プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

愛の女神のHow to love

2011-02-26 23:59:38 | SS




 マーキュリーは機嫌がよかった。
 ここ数日体調もいいし、外交面でも問題はないし、他の人が回す事務仕事の尻拭いをさせられることも珍しくなく、きちんと定時に仕事を終え、充分に睡眠も取れ、結果仕事がはかどると言う正のスパイラルを巡っていた。
 そんなこんなで本日も仕事を終え、妙に機嫌が良かったせいか鼻歌でも歌いたい気分でマーキュリーは自室に戻っていた。
 帰ってすぐにバスタブに直行し湯を張る。ジュピターから勧めてもらった入浴剤を心を弾ませ選ぶと、そのまま脱衣所に服を脱ぎ捨て、お湯が溜まるのを待ちながらシャワーのコックをひねり体に水を浴びせる。
 水の匂いと、触れ落ちる水の感覚。そしてその中で香り立ってくる入浴剤の匂いにマーキュリーは顔を綻ばせながら湯船が満ちるのを待つ。

 心も体も解放されるバスタイム。水の戦士と言う性質もあるせいかマーキュリーは入浴が好きだった。そしてゆっくり入浴の時間が取れる余裕が嬉しいのか、マーキュリーは体に石鹸を滑らせながら微笑む。

 事件が起こるのはこんなときである。

「マーキュリー!こんばんはー!!」

 恐ろしいほど無遠慮に、まるでぶち破る勢いで浴槽のドアを開いた訪問者。マーキュリーは泡だらけの体を隠すことなくその訪問者と対峙した。金髪赤リボンの陽気なその姿をしばし見つめ数秒固まって瞬きを数回、改めてその姿を確認したマーキュリーは、眉一つ動かさず通信機のスイッチを入れた。

「マーズ!ジュピター!妖魔発見!すぐに来てっ!」
「Σええっ、ちょ、妖魔!?どこ!?」
「私の部屋の浴槽!ヴィーナスに化けて出たわ!」
「いやいやいやアイアム本人です!!」










「・・・マーズもジュピターも・・・・・・・呼び出して悪いことしたわね・・・」
「大体マーキュリーがいけないんでしょー?なにこの美しい姿を一目見て妖魔って!どんなに変身能力があったって、千人が千人振り向くこの美貌はあたしにしかありえないわよ」
「・・・ノックもせずに入ってきたら無条件で賊だと思うわ」
「だからって確認もせずに仲間呼ぶなんてどうよ?仮にも知性の戦士のくせに。ジュピターなんてかわいそうじゃない、太腿の内側に真新しい歯形ついてたわよ?」
「・・・そんなとこ見てたの?ジュピター、ペットでも飼ってるのかしら?」
「どんなどーぶつがそんなとこ噛むのよ!マーズにやられたに決まってんでしょお楽しみ中に呼び出しちゃったのよ!」
「・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・ええ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あああああああ」
「マーキュリーのにぶちんっ」
「本当に・・・・・・・・申し訳ないわ・・・・・・・・・・でもあなたは今日はいないはずじゃ」

 マーキュリーの記憶ではヴィーナスは数日前から他の星に調査と言う名目で出張していた。そして帰ってくるのは確か明日の夜と聞いていた。つまり数日前から月に不在で、今夜もいないはずだった。

 ちなみにマーキュリーのここ数日の仕事や体調の快調さもそれに起因するものである。本人に自覚はないにしても、だ。

 だからヴィーナスがいるはずないと思った。だから当たり前のようにマーキュリーの部屋に入って浴室のドアを無遠慮に開けた女は敵であるとも思った。そして見た目がヴィーナスだったので変身能力もあるからそれなりにレベルの高いものであるだろうとマーズとジュピターを呼んだら本物のヴィーナスだった上に、若干着衣の乱れたマーズとジュピターがすっ飛んできくるしヴィーナスはテンパってるし、マーキュリーはやっぱり全裸だしで四人で顔を合わせてすったもんだだったのだ。

 結局マーズとジュピターは文句も言わず大人しく帰ってくれた。マーキュリーはそれを分別のあるオトナの対応だと評価したが、本当はとっとと帰りたかったのかもしれない。その辺りは二人にしか知りようのないことだ。

「早めに終わったから早めに帰ってきただけよ。ちゃんとクイーンにも報告したし」
「それは・・・別にそれで分かったけど」
「何よぅ。まだ文句あるの?」
「どうしてあなたは私と一緒にお風呂に入ってるの」

