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白夜荘日録

自分の心覚えのために、本や映画で気になった言葉などを書き留めておきます・・・。

Wendy Doniger, 'Tsunami Myth' (TLS, Jan 14, p11)

2005年02月04日 | Weblog
Myths are far more comforting than statistics, in part because they allow us to distance ourselves from the tragedy enough to allow us to acknowledge how deeply frightened and moved we are by it, but not so far as to dull the intensity of our compassion. A student of mine who was in Madras/Chennai, right on the shore, at the time of the tsunami, has told me that she did not cry at any time during the day while she was working with the crews searching for bodies, finding bodies; she cried only when she when back to her apartment and saw it on television.
神話は統計よりもはるかに慰めをもたらしてくれる。ひとつにはそれは、神話のおかげでわたしたちは悲劇から距離を置くことができるからだ。その距離があるからこそわたしたちは、自分がどれほど深く恐怖し、心を揺すぶられているかを認めることができるのだし、かといって、共有する胸の痛みが鈍くなるほど遠ざかりもせず済むのである。私の教え子の一人が、ツナミの時、チェンナイ(旧称マドラス)で、まさに海岸にいた。彼女が話してくれたのだが、昼間、隊員と一緒に、遺体を捜したり、遺体を見つけたりして働いている間は、全く涙は流れなかった。アパートメントに戻り、テレビをつけたとき、はじめて泣いたそうである。
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TLSとは、Times Literary Supplementという、いや、誰もそんな長たらしい名前では呼ばないのだが、とにかくそういう名前の書評紙の通称である。「書評紙」というのがピンと来ないかもしれないが、読んで字のごとくほぼ書評ばかりでできている新聞で、近刊旧刊の本をネタに、結構な分量の論評を載せるのが常である。イングランドでは他にLondon Review of Booksという書評紙があって、TLSと双璧をなしており、アメリカにもニューヨークタイムズの有名な書評紙がある。毎号相当な量の論評が載るので、とてもではないが全部に目を通すわけには行かない。表紙や目次で、書評者や取り上げられる本のタイトルを頼りに、面白そうな文章を拾い読みするのが通常の読み方だ。

当然、時事的な話題も豊富である。英米のインテリが最近の世界をどう見ているかは、日々移ろうばかりの日刊紙では解りにくいが、こうした書評紙にかなり質の高い文章が掲載されて、とても参考になる。年明けはやはりツナミの記事が載るだろうと思っていたら、案の定上記の記事が掲載された。著者に、インド神話の専門家を持ってくるところがにくい。洪水の神話と言えば、誰もが聖書のノアの箱舟のエピソードを思い起こすだろう。どうも、インド神話にも似たような逸話があるようだ。聖書との関係はつまびらかにしないが、インドの伝説が中東のユダヤ人に伝播したのでは、というのが素人の私の憶測である。世界中に洪水の神話(中国の大禹伝説も有名)は広まっているが、さて日本ではどうだろうか。

引用箇所は、災害と神話の関係を衝いて、わが意を得たりという思いで読んだ。ちなみに、同じ頃自宅に届いた週間誌TIMEの最終ページのコラムは、ツナミとホイヘンスが送ってきた火星の映像とを重ねて、祈りに満ちた文章になっていた。これはこれで、アメリカン・ジャーナリズムの良質な部分もしくは典型として、悪くない文章だった。