【掲載日:平成22年2月26日】
大夫は 御猟に立たし 少女らは 赤裳裾引く 清き浜廻を
天平六年〔734〕春三月
難波宮行幸
歌の 源訪ねの旅から戻った 赤人
久方ぶりの 従賀であった
この行幸では
帝からの 儀礼歌の お召しはなかった
従賀人それぞれの 楽しみ
それが 新しい行幸の姿となりつつある
大夫は 御猟に立たし 少女らは 赤裳裾引く 清き浜廻を
《男らは 狩りに行ったで 女官らは 赤い裳裾引き 浜辺遊びや》
―山部赤人―〔巻六・一〇〇一〕
住吉の 粉浜のしじみ 開けも見ず 隠りてのみや 恋ひ渡りなむ
《殻閉めた 粉浜シジミの 貝みたい わし秘め恋を し続けるんか》
―作者未詳―〔巻六・九九七〕
眉の如 雲居に見ゆる 阿波の山 かけて漕ぐ舟 泊知らずも
《眉の様な 雲の向こうの 阿波山を 目指し漕ぐ舟 何処泊まるやろ》
―船 王―〔巻六・九九八〕
血沼廻より 雨そ降り来る 四極の白水郎 網手乾したり 濡れにあへむかも
《血沼浦から 雨降ってきた 網を干す 四極の漁師 濡れたん違うか》
―守部王―〔巻六・九九九〕
子らがあらば 二人聞かむを 沖つ渚に 鳴くなる鶴の 暁の声
《居ったなら おまえと二人 聞きたいな 沖鳴く鶴の 夜明けの声を》
―守部王―〔巻六・一〇〇〇〕
馬の歩み 抑へ駐めよ 住吉の 岸の黄土に にほひて行かむ
《手綱引き 馬止めてんか 住吉の 岸の黄土を 服に付けてこ》
―安倍豊継―〔巻六・一〇〇二〕
臣への近づきが
帝への 敬を深める
今日の行幸に 春の長閑さが加わり
従駕人の歌に 伸びやかな 明るさが宿る
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