松本健史の「生活リハビリの達人」になろう!

超高齢社会の切り札「生活リハビリの達人」になる!講師・原稿依頼は matumomo@helen.ocn.ne.jp まで

自選 2011年のBEST WORKS 『お笑いに学ぶ認知症ケア』ボケ編

2011年12月24日 | Weblog

みなさんメリークリスマス!

お笑い好きのかたにXmasプレゼントです。

 今年いくつか原稿を書きましたが、自分なりに気にいってる原稿を再録します。お笑い好きな方に是非読んでほしい一品です。

 

お笑いに学ぶ認知症ケア(ボケ編) 雑誌ブリコラージュ5月号掲載

 

僕は根っからの関西人、お笑い番組をビデオにとって休みの日に観るのが大好き。視聴の仕方もただ単に流して見るのではなく、いちいち巻き戻して確認、「このネタフリが効いとるなー」なんて分析しています(家内はあきれている)。そんな僕に研修会の講師依頼がきました。「よしお笑いに学ぶ認知症ケアでいこう」と。これが意外と好評でした。参加者からは「お笑いをそんなふうに考えたことなかった」「現場で使えそう」という感想をもらいました。今回から2回にわたってその「ネタ」をお届けしようと思います。お笑いが好きな人、ただ「ガハハ」と笑ってるだけではもったいないですよ。お笑いにはケアのヒントがいっぱい詰まっているのです。題しまして「お笑いに学ぶ認知症ケア」ボケ編・ツッコミ編です。

 

 

 

 

 上沼恵美子さん

 図 上沼恵美子さんのギャグ

 

 

「こんばんは藤原紀香でーす❤」この人は認知症ですか?

まず最初に上沼恵美子さんのギャグを分析してみましょう(図)。「こんばんは藤原紀香で~す」上沼さんが番組の最初にいう、いわば「つかみ」のセリフですね。

研修会ではこんなやり取りがありました。

僕「この人、あきらかに藤原紀香じゃないのに、『藤原紀香です』と言ってますね。認知症なんでしょうか?」

参加者「いえ、これはボケているだけで、認知症ではないです」

僕「あ、ボケてるんですね。フムフム・・・でも『ボケ』って近頃言っちゃいけない言葉で、認知症って言い変えなさいって言われてますもんね。やっぱりこの人、認知症なんでしょうね。」

参加者「・・・うーん、上沼さんは自分がそんなに美人じゃないって知ってるはず。でも、あえて藤原紀香ですと言って、『そんなええもんちゃうで!』というツッコミをもらって笑いをとってるんだと思います」

僕「上沼さんはわかってやってるからお笑いのボケ、もしこれを本気でやってたら認知症だと、そう考えていいんですね?」

参加者 「・・・うーん、同じボケっていうけど、一緒にしてもいいのかな・・・?」

 

お笑いの「ボケ」とはセルフイメージのずらし

人は「自分をよく見せたい」と見栄を張るもの。上沼さんの「ボケ」は、人間の性(さが)を表現しているのです。これを高齢者の方に当てはめるとどうでしょう。昔はバリバリ仕事をしていたお父さん、子育てで家を切り盛りしていたお母さん、周りから認められ、居場所と役割があった。そんな人が年をとり身体が動かなくなり、世話が必要になってきた。さてそのあと、どんなことが起こるでしょう。自分の出来なくなった状況を認めて「わしも年老いた、できん部分は他人(ひと)に頼ろう」とセルフイメージを修正する人、「いやまだまだできるんだ!俺を馬鹿にしているのか!」とセルフイメージが「デキル自分」のままの人。意図的にセルフイメージをずらしているのが「お笑いのボケ」、本気でやっていたら「老いと葛藤しているお年寄りの姿」、そう考えることができます。この「セルフイメージのずれ」が2つの「ボケ」(お笑いのボケ、お年寄りのボケ)どちらにも存在していることがお判りいただけたと思います。「いま、この人はどんなセルフイメージを持って世の中と対峙しているのか」「どう世間から見られている(あるいは見られたい)と思っているのか」その人のセルフイメージを知ることは関わりの第一歩。お笑いの「ボケ」は私たちのケアに重要なヒントを与えてくれていると思います。

