【掲載日:平成21年7月17日】
神風の 伊勢の国にも あらましを
なにしか来けむ 君もあらなくに
見まく欲り わがする君も あらなくに
なにしか来けむ 馬疲るるに
【名張市夏見廃寺の犬養孝揮毫歌碑:歌は[27]記載の”馬酔木”】
伊賀の国 名張郡夏見の里
丘の上に 秋風を背にたたずむ人がいる
目は 遥か西 大和の空を望んでいる
伊勢 斎宮の任を解かれ 都へ向かう大伯皇女その人であった
天武二年(674) 弟大津と引き裂かれるように 斎宮として伊勢に下った
大伯 十三歳の時
しかるべき男子との婚姻がなれば 大津皇子の後ろ盾ができる
それを恐れての 鵜野讃良の進言に 天武が応える形での 宮入り
今 任解かれての旅に 希望はなかった
母も 父も そして
いとしい弟大津も もうこの世の人ではない
先の天皇 天武が薨じたのが
朱鳥元年(686)九月九日
親友河島皇子の密告により 大津は謀反の罪を着せられた
天智を父に持つ河島にとって
鵜野・草壁政権で 生きてゆくには
他に採るべき道はなかったのであろう
謀反の発覚が 十月二日
処刑は 翌三日であった
慌ただしくも過ぎ行きし日
かの人の陰謀としか思えぬ展開
(なぜあの時 伊勢に来た時
止めることが出来なかったのか・・・
いいえ 大津は定められた運命に従っただけなのだ)
神風の 伊勢の国にも あらましを なにしか来けむ 君もあらなくに
《伊勢の国 居ったらよかった 何のため 帰ってきたんか お前居らんに》
見まく欲り わがする君も あらなくに なにしか来けむ 馬疲るるに
《逢いたいと 思うお前は 居らんのに なんで来たんか 馬疲れるに》
―大伯皇女―(巻二・一六三、一六四)
傾く夕日を 受けて
大伯皇女の影が 長く伸びている
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