 あのあと、ジュピターとマーズを帰して一息ついた後、ヴィーナスは当然のようにマーキュリーが自分のためだけに用意した浴室にいつの間にやら入り込んでいた。しかも服もちゃんと脱いで髪も結って湯船に浸かって鼻歌まで歌っているのである。
 同じくマーキュリーは湯船に浸かりながら、何故かその一挙一動を突っ込むことなく、ヴィーナスが自分の世界に入ってくるのを見届けてしまった。あまりにも当然と言わんばかりの行動に今まで突っ込めなかったのだ。

「えー、いいじゃない別に。マーキュリーも嫌がってなかったしー」
「あまりの図々しさに呆れてものが言えなかったのよ」
「細かいこと気にするとハゲるわよ。そりゃっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「意外とオールバック似合うわねっ・・・・・・・・・・ふふ、あははは!」

 濡れた前髪をぐしゃりと後ろに持っていかれて挙句指を指されて笑われているが、マーキュリーにとっては楽しくもなんともない。オールバックが似合おうが自主的にすることはないだろうし、別に褒められているわけでもないので嬉しくない。
 先ほどまでに機嫌のよさをそっくりヴィーナスに吸い取られた気分であった。取ってつけたように鼻歌まで歌われていてマーキュリーとしてはいただけない。だが、目の前の女神はマーキュリーが思っている以上に図々しかった。

「マーキュリー」
「・・・シャンプーは青のボトル、トリートメントは水色のボトル、ボディーソープは白のボトルね。そこの左の台にあるからタオルとかはそこの正面にかかっているやつを使って」
「そうじゃなくて、マーキュリー」
「そうじゃないなら出て行ってくれるの?あ、ごめんなさい。出口は右よ。分かる?」
「ば、ばかにしすぎよっ!右くらい分かるわよ!」
「そうなの。知らなかったわ、ごめんなさい。でも髪を洗う気も体を洗う気も出て行く気もないなら、何なの」
「あなたの、にぶちんのくせそーゆー皮肉たっぷりの嫌味に聞こえる言葉は単なる照れ隠しなのは分かってるわ!」
「・・・はい?」
「そんな分かりにくい愛を受け止められるのはあたしだけ・・・そして、それはそれで離れてたら寂しいって思えるものなのよ」
「・・・はぁ」
「リーダーとしてここ数日ひたすら任務に身を投じてきたわ・・・予定より早く帰って来たのも休む間も惜しんで頑張ったからよ」
「それは・・・お疲れさま」
「だから心身共に疲れたリーダーを癒すのはあなたの仕事だと思うのよねぇ」
「・・・どうしろと?」
「離れていた寂しさを埋めてくださいっ!ここで更に変なボケかまされちゃたまんないからはっきり言うけど、性的な意味でっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 マーキュリーは湯船の中しばし考えた。自分をきらきらと子どものような目で見つめてくるヴィーナスの目を見つめ、瞬きをした。
 しばしといっても3秒くらいの時間だったが、咄嗟の判断を必要とされる知性の戦士にとって3秒は、あまりにも、あまりにも長い時間だった。そしてマーキュリーの脳内の冷静な部分はその3秒の間に非常に冷静な判断を下させた。
 普段なら即座に却下しているその問いを秒殺できなかった時点で、迷っているということだ。迷っているということは、この、無遠慮に自分の世界に入り込んでご機嫌気分を吸い取った挙句オールバックの刑そして図々しいセクハラ要求をしているリーダーの言葉に、心惹かれている自分がいるのだ。
 そんな風に非常に面倒くさい思考回路のつながりを常人の数倍のスピードで繋げたマーキュリーは、それに気付き愕然となる。
 だが表情に出すのは悔しいので、氷のような無表情を貫いて、静かに呟いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった」
「・・・え、マジですか?」
「自分から誘っておいて驚かないで」
「あ、はい、ごめんなさい・・・」


 その後の展開は意外にも早かった。











「・・・・・・・・・・ふへー」

 ヴィーナスは恍惚とした表情でバスタブの淵にうなだれていた。そんな姿を見、マーキュリーも大きく息をついた。
 結局湯船の中でそれなりに盛り上がっていたわけであるが。

「・・・・・・・・・・・・・きもち・・・・・・・・・・よかった・・・・・・・・・・・」
「・・・それはどうも」

 でれでれとヴィーナスはマーキュリーに顔を向け微笑んだ。どうやら及第点はもらえたらしい、と何気なくマーキュリーは安堵した。
 だが及第点で満足するような女ではないのもまたヴィーナスであった。不意に口を尖らせる。

