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「強欲資本主義・ウォール街の自爆」を読んで考えたこと

2009-01-12 18:28:19 | このブログについて・お知らせ
ご存知のベストセラー本。今更ですが、じっくり読んでみました。

リーマン、AIG、メリルといった大手金融機関の超弩級破綻が続くウォール街。
これまで繁栄を誇ったアメリカ経済はいかにして間違ったのか、
その失敗の本質を、NYの日本人投資銀行家、神谷 秀樹氏が、解き明かします。

私レベルの知識でも、わかりやすく説明されていますし、
おそらく普通の会社員ならば知らないエピソードを具体的にあげて、
有名企業を、ばっさり斬るところは、ある種痛快でもあります。

それでも、著者が、今日の事態を残念に思い、心得違いの金融マンたちの存在を、深く憂えていることが伝わってきます。

この本の中で、著者が繰り返し語っているのが、
「金融マンは実業を営む方たちの脇役に徹するべきだ」
という、著者自信の信条です。

「主役である実業を営む方たちの事業構築を助けるのが金融本来の仕事のあり方であり、それこそが身分相応なのである。」

しかし、現状は・・・。

著者はここで、ダンテ『神曲』地獄編から引用をしています。

「フィレンツェよ。成り上がり者と、にわか成金どもが、おまえの中に傲岸不遜の風を生み出し、その為におまえは嘆き苦しんでいる」(ダンテ『神曲』地獄編)

著者はウォール街の強欲さをこのように表現しています。

(少し長いですが)

*****

 例えば、近年の世界的な金余りによって、プライベート・エクイリティー投資(ファンドによる企業の経営権を握る投資)が潤沢な資金を吸収して巨大化した。07年夏ごろには、実業を営む企業の『企業買収』の、実に三分の一がこれらのファンドの手によるものとなった。
 しかも、その買収資金のほとんどは『借りた金』によるものだ。つまり、金融資本が『主役』となってしまい、実業を営む企業(産業資本)は支配される側、即ち「資本家の奴隷となってしまったのである。

(中略)

今や、大金融機関の中心に座っているのは「経営者の相談に乗るバンカー」ではなく、「スクリーンを見て証券の売買をするトレーダーたち」である。このような浅ましいことを続けていれば、世の中(我々が生きている経済社会)がボロボロになってしまうのは目にみえていた。ここ数年のウォール街の姿は、まさに冒頭にあげたダンテの言葉がピタリとあてはまる状況だった」。

また、私にとっては、驚くべきことに、神谷秀樹氏の更なる問題提起のひとつが、
『何の為の成長か』 だったことです。
ああ、ここにも同じように考える人がいると、思いました。

*****

「成長」とは、いったい何を目標とするものだろうか?
「何のための『成長』なのか」「何をもって成長と考えるいのかといった基本的な
議論が十分になされないままに、数値目標を追いかけた結果、より強欲なものに富を集中させ、お金以外の価値あるものがないがしろにされ、社会全体としては格差が拡大し、決して幸福とはいえない状況を生み出しているのではないだろうか」。

*****

上述した著者の主張は正しいと私は思います。人を幸せにしない経済成長ならばいらないと思います。数値目標がすべて悪とは言いませんが、それだけを追いかけることに一体何の意味があるのか疑問です。
そして、法の前ではすれすれ、神の前では罪深い、ごくひと握りの人たちが、あこぎなやり方で使いきれないほどの富を持ち「信用の輪」を途切れさせた罪は大きいと思います。

著者は、上位1%の人々に30%以上の富が集中するとき、大きな崩壊が起こる臨界点となるという、ある文明史の研究家の説を紹介し、警鐘をならしています。
(アメリカはすでにこれにあてはまるそうです)

人間の幸せとお金の関係について考えさせてくれる良書です。

■著者略歴
神谷 秀樹氏
1953年東京生まれ。75年早稲田大学第一政治経済学部卒業後、住友銀行入行。84年、ゴールドマン・サックスに転職。以後NY在住。92年、ロバーツ・ミタニ・LLCを創業。

強欲資本主義 ウォール街の自爆 (文春新書)
神谷 秀樹
文藝春秋

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■「成長」について深く考えさせてくれる本

成長の限界 人類の選択
デニス・メドウズ
ダイヤモンド社

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経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか
C.ダグラス ラミス
平凡社

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文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)
ジャレド・ダイアモンド
草思社

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