松本健史の「生活リハビリの達人」になろう!

超高齢社会の切り札「生活リハビリの達人」になる!講師・原稿依頼は matumomo@helen.ocn.ne.jp まで

雑誌ブリコラージュに原稿書きました「生活リハビリの達人への道」その3 全文掲載

2013年04月08日 | Weblog

Mission3 「フロフェッショナル」ニナレ! (前篇)

前回、ケアをする際、「目と手と心を大切にせよ」というメデシン仙人が現れました。いつの間にか新人介護職の『僕』はこの仙人に弟子入りした格好になってしまいました。最近はいつも、僕が介護現場で困ったら、この仙人が現れて相談に乗ってくれています。

 

 

メデシン仙人 

自称「生活リハビリの達人への案内人」

できる動作を見極める「目」

環境を整え、介助する「腕」

やる気を引出し、支える「心」

この目(メ)・手(テ)・心(シン)が名前の由来。

 

生活習慣を大切に!

その日、僕は落ち込んでいました。施設でお年寄りの入浴拒否があって、「入りたくないとゆうとるだろ!」とある男性から怒鳴られ、とてもへこんでいました。「また拒否された。入浴って難しい・・・」とため息をついているとモクモクと煙がたち、メデシン仙人が現れました。「お前、入浴のことで悩んでおるな。それではお前に質問じゃ、ヒトは何のために風呂に入るんじゃ?」

僕は答えました。「もちろん清潔のためです。」

「清潔のためか?でも清潔だけのためなら、シャワーでよいではないか?欧米ではシャワーが主流じゃ、わざわざ湯舟につかる必要はないではないか?」

「たしかにそうですね。しかし僕は毎日湯舟につからないと気がすみません。」

「そうじゃろ!日本文化における入浴の重みは他の文化とは違うんじゃ。参考までに聞こう。お前のフロの入り方を言ってみ!」

「僕の風呂の入り方なんか聞いてどうするんですか?なんかいやらしいなぁ」

「何をバカなことを言っておる!真面目な話じゃぞ!変な意味など毛頭ないわ!お前こそ変態ではないか?さぁ、お風呂の入り方はどーするか言え!」

「え、どーするって言われてもフツーだし。服脱いで、裸になって、身体を湯で流して、ドボンと熱めのお湯につかり・・・。」

「そう!そこで歌うんじゃろ、♪あなたーを待つのぉ、テニスコォトー、ゆうて、え?どうじゃ当たっとるか?」

 「わっ古(ふる)っ!勝手に決めないでください!歌ならAKB48です」「よけいにキモイわ!ま、なんでもよい。とにかくみんな、それぞれに、ゆずれない風呂での過ごし方があるわけじゃ。『生活習慣を大切にする』1)というケアの原則があるのを知っておるか?」「いえ、知りません」「そんなことだから、お前ら施設ケアの連中は平気で人の生活習慣を奪って、それに気づいてもおらんのじゃ!」

 

テルマエ・ロマエに学べ

仙人は僕に漫画を一冊手渡しました。「この漫画読んだか?」「テルマエ・ロマエ?いえ、まだ・・・」

「この漫画のルシウスという主人公は、ローマの公衆浴場の設計を任されて、思い悩むあまり、日本の銭湯にタイムスリップしてしまうんじゃ。そこで日本のお風呂文化のすごさに気付いて、それを取り入れていく。その結果、古代ローマのお風呂がどんどん活気づいていくという話じゃ。これは象徴的じゃ!外国人が憧れている日本の入浴文化を、当の日本人がその素晴らしさに気づかずに、ないがしろにしておるのじゃ!」

仙人は熱く語り始めました。「これから、この和の心を大切にした入浴ケアをしていくのじゃ。病気をして、『もう前のように湯舟につかることはできない』とあきらめている人もたくさんおる。そんな人に機械のお風呂で、ウィーンジャブジャブって入れておるじゃろ。ワシ、アレ『てんぷら式浴槽』って呼んでおる。あれに入れといて、「お風呂気持ちいいですか?」って聞く奴。ワシは開いた口がふさがらなんだ。あれは風呂とは別モノ!いわば『人体洗浄機』じゃ!これからのアンタの風呂はコレ!と言われたらヒトは『あぁ、病気したから、もうこんな風呂にしか入れないのだ・・・』って気持ちが沈んでいくわの。お前、てんぷらみたいに揚げられた経験あるか?ないじゃろ。そんな生活習慣を持っている人はおらぬ。日本人にとって肩までつかってフーッと一息ついて、その日の疲れを癒す、それが生活習慣じゃ。熱めがいいか、ヌルめがいいか、寝る前に入るか、そういった、その人らしいお風呂をつくる気合いを持っておるか?」仙人は顔を紅潮させ、唾を飛ばし、なにやらどんどん興奮してきている様子です。そして、こう言いました。「その男性は入浴拒否があると言ったな?その人はどんな人生を送ってきたのか?どんなお風呂でカラダを癒してきたのか?それを知っておるか?」「・・・いえ、一度も考えたことがありませんでした。」「な、本人さんのその人らしい風呂づくりもせんと、入浴拒否とか不穏とか、そんな一言で片付けたりしてはイカンぞ!」

 

 

手づくりお風呂技師、発見!

お年寄りに喜んでもらえる浴槽を手づくりしたヒロノ君

 ブロック、酒瓶のケースなどで半埋め込み式浴槽が完成!

 

  仙人に言われっぱなしで悔しい思いをしていたのですが、頑張っている介護職をみつけました。京都府伊根町にあるT老人ホームのヒロノ君です。彼は勉強熱心で、個浴を導入した近隣のデイサービスを訪ね、入浴介助の実習を志願しました。そして自分の施設の入浴委員会に「個浴があれば、あの人も、この人もお風呂に入れてあげられる!」と熱く語りました。そして委員会メンバーであちこちからブロックやらビールケースやらを収集し、完成したのが写真のお風呂。なんと重度の人でも入りやすい半埋め込み式の個浴を自分たちで作ってしまったのです。

僕はうれしくて仙人に報告しました。「いました!いました!テルマエ・ロマエの技師みたいなすごいのが」

「フムフム・・・」興味深そうに聞いていた仙人は、目に涙を浮かべ、「今の若モンも捨てたものではないな。そんな生活習慣を大切にした風呂を実現する人間をワシは待っておった。その者こそ真のフロフェッショナルじゃ!」

うまいこと言うなー、ワシ!という得意げな顔をして仙人がこっちを見てきましたが、完全に無視してやりました。そうするとグーッと顔を近づけてきて、こう言いました。「次回は実践編じゃ。話が風呂だけに“ゆー”だけで終わったらイカンぞ」これからもこのダジャレと付き合わなければいけないかと思うと、先が思いやられます。(つづく)

 

参考文献

1)高口光子『リーダーのためのケア技術論』(関西看護 出版)2005
ケアの3原則 ①寝たきりにしないさせない、②生活習慣を大切にする、③主体性・個性を引き出す、が提唱されている

 

 

テルマエ・ロマエ ヤマザキマリ (著)  出版社 :エンターブレイン

舞台は西暦130年代の古代ローマ帝国。公衆浴場の設計に悩む技師ルシウスがいた。湯につかっていたルシウスがひょんなことから日本の銭湯にタイムスリップしてしまう。ルシウスは日本のお風呂文化に触れ、ローマの公衆浴場を変革し、旋風を巻き起こす。読みながら日本のお風呂文化の奥の深さに触れることができる。

 

 


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