【掲載日:平成21年12月1日】
やすみしし わご大君の 食国は 倭も此処も 同じとそ思ふ
吉田宜に 便りが届く
そこには 旅人の 弱々しい姿があった
わが盛り いたく降ちぬ 雲に飛ぶ 薬はむとも また変若ちめやも
《もう年や 長生き薬 飲んだかて 若返ること できやせんがな》
―大伴旅人―〔巻五・八四七〕
雲に飛ぶ 薬はむよは 都見ば いやしき吾が身 また変若ちぬべし
《長生きの 薬飲むより 一目でも 都を見たら また若返る》
―大伴旅人―〔巻五・八四八〕
〔これは どうしたことか
こんな 気弱な旅人 見たこともないぞ
高熱を帯びた足の腫れ 歩きもままならぬよし
処方をとの願いもあるが 一刻を争う病状じゃ
わしが出向いても 間に合わぬ
筑紫に居る 友の百済医師に託すか
それにしても 筑紫は 遠い
しばらく会わぬうち かような患いとは〕
遙遙に 思ほゆるかも 白雲の 千重に隔てる 筑紫の国は
《白雲が 隔てて遠い 筑紫国 思う心も 遥々遠い》
―吉田宜―〔巻五・八六六〕
君が行 日長くなりぬ 奈良路なる 山斎の木立も 神さびにけり
《行ってもて 長い日たった 奈良の家 庭の木立ちも うら寂びてもた》
―吉田宜―〔巻五・五六七〕
急ぎの返し文が 旅人に届く
病の床 身動きさえもならぬ旅人
〔なんと言うておる
なに
なまじの治療では 如何ともし難いと言うか
この上は 切開の術を用いるべしと・・・
情けなくも 恐ろしい事じゃ
おお 家の木立 繁りっぱなしとか
大和が 恋しいのう
わしも 心根を弱まらせたものじゃ
昔 石川足人殿には
強気で言い返したものだったに・・・
あれは 大宰府着任間なしのころか〕
さす竹の 大宮人の 家と住む 佐保の山をば 思ふやも君
《あんたはん 奈良の都で 住んどった 佐保のお山が 懐かしないか》
―石川足人―〔巻六・九五五〕
やすみしし わご大君の 食国は 倭も此処も 同じとそ思ふ
《何を言う 何処に居っても 同じや 日本の国やで 大和もここも》
―大伴旅人―〔巻六・九五六〕
〔年は取りたくないものじゃ〕
身を横たえたまま 傷心旅人
力ない目が 遠くを見やる
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