【掲載日:平成22年2月2日】
朝凪に 梶の音聞ゆ 御食つ国 野島の海人の 船にしあるらし
紀伊国行幸の場で
宮廷歌人第一の地位を得た赤人
しかし 官人らの視線は 冷たい
歌人たちの態度も よそよそしい
〔なぜだ これほど 気遣い専一努めておるに
新境地を開いた 我輩を 嫉妬んでいるのか〕
時に 神亀二年〔725〕冬十月
難波長柄宮 行幸
西に開けた 難波御津の浜
続々と集まる 淡路野島の漁師船
天地の 遠きが如く 日月の 長きが如く 押し照る 難波の宮に わご大君 国知らすらし
《いつまでも 遠く長うと 続いてく 難波の宮に 天皇が 行幸なされる その時に》
御食つ国 日の御調と 淡路の 野島の海人の 海の底
奥つ海石に 鰒珠 さはに潜き出 船並めて 仕へまつるし 貴し見れば
《供御を生み出す 淡路国 お上がり召せと 野島漁師
海に潜って 鮑貝 いっぱい取って 船並べ 貢ぐ様子を 見る見事さよ》
―山部赤人―〔巻六・九三三〕
朝凪に 梶の音聞ゆ 御食つ国 野島の海人の 船にしあるらし
《朝の海 梶音してる 供御国の 野島漁師の 船やできっと》
―山部赤人―〔巻六・九三四〕
明るく詠う赤人
ふと感じると 笠金村が 近づいてくる
「赤人殿 なにやら 気分良げにお見受けする
ご自身の詠いたいように 詠われて居る
聞いていて清々しい
ところで わしは 赤人殿の 寿ぎ歌 もう飽いてしもうた
どうであろう
ひとつ 恋の歌でも聞かせてくれぬか」
苦笑いする赤人
「ハハハ 戯言 戯言」
〔何を おっしゃろうとしたのか
寿ぎ歌には 飽いたと
さてこそ 恋歌などと
合点がいかぬ〕
人麻呂の呪縛を脱した胸に
金村の謎掛けが 残る
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