【掲載日:平成22年9月14日】
我が屋戸の 草花が上の 白露を
消たずて玉に 貫くものにもが
「どうじゃな 家持
歌修錬 積んで居るかな」
秋深い宵 叔父 大伴稲公が 訪ねてきた
「書持から聞いたが なかなかの上達振りとか
今日は ひとつ わしの歌に 和してみぬか」
時雨の雨 間無くし降れば 三笠山 木末あまねく 色づきにけり
《時雨れ雨 降り続いたで 三笠山 梢全部 色づいて仕舞た》
―大伴稲公―〈巻八・一五五三〉
大君の 三笠の山の 黄葉は 今日の時雨に 散りか過ぎなむ
《三笠山 山のもみじ葉 降る雨に 今日あたりもう 散るんと違うか》
―大伴家持―〈巻八・一五五四〉
「やるではないか
秋も深まると やがて 雪が来よう
その時を 思うての歌 どうじゃな」
我が屋戸の 草花が上の 白露を 消たずて玉に 貫くものにもが
《庭にある ススキに降りた 玉露を 消さんと糸に 通してみたい》
―大伴家持―〈巻八・一五七二〉
今日降りし 雪に競ひて わが屋前の 冬木の梅は 花咲きにけり
《今日降った 雪に負けんと 庭の梅 枯れ木やけども 白花咲いたがな》
―大伴家持―〈巻八・一六四九〉
沫雪の 庭に降りしき 寒き夜を 手枕纏かず 独りかも寝む
《淡雪が 庭に降り積み 寒い夜 手ぇ繋げんと 独り寝るんか》
―大伴家持―〈巻八・一六六三〉
「よくできた よし 次は相聞歌を ひとつ」
あしひきの 石根こごしみ 菅の根を 引かば難みと 標のみそ結ふ
《山の岩 ごつごつしてて 菅の根を 抜かれへんので 印しといた》
―大伴家持―〈巻三・四一四〉
「よしよし 憶良殿の この歌に 準えての一首を 所望しよう」
牽牛の 嬬迎へ船 漕ぎ出らし 天の川原に 霧の立てるは
《彦星の 迎えの船が 出たんやな 天の川原に 霧出てるがな》
―山上憶良―〈巻八・一五二七〉
織女し 船乗りすらし 真澄鏡 清き月夜に 雲立ち渡る
《織姫が 迎船乗った様や 波しぶき 澄んだ月夜に 雲起してる》
―大伴家持―〈巻十七・三九〇〇〉
「ふうむ」
感じ入る稲公
〈書持のやつ「上手になられた」と申しておったが おべっかと 思いきや なんのなんの〉
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