【掲載日:平成21年11月30日】
君を待つ 松浦の浦の 娘子らは 常世の国の 天娘子かも
【玉島川。玉島東方簗場付近】
〔これを 見せずに 措くものか
相手は 宜がいい
あやつ 神仙の思想に 通じておるで
そうじゃ ものがたり風に仕立て
歌の 前文として 添えてやろう〕
《わしが松浦を 尋ねし折に 玉島川を 遊覧せしが たまさか出逢う 鮎釣る娘子
花の顔 麗しかぎり 立ち居の姿 輝くばかり 眉は柳葉 頬桃の花
心気高く 優雅な様子 他に比ぶる ものとてあらず
わしは訝り 娘子に問うた 「何処の里の 何方のお児か もしや常世の 仙女じゃないか」
娘子ら笑い 答えて曰く 「われら漁師の 家なる娘 草葺き小屋の 賤しい子らぞ
言うべき里も 家なぞ無くて 名乗る名前も 持ちあわせぬぞ
水親しむを 好みとなして 山に遊ぶを 楽しむばかり
浦のほとりで 泳げる鮎の 姿よろしと 羨みおりて
山の狭間に 座りてままに 雲や霞を 眺めて暮らす
たまさか逢いし 高貴なお人 感に堪えずて 打ち解け話す
これより後は 夫婦の契り 結ばないでは おられはせぬぞ」
娘子の言葉 それがし受けて「分かりもうした あなたの思い 慎み聞きて 畏み受ける」
やがて日は西 去なねばならぬ またの逢う瀬と 思いの丈を 歌に託して 贈りて別かる》
旅人に 悪戯心が 芽生える
〔そうじゃ
宜に またぞろ 羨望させるも 可哀そう
巧くもないない歌 作らせるも 考えものじゃ
代わりに わしが作って
これも 添えて送るとするか〕
松浦川 川の瀬早み 紅の 裳の裾濡れて 鮎か釣るらむ
《川の瀬が 早いよってに 紅い裾 濡らして鮎を 釣ってんやろか》
―大伴旅人―〔巻五・八六一〕
人皆の 見らむ松浦の 玉島を 見ずてやわれは 恋ひつつ居らむ
《皆して 見てる玉島 ええ景色 わし見られんと 憧れるだけ》
―大伴旅人―〔巻五・五六二〕
松浦川 玉島の浦に 若鮎釣る 妹らを見らむ 人の羨しさ
《玉島の 浦で若鮎 釣る児らを 見てるあんたら 羨ましいで》
―大伴旅人―〔巻五・五六三〕
ややあって 吉田宜からの返書が 届く
そこには 申し訳程度の 一首が
君を待つ 松浦の浦の 娘子らは 常世の国の 天娘子かも
《あんたはん 待ってる言うた 娘子らは 桃源郷の 仙女やきっと》
―吉田宜―〔巻五・八六五〕
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