MY LIFE AS A DOG

ワイングラスの向こうに人生が見える

うなぎとナチスとブリキの太鼓

2004年04月30日 02時59分26秒 | 映画
フォルカー・シュレンドルフの快作「ブリキの太鼓」を約20年ぶりに観ました。
結論から言うと、やはり素晴らしかった。20年前と同様、なんともグロテスクでかつ卑猥な映画であることに何ら変わりはないのだけれど、見終わってからまるでするめでも噛むかのようにじわりじわりと込み上げてくるものがありました。

この作品はノーベル賞作家でもあるギュンター・グラスの代表作“ダンツィッヒ3部作”といわれる長編の一部を映画化したもので、舞台はポーランドのダンツィッヒ(現在のグダニスク)。
第二次大戦前のナチスの影が忍び寄るこの町で3歳になるオスカルは自らの成長を止め、いつまでも子供のままでいることを選択します。たくさんの大人たちが時代に翻弄される悲喜劇を平然と眺めながら、大人になることを拒否したオスカルはひたすらにブリキの太鼓を打ち鳴らし、その音色に導かれるようにダンツィッヒは第二次世界大戦の泥沼へと足を踏み入れていくのです。

この映画は、明らかにどこにでもある感動的な反戦映画とは一線を画します。この映画の印象を何と表現すればいいのでしょうか?
まるで情報が大脳皮質を経由していないかのような感覚とでもいいましょうか。
とにかく嫌悪と恥辱とに満ちた様々なシーンは見る者にある種の分裂症的感覚を抱かせずにはおきません。

腐敗した牛の生首の腔という腔から、うじゃうじゃと這い出すうなぎ。岩陰で激しく嘔吐する母親。女の掌に溜まったねっとりとした唾液。個々の強烈なイメージがダンツィッヒという町が辿ってゆく狂気と退廃に彩られた大戦の歴史を暗示する強力なメタファーとなっているのです。
これらのイメージはそれぞれがたまらなく不快で、時に苛立たしく、成長を止めた主人公の目にはそのすべてが意味のない荒唐無稽なものに映ります。

イデオロギーも、レジスタンスもセックスもありとあらゆる大人の所業がブリキの太鼓以上の価値を持たない世界!!!
これを、史上最高の反戦映画といわずしてなんと言えばいいのでしょうか?

まだご覧になったことのない方は是非!
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2 コメント

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Unknown (N)
2006-04-15 11:33:42
6月が過ぎれば、暇になるのでまた貸して下さい。グロという表現方法大好きです。
こんにちは (kazu-n)
2006-04-16 17:12:55
Nさん

こんな初期の記事にまで目を通してくださってありがとうございます。

どうぞどうぞ是非観てください。



アレゴリー(寓意)のない映画は映画ではないと宮台真司がのたまっておりました。

この映画こそアレゴリーのかたまりだと思います。

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