 

『痴呆論』を読もう!認知症の3分類 

三好春樹氏の「痴呆論」(雲母書房)は現場で役に立つ考え方とケアが書かれています。ぜひ読んでほしいです。難しくありません。セルフイメージのズレをお笑いで理解したアナタならスッと頭に入ってくると思います。

認知症の一般的な分類にはアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症などの名称が並びます。しかし、これがカルテに書いてあったからといって現場で役に立つでしょうか?あまり役立ちませんね。だって明日からどうしてあげるといいのか、その病名たちは教えてくれません。現場で本当に役立つ分類はこの本でも紹介されている竹内孝仁氏の3分類です。

≪竹内三分類≫

葛藤型 老いて介護を受けるようになった自分を認めることができず現実と葛藤するタイプ

回帰型 老いて介護を受けるようになった自分を認めることができず自分らしかった時代に回帰するタイプ

遊離型 老いて介護を受けるようになった自分を認めることができず目の前の現実から遊離するタイプ

 

3タイプにどう関わったらいい?

この3分類をチームで共有すると、こうしてあげたらいいんじゃないかという「仮説」を立てることができます。明日からできる関わり方の例をあげてみましょう。

葛藤型への対応

多くの葛藤型はレクリエーションを「子供だまし」といって嫌います。しかし審判や賞状を渡す係など事務方にまわってもらうと役割がみつかることがあります。

回帰型への対応

その方が回帰している時代は人生の中で最も自分らしかった頃。その人がやりがいと考えていたものを用意してみましょう。たとえば大家族にご飯を用意するみたいなシチュエーションです。がぜん張りきる方がいらっしゃいます。

遊離型への対応

世間と膜を隔てているような状態です。風船バレーで勝利して喜んで手を握りあったときにその人を覆っていた膜が消え、初めて現実世界で会話ができた、なんてことも起こります。遊びリテーションを子供だましだという人はこういう経験がないのです。

 

実は僕らもやってるんです!

認知症の3分類と言われますが、これらの心理状態は何も特別なことではありません。僕らの生活を振り返ってみましょう。僕たちも日々、何かに葛藤したり、回帰したり遊離したりしているんです。

前述の3分類の「老いて介護を受けるようになった自分を認めることができず~」という部分を「給料が安く理想の生活が送れずにいる自分を認めることができず~」に置き換えてみましょう。我々の営みの多くは以下の3つに分類することができます。

葛藤型・・・転職を繰り返す FXに手を出す 銀行強盗

回帰型・・・懐メロファン 骨董品コレクター 居酒屋で「昔はよかった」を連

遊離型・・・ゲームおたく バックパッカー 新興宗教に入信する

さて、あなたはどのタイプでしたか?これをみると将来自分がどのようにボケるかも予測がつきそうです。学生時代、現実から離れインドを放浪していた僕は、きっと遊離型になるでしょう。むむ・・・最近インドツアーを繰り返している三好さんもあやしい!きっと遊離型のおじいさんになる!

三好さんを介護するならホワイトボードとマジックを渡してフムフムと話を聞くと機嫌がいいでしょう(笑)。

 ※いかがでしたか?お笑いにはケアのヒントがたくさん詰まってるでしょ?次回はお笑いに学ぶ認知症ケア(ツッコミ編)を掲載します。お楽しみに!

 

 

 

 

拙著『生活リハビリ術』でも認知症を病気として扱う前になにができるか?詳しく書いてます。お笑いに学ぶ認知症ケアが楽しめた方は本書の認知症ヲ病気ニスル前ニ(p104)や 尿意表現ハ自由ダ!(p34)などをぜひ読んでみてください。きっと楽しく実践していただけることと思います。

 

「生活リハビリ術」

~介護現場の理学療法士が提案する21の方法~

松本健史著

発行ブリコラージュ

発売筒井書房

定価1680円(税込) 


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