現象

図書館の2階の窓から UFOがいくつも視えて
それが室内灯が反射しているだけだと
気付いたのは割合にすぐだった
僕は市美術館で買ったマグリットの複製画を眺めながら
庭でむしったトマトをかじった
マクラーレンが下品な音を立てて表を行く
木々が揺れ
隣の犬が吠える
今日は月がきれいだ
それが室内灯だと気づく前に 酒を用意すべきだったが

ほらまたセミ

ほらまたセミが死んでいる
いろんな
死に方を見せてくる
ほら
夏になれば日毎にセミが死んでいる
寿命で死ぬものもあれば
不慮の事故で散るものもあるが
やはり大概は
三島由紀夫を読まず
奈良の仏寺群を見物せずにして
無念の死を遂げるのではないか
せめて
せめて後1週間もあれば世紀の都議選を見てから死ねたであろうに
今日はマンションの前でカマキリが死んでいたし
干からびて色の抜けたカエルがどざえもんのように死んでいることもあるし
昨日録画したNHKドラマの再放送はまだ見てないし
僕らは毎日後悔しているという

めだか

めだか買った
ねだんいくら
めだかはまだか
まだ着かないか
めだか買った
どこで買った
小高い眼鏡屋さんで買ったのだが
めだか高々と
持って帰ったら
めだってしょうがなかった

来ていない

今日もごみ収集車が来ていない
朝も昼も夜も
さっきベランダに布団を干した時もまだ来てなかった

今日もごみ収集車が来ていない
お寺の向かいにある古い家ももう大概建て替えられているというのに
小学校の頃の通学路の、工場や古い歩道橋や駐車場も既に無くなっているというのに

今日もごみ収集車が来ていない
今日こそはごみを出そうと窓から見ていたけれど
今日こそは空になったペットボトルの山を片付けたいと思っているのだけれど

今日もごみ収集車が来ていない
かつて沼であったらしい家を出て坂を上った道路には、ひっきりなしに車が通っている
市役所に行かなきゃいけないし年金事務所に行かなきゃならないのに

やっぱり今日もごみ収集車が来ていない

八月十六日

雨が降ってる
雨が降ってる
雨が降ってる
雨が降ってる
雨が降ってる
雨が降ってる
雨が降ってる
雨が降ってる
雨が降ってる
雨が降ってる
じゃあここは？
膝
彼女は満足した顔で煙草に火を付けた
しかし周りを見渡しながら、灰皿がないことを確認すると腑に落ちないような顔で火を消した
何かやってないかとテレビを着けた
NHKにチャンネルを合わせると、ある落語家がインタビューに答えていた
彼女が言う
私、この人嫌いだわ、落語家の癖に受信料払ってるもの
そう不平を吐きながら彼女は煙草に火を付ける
外を見ると、雨に喜び勇んだカタツムリが殻を脱ぎ捨ててカエルと共に飛び跳ねていた