「・・・でも一体どこでどこでそんなテクニックをっ・・・」
「はい?」
「普段はあんなにマグロなのにっ・・・誰からそんなの習ったのっ」
「・・・・・・・・・・えーと・・・解剖とか医療行為してるときと同じ感じで・・・」
「か、解剖ですって!?死体扱い!?いやそれよかあなた普段から医療行為中にそんなエロスな指使いを・・・っ」
「というより、まんま人体実験してた気分だわ」
「妙に仏頂面だったのはそのせいなの!?あたしはっ・・・恥ずかしがって鉄面皮被ってるだけと思ってたのにっ・・・」
「・・・泣きながらしたほうがよかった?」
「泣きながらとかあからさまに嫌々じゃないのよ!」
「そんなこと言われても・・・どうしろと」
「何でそんな事務的なのよ!愛はないの!?愛は!?」
「だってリーダーとして仕事終えて疲れて帰ってきたんでしょう。それを癒すのが私の仕事っていうのなら・・・」
「ほんとに仕事のつもりでやってたの!?」
「仕事・・・というよりは・・・むしろ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・福利厚生?」
「Σサイテー!!」

 ヴィーナスは目にいっぱい涙をためマーキュリーを睨んだが、バスタイムを邪魔されてジュピターとマーズの夜も邪魔をする原因を作って、セクハラ要求まで応えたのにケチを付けられてはたまらない、と言う心境だった。
 というより、今更どうしろと言うのだろう。

「マーキュリーってほんっとう最低だわ・・・最低オールバック・・・」
「オールバックは今だけよ」
「じゃあただの最低!」
「最低でも何でもいいけど、嫌なら出て行ってくれるかしら」
「言われなくても出て行くわよ!こうなったらジュピターとマーズのとこに乱入して乱交やるんだから!まだあっちのほうが愛があると思う!」
「それ、間違いなく殺されるわよ・・・ジュピターなら手加減して六分殺しくらいにしてくれるかもしれないけど、マーズは無理ね。死亡率は160%前後・・・」
「死亡率とか体脂肪率みたいな気軽さで言ってんじゃないわよ!しかも160%とか未知の数字っぽいけど普通にただの死亡じゃないのよその引き止め方ものすごくムカつくんですけど!」
「引き止めてるわけじゃないけど、ジュピターとマーズに悪いでしょう」
「引き止めなさいよ!」

 風呂場でわめき散らすヴィーナスをどこまでも冷静な目線で見つめながら、マーキュリーは冷めた心の内で思う。
 仕事だと言ってきたから相手にしたのにどうしてこんな風に怒るのか。そんなに怒って、ヴィーナスは自分に何を求めているのか。

「せっかく・・・頑張って早く帰ってきたのに・・・これなら拒絶されたほうがまだマシだわ・・・」
「・・・早く帰ってくるのも問題なのよ?」
「何でよっ!?まさか浮気でも・・・」
「迎える準備もできなかったのに」

 ほんのちょっと前までマーキュリーはすごく機嫌が良かった。仕事が快調で体調が良くて、次の日ようやく出張から戻るヴィーナスに会えると分かっていたから。
 だけどいきなりあんな再会をしてしまったのでどんな顔をすればいいのか分からなくて、変に戦士スイッチが入ってマーズとジュピターを確認もなく呼んでしまったり、義務みたいに性行為を要求されたから鉄面皮を被ってしまった。

「それに、あなたが欲しいものもはっきり分からない」
「それは・・・」
「癒しが欲しいって、それが『仕事』って言うから」
「・・・・・・・・・・・・・・な」
「でも言ってるでしょう、仕事だけじゃ断ったって・・・」
「じゃああたしがしたいって言ったら何でも叶えてくれるってわけ!?」
「・・・出来ることはしてあげようと思ったわ」
「・・・・・・・・・・・・・・嘘」
「いくら仕事でも命令でもああいうことは他の人には出来ないから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「愛って言うけど。久しぶりに会ってわざわざそういうことをさせるのに仕事とか言う言葉を出して、今だって私の言うこと信じてないでしょう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「愛がないのはあなたのほうでしょう?」
「・・・マーキュリーにはあるの?」
「・・・ないものは渡せないし、従えない。久しぶりに会ったなら、そういうことをしてもいいって思えるくらいには、少なくとも、私は」

