婚約宣言
それからしばらくは真澄さんもまた関東に戻って
ややこしい依頼を片付けるのに忙しかったようで、
私が織衣さんに呼ばれて遊びに行くことはあったけど
特に何事も無く平和な日常を過ごしていた。
12月に入って仕事も忙しくなりあの出来事が
実は夢だったのかもなんて思えるようになっていた。
12月最大のイベント12月24日クリスマス・イブの当日は、
退社後にみんな彼氏や彼女とのデートの予定があるらしくて
誰もが必死に仕事を終わらせて
定時でタイムカードを押すと一目散に帰って行った。
勿論、順子や祐介も同じだった。
私も織衣さんと約束をしていたので帰る支度を
していると携帯が鳴って誰かと思ったら実家からだった。
「もしもし光ちゃん?まだ仕事中やった?」
聞こえてきたのは美郷ちゃんの声だった。
「大丈夫やで、今から帰る所やけどどうしたん?」
なんとなくは判っているけど一応聞いてみた。
「ごめ~ん!徹哉がどうしても電話しろってひつこいから電話したんよ!
どうも真澄さんと二人きりでデートなんちゃうか?
って昨日から何回もメールして来て落ち着かへんねん。」
あははは・・・やっぱり・・・私よりも自分の嫁が浮気しないかとかを
もっと心配した方がええのに困った変態シスコン兄貴やわ・・・
「美郷ちゃんは謝ること無いし・・・
徹兄が阿呆なだけやから、出来の悪い兄貴でごめんね。」
申し訳なくて謝ると優しい美郷ちゃんは
「ええんよ!徹哉がシスコンって事はわかってて
一緒になったんやからこれぐらいはどうって事無い(笑)」
と言って電話の向こうで笑っていた。
「今日は真澄さんじゃなくて織衣さんに
来て欲しいって言われてるんでこれから行くんやけどね。
真澄さんはまだ関東やと思うし心配されるような事はない!
って徹兄に私からメール送っとくね。」
って私が言うと美郷ちゃんは
「もしかしたら今夜にでも新幹線で
帰ってきそうな勢いやったから気をつけてね!」
と心配そうに言って電話を切った。
なんか嫌な予感がするけど織衣さんが
今日は有馬で温泉に入って一緒に食事をしよう
ってわざわざ予約をしてくれてるし、私も楽しみにしていたし
邪魔はされたくなかったので一応その旨を徹兄にメールしておいた。
会社を出ると師匠が車で迎えに来てくれていたので
そのまま有馬のホテルに向かうことになった。
織衣さんは昨日から向こうで療養してるらしい。
「仕事でお疲れなのにすみませんね。
ご実家で過ごされる予定だったんじゃないですか?
いつもいつも母の我儘に付き合わせてしまって
光さんには申し訳ないと思ってるんですが
母はどうも息子よりも光さんと一緒に居たいらしく
て光さんのご両親にも本当に申し訳ないです。」
師匠は本当に申し訳無さそうに少し頭を下げた。
「謝らないで下さい。嫌ならお断りしてますし
父も母も織衣さんが私を娘のように可愛がって
下さることをとても喜んでくれているので有難い位です。」
私は慌てて師匠に言った。
「父も母も織衣さんが居なかったら私は生きては
居なかっただろうって言ってました。10歳の頃の事なんで私も憶えてます。
病院で織衣さんが声をかけてくれて師匠と織衣さんが
助けてくれたから私は今ここに居るんです、だから命の恩人は大切にしないと・・・」
私は師匠の手を握りしめて言った。
ホテルに着いて部屋へ行くと織衣さんが走り寄って来て
「光ちゃんおかえり~食事の前に少し温泉入ろう~」
と半ば強引に温泉へ連れて行かれた。
温泉へ入って織衣さんが私の背中を流しながら
「やっぱり徹ちゃんはこの傷のことまだ気にしてるんやね。」
斜めに入った傷跡を指でなぞって
「これだけ大きい傷やから感じる責任も大きいんやろな・・・」
と織衣さんは言って何か考えてるようだった。今度は何を企んでるんやろ・・・不安や
温泉から出て食事をしている時に師匠が
「真澄が少し遅くなるけど今日中にはこちらへ帰るそうですよ」
とにっこり笑って私に言った。
あの日からずっと会っていないので
正直会って何を話せば良いのか困ってしまう。
気持ちの整理と言ってもどう整理するかも判らないままだったので
何か期待されていたらどうすれば良いのか・・・私は逃げ出したい気持ちで一杯だった。
食事が済んで話し込んでいたら夜の10時を過ぎていた。
明日も仕事があるのでと帰る支度をしていると織衣さんに
「最近、光ちゃんがまた地縛霊に関わることが多くなってるって
龍安から聞いてたからこれを持っておいて欲しいねん。」
と言って新しい数珠をプレゼントされた。
凄く綺麗な水晶と翡翠の数珠だった。
私はお礼を言って自分も用意していたプレゼントの包みを織衣さんに渡した。
包みを開けて出てきたカシミヤの薄紫色のストールを羽織って織衣さんは
「ありがとう~嬉しいわ~♪」って抱きついてきた。すると・・・
「凄く良くお似合いですね。お母様」と私の後ろで聞き覚えのある声がした。
振り返ると両手を広げて真澄さんが立っていて後ろから織衣さんが
私の背中を押したので私は真澄さんにしっかり抱きしめられてしまった。
つづく♪
凄く悩んだのですがこの際・・・
光と真澄の話を進めてみようと思って
こういう展開に進んでしましました
さぁーこの後ですこの後・・・どうなることやら・・・