【掲載日:平成22年8月13日】
今造る 久邇の京に 秋の夜の
長きに独り 寝るが苦しさ
佐保邸での 二人の生活
睦まじやかな 家持・大嬢
しかし
時の流れは 平穏を許さない
天平九年〈737〉の大疫 藤原四兄弟の死
橘諸兄の台頭 藤原氏の不遇
燻ぶる火種の政局不穏
ついに 筑紫で火を吹く
藤原広嗣 叛乱
時に 天平十二年〈740〉九月
藤原氏の抑圧からの解放で
逸楽の日々を送っていた聖武帝
乱の平定を待たずして 伊賀から伊勢へ
さらに 行幸は続き 鈴鹿 不破 近江
そして 山背国 恭仁卿に至り
そこを新都と定める
二か月近い彷徨の旅
一行に 内舎人家持も 加えられていた
一度は 佐保邸帰宅の家持
すぐさまの 恭仁卿転居が 命じられた
春霞 たなびく山の 隔れれば 妹に逢はずて 月そ経にける
《春霞 懸かってる山 邪魔してて お前逢わんと 一月経った》
―大伴家持―〈巻八・一四六四〉
都路を 遠みか妹が このころは 祈ひて宿れど 夢に見え来ぬ
《久邇京まで 遠いよってに この頃は 祈り寝るけど お前夢出ん》
―大伴家持―〈巻四・七六七〉
今しらす 久邇の京に 妹に逢はず 久しくなりぬ 行きてはや見な
《新しい 久邇京居るんで 長逢わん 出かけ訪ねて 早よ逢いたいな》
―大伴家持―〈巻四・七六八〉
今造る 久邇の京に 秋の夜の 長きに独り 寝るが苦しさ
《造ってる 久邇の京で 秋の夜を 独りで寝るん 遣る瀬ないがな》
―大伴家持―〈巻八・一六三一〉
〈安倍郎女―坂上郎女の従弟安倍蟲麻呂の娘?―へ〉
あしひきの 山辺に居りて 秋風の 日にけに吹けば 妹をしそ思ふ
《久邇山で 日増し秋風 吹いてきて 寒さ思たら お前恋しい》
―大伴家持―〈巻八・一六三二〉
久しい 独り寝の家持に
戯れ恋が 足忍ばせる
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