼は息子を「だまし続けた」のである。

この映画が温かいのは、この父親が触れた、父親が描く世界が温かいからである。
父親も、だまされたり、裏切られたりしたはずだ。
しかし、それでも温かい話をしてあげられるほど、彼は人の心にふれてきたのである。
それを象徴するのが、彼の話なのだ。

しかし、ここで確認しておかなければならないのは、「真実」のためなら「事実」をねじまげてもいいということではない事である。
息子のウィルが、父親の話が事実に基づいたフィクションであったことを知るために、事実を追い求める。
結果、それは「真実」を照らすフィクションであったことに気づく。
この「事実」を追うという手続きがなければ、父親の「真実」にもたどりつく事はできなかった。
あくまで、「事実」に即した「フィクション」であることが重要なのである。

それは、ウィルが「ビッグ・フィッシュ」にたどり着いたという意味でもある。
父親にとっての「ビッグ・フィッシュ」は、息子という存在だった。
そして、ウィルにとっては、父親の話に溢れている「真実」が「ビッグ・フィッシュ」だったのである。
つまり、彼もまた、父親の話の真相を追うことによって、「ビッグ・フィッシュ」を見つけ出し、釣り上げたのである。

どれだけ大きな魚であっても、やはり釣り上げてみないと、その存在を確認できない。
必死に釣ろうとした結果、死ぬ間際に、「釣る」ことができたのである。
それは、父親と同じように感動を話で伝える事が出来たということに他ならない。
しかし、川の主は、そうそう飼いならされたりしない。
すぐにまたウィルの元を去ってしまう。ちょうど、父親が逃がしたように。

特別な魚「ビッグ・フィッシュ」。
それは、家族といる幸せであり、荒唐無稽な話で楽しませてくれる父親のことなのである。
それは、なかなか見つからない。そういう特別な魚なのである。

最後に、俳優について。
回想の中の、父親はユアン・マクレガー。
もういい年なのに、18歳の役で登場するのはすごい。
(「キャッチ・ミー~」のディカプリオよりは違和感があったが。)
そして恋人のサンドラは、なんと、あの「マッチスティック・メン」の娘役だったアリソン・ローマン。
14歳の役をやっていた彼女が、まさかまさか、という感じ。

心温まるCGの使い方にも、賞賛を送りたい。
CASSHERN」とはえらい違い・・・

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アドレナリン(V) | トップ | スピード2(V) »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
初めまして (ゆうこ)
2013-12-23 23:37:46
私は先日ビッグフィッシュをみました。(偶然テレビで)なぜか感動し人生で一番好きな映画になりました。bootsさんのブログを読んで、より理解が深められさらに好きな映画になりました。ありがとうございました。
返信する
書き込みありがとうございます。 (menfith)
2013-12-29 15:07:47
管理人のmenfithです。
年の瀬ですね。
私も仕事納めで、今日から休日です。
大掃除でゆっくりはできませんが、ゆっくり風呂を掃除しました。
おかげで手が塩素くさい……。
明日にはもう一本、アップしたいと思います。

>ゆうこさん
はじめまして。
書き込みありがとうございます。

この映画いいですよね。
あまりテレビでやらないから、出会うのは難しいのが残念です。
もっとこういう映画を地上波でもやってほしいと思います。
9時からやるような映画はどれも売れているものばかりで、新しい発見やもっと映画が好きになるようなものではないのがちょっと。

ティム・バートンのスマッシュヒットの「ビッグフィッシュ」がお好きなら、「ネバーランド」もいけるはずです。
ぜひ。
返信する

コメントを投稿

映画(は)」カテゴリの最新記事