 しばし湯船の中でふたりは、見つめあうと言うよりはにらみ合うに近い目つきでお互いを見ていた。お互いに相手の動向を探っているようなそれは、少しだけ戦場での戦士の目に似ている。
 やがてヴィーナスは膨れた顔で目を伏せた。

「・・・・・・オールバックで大真面目に口説くのやめて。笑っちゃうわ」
「・・・オールバックにしたのあなたじゃない。似合う似合わないはともかく、前髪が落ちてこないのは悪くないわね」
「だからこういう場でそーゆー発言がギャグなのよ!大体オールバック全裸に仏頂面で挙句福利厚生のどこが愛なのよ!?もうあなたと話すの疲れたわ」
「・・・じゃあ出て行ってくれて構わないわよ。出口は右よ。分かる?」
「出て行かないわよ!会話は終わりって言ってんの!」
「・・・・・・・・・何なの」
「愛し合いましょう」

 不意に真面目な声で真面目な顔で言われて、マーキュリーの呼吸は一瞬だけ水に落ちたみたいに止まった。

「やっといい顔してくれたわね」

 湯船を掻き分け抱きついてくるヴィーナスをマーキュリーは無表情のまま、否定しない。こんな風に愛の女神に執心されるのは、いつもマーキュリーに奇妙な感覚を抱かせる。
 恥じらいだとか照れだとかそういう甘いものではない、もっと根本的に思ってしまうのだ、どうしてこんなに構ってくれるのだろうか、と。
 首筋に舌を這わされて、鎖骨に噛み付かれて、喉の奥から声が漏れた。微かな呻きに近いものだったようにマーキュリーは思う。だが、それを耳で捕らえたのが嬉しいのか、ヴィーナスは再び顔を離しにやりと笑んだ。
 愛の女神の表情で。

「もう仕事だとか癒しとか、テクニックだけで埋まるような面倒くさいおためごかしはなしよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あたしだって愛がないとあなたなんかと付き合えないわよ」

 不敵な笑みは、嫌いではない。そしてマーキュリーは今どんな顔をしているのかと言うことには無自覚ながら、先ほどよりはヴィーナスを満足させるような顔であるらしい。
 だけどマーキュリーの熱が未だに上がらないのは、頭の中で探していたから。仕事でも福利厚生でもなく、自分から彼女を迎えるためのことを。
 でも冷めた頭とカラダで抱きしめてみたけど、やっぱり冷めたままだった。
 色々難しいことを考えていても、その、嫌いでない笑顔を見て、不意にふわりと正解が浮かんだ。俄かに脳みそが熱くなって、これが正解なんだな、とやっとマーキュリーは思った。
 人一倍機械的な思考回路。それでも鼻歌を歌いたくなるときもあるし、早合点をすることも、沸騰しそうになるときもある。
 うっかり恋をしてしまうこともある。

「ヴィーナス」
「・・・ん」

 既に鎖骨の下に這わされている顔を抱き込むようにして、マーキュリーは囁いた。ようやく、熱の篭った言葉になった。
 体を許すよりも、頭に熱が上る。でもなんてことは無い、簡単な言葉。

「・・・おかえりなさい」

 それを聞いたヴィーナスはふと愛撫の手を止める。そしてもう一度マーキュリーの顔を見て、満足そうに笑んだ。
 ずっと探していた、本当にマーキュリーが一番言いたかったその言葉は、及第点よりもう少し上にいけたみたいで。

「ただいま」

 そのまま口づけられた。再会して初めてのキスは、先ほどの情事よりもずっと熱かった。そのまま湯船に沈んでいく体は、水の戦士だからなのかそれとももっと違う理由のせいか、決して不愉快ではなかった。

 意外と面倒くさいはずなのに、切り捨てられない。割り切れないけど、したいと思うことをして、それで相手が喜んでくれる。
 それがヴィーナスの言う愛なのだとしたら。

「・・・・・・・・よく考えたら、あなたがいない方が仕事がはかどってたのよね」
「何よそれ!?しかも今言う言葉なの!?」
「いえ、ふと思って・・・」
「さっ・・・サイテー!!」


 やっぱり、体を重ねることなんかより、ずっと恥ずかしい。






         **********************


 ヘタレなはずが何故かオールバックのイケメンになってるマキュさん・・・しかし福利厚生のくだりはほんとにサイテーですね(笑)
 タイトルは美奈子のキャラソンより拝借。色気のないエロがコンセプトだったんですが、何か中途半端でギャグで落としきれなかった・・・・・・・・・・ほんと話作るのって難しいorz
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