令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

歴史編(25)暁つゆに

2009年07月13日 | 歴史編
【掲載日:平成21年7月15日】

わが背子せこを 大和へると さ夜更けて
                あかときつゆに わが立ち濡れし

二人行けど 行き過ぎ難き 秋山を 
                いかにか君が 独り越ゆらむ 
【伊勢神宮の神苑】


夕暮れの伊勢路 
早駆けが一騎 風を巻いて過ぎて行く 
馬上のぬしは 大津皇子おおつのみこ
目指すは 男子禁制伊勢の宮 
(わたしは どうすれば よいのだ 
 姉上 お教えください 
 このままでは いずれほうむられます)
皇子は 騎上 姉大伯おおくに問いかける

朱鳥あかみとり元年(686) 
瑞祥ずいしょうの赤い鳥が現れ
天武十五年を改元のその年 
天皇はついに 波乱の生涯を閉じた 
天下分け目 壬申の乱を制し 
天皇絶対政権を確立 
「大君は 神にしあれば」 
と うたわれし大王おおきみの死

後をべるは誰か
群臣の関心は そこに集まっていた 

皇太子の席には 草壁皇子くさかべのみこ
天武の第二皇子 
鵜野讃良うののさららの後ろ盾を得た最有力候補

大津皇子 
いまは亡き大田皇女おおたのひめみこを母に持つ
天武の第三皇子 
幼年より学にたけ 長じては武を好み 
文武の才備えし 質実剛健の皇子 
すでに草壁 皇太子の任にあるも 
天武は 大津に朝政を取らせた 

両者拮抗きっこうの中での 天武の死

夜明け近く 大津は 馬上の人となり 
「姉上 お別れです 
 お教えは身にしみて・・・」 
短い言葉に 精一杯の思いを込めて 
静かに 頭を下げた 
キッと 前を見据える大津 
あるじを乗せたこまは歩を速めて行く

(このまま 帰していいのか・・・) 
わが背子せこを 大和へると さ夜更けて あかときつゆに わが立ち濡れし
《お前だけ 大和帰して 夜明けまで 夜露に濡れて 立ち尽くしてた》 
(政争の一人道ひとりみち 一緒に行ってやりたいが・・・)
二人行けど 行き過ぎ難き 秋山を いかにか君が 独り越ゆらむ 
《二人でも 行きにくい山 どないして お前一人で 越えて行くんか》 
                     ―大伯皇女―(巻二・一〇五、一〇六)

夜を徹して 何を話したのか 姉と弟 
立ち尽くして 弟を思いやる 姉 
大和へと 馬を急がせる 弟 
明日のわが身を知ってか知らずか 



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