ほわみ・わーるど

超短編小説会にて短編小説を2013年より書き始めました。
これからも続けていきたいです。

十倍返し

2013-08-28 22:24:06 | 創作
姉ちゃんは美人だけど頭が弱いんだと19歳の里美は思う。
5才ほど離れているせいか、里美の姉、美津は里美に対しても姉というより母親のように接してくれ、幼い里美の手を引いてどこかへ連れてってくれたりした。

美津は高校を出ると近くのスーパ-マーケットで働きだした。
品出しをしたりレジを打ったりして、もう6年も働いていることになる。
里美は大学に行って気ままなサークル活動をしてコンパに行ったり、合コンに参加したりで将来出世しそうな彼でも探そうかと思っている。

姉に彼氏ができたようだ。
里美から見れば何とも頼りない、何考えているかわからないようなフリーターの高志である。

「お姉ちゃん趣味悪いよ。あんなはっきりしない男どこがいいのかわかんないよ」

「でもね、何かあの気の弱そうで、私がいなければ生きていけなそうな人って、
ほっとけないんだよね」

「生活だって苦労するの分かっているじゃない。ちゃんとした職もついていないし」

姉は里美の目をじっと見て言った。
「高史の子どもができたようだから産むことにするよ。子どもって苦労してもうまく育てれば倍返し、十倍返しとかしてくれるみたいだからね…」

お姉ちゃんはやはり馬鹿であると、里美は思う。あんな貧乏人と結婚して子どもまで作ったら苦労につぐ苦労だ。
でもお姉ちゃんの子ならもしかして十倍返しとかしてくれるかもな、と
姉の菩薩のような横顔を見ながら里美は思った。
2013/08/28 09:33

遠いまなざし

2013-08-19 18:45:40 | 創作

庭先に来る野良ねこにも表情というのはあるもので、エミを見るとニッとわらったりすることもあるのである。

その朝のその黒ねこは、いつものようにエミから少しのかつお節とカリカリをもらうと、
またいつの間にか帰って行った。でもエミをみるときいつもとは違って遠いところを見るような眼をしていた。
次の朝、黒ねこは来なかった。
もう1年以上通ってきていたそのねこに、エミはコタローと名前を付けていた。

「コタロー、もう来ないかもしれないよ」
エミは起きてきた息子に言った。
「だって最後におとうさんみたいな遠いところを見るような顔していたもの」

あの眼に何故か、やはりねこ好きだ夫の表情を思い起こさせた。
身体の弱っていった夫もあんな遠いまなざしをしていたことがあるような気がしてならない。

暑さにやられたのかあの日からコタローは姿を見せない。
2013/08/19 21:58