プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

Sweet×Bitter

2011-02-14 23:53:27 | SS



 一方的な贈り物は迷惑だとか、そういうことを考えないでいられることを許される無礼講な日、というのが火野レイのバレンタインに対する感想である。
 事実その日はもう大量に心が篭っているであろうものをいただいていた。学校ではクラスメイトに無造作にばら撒くようなものを受け取らされたり、衛生という観念がまるで念頭にないのか靴箱や教室のロッカー果ては部室の中にまでプレゼントが詰め込まれていたり、休憩時間のたびの校舎裏や体育館裏や中庭に呼び出され、リンチでもされるんじゃないかという懸念を一応抱いた上で腹部に雑誌などをこっそり忍ばせて行ったら頬を染めた後輩が小箱を無言で突き出してきたりと言った対応に困る事態に陥ったりなどした。

 結局放課後には手提げに大量にチョコレート、と言う事態に陥っていた。わりと毎年恒例の事態ではあるものの、毎年どうしたらいいのか困っていた。




「おおー、すごいな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 家に帰ってから、程なくしてまことはレイを訪ねてきていた。約束もしていないのに何をしに来たのか、レイがもらって始末に困っているチョコレート袋を勝手に漁り一つ一つ仕分けし始めていた。しかも、まるで自分がもらったみたいに嬉しそうな顔で。
 そのまことの神経がレイには全く理解できなかった。ヤキモチを妬いたり拗ねたり暴れたりする方がまだ真っ当な対応と言うものではないか。
 実際暴れられても困るし妬かれたところでどうのしようもないのだが、笑顔でチョコレートウォッチングも如何なものか。腹部に仕込んだ雑誌もこんなところまで役に立たないのなら今日一日気折り損じゃないかとレイは眉を潜める。

「いやー最近はほんと色々チョコレートあるんだな」
「・・・知らないわよ」
「お、これブランドものじゃないか。百貨店で見たけど高かったぞーあたしもこーゆーの一回くらい食べてみたいよ」
「じゃあ持って帰れば?」
「ええっ、駄目だよ!あんたがもらったんだろ」
「一人で食べられるわけないでしょう!」
「受け取ったんなら食べてあげないと。それが誠意だぞ」
「勝手に人の荷物漁ってる人に誠意とか言われたくないわよ。そもそも全部ロッカーとかに勝手に入れられてたやつよ。もらったんじゃなくて勝手に押し付けられたのよ」
「え、手渡しはなかったんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 呼び出されて渡されたものは、全てはっきり断った。それが誠意だと思ったから。
 勝手に入れられてたものや差出人が分からないものは流石にどうしようもなかったし捨てるのも気が引けるので持って帰ってきただけだ。もしかしたら本命などと言うものも混じっているのかもしれないが、こういう手合いは押し付けただけでこちらのリアクションなど期待していないだろうから。顔も見ず押し付けて何かを期待されるのは、気持ちは分からなくもないが迷惑だ。

 思いを込めたものこそ受け取れないのに。

「よし、怪しいのはなかった」
「は?」

 ふとまことが仕分けしたチョコレートの束をレイにつき返してきた。と言ってもレイが無造作に袋に突っ込んでいたチョコレートを綺麗に纏めただけだったが。特に何かをハネた様子もない。

「ロッカーに勝手に入れられてたんだろ?もしかしたら危ないのが混じってないかって思って」
「・・・危ない?」
「もう、レイってほんとそういうとこ無頓着だな。こういう出所が分からないのは毒入りとか混じってるかもしれないだろ」
「・・・ばかじゃないの?」
「いや、ばかにできないって!」

 まことはレイの言葉に少し気を悪くしたように唇を尖らせる。そのリアクションでレイは本気だったらしい、と悟った。嬉しそうな顔でチェックしていたのは毒の有無か、と思うとそれはそれで呆れてしまうのだが。
 毒が見ただけで分かるものかはともかく、剃刀などが混じっているのはなさそうだとレイは思う。だがそのつき返されたチョコレートを一体どうしろと言うのだろう。まことが今手に抱えているのは、そしてレイに渡そうとしているのは、まことが知らない女の子たちのレイへの気持ちが入っているチョコレートだと言うのに。
 そのことに関して何も思わないのだろうかと思うとレイはいらついた。

 妬かれたいわけではないはずなのに。

 ささくれ立つ心を悟られないよう、レイは静かな声を出す。

「・・・あなたはどうなの」
「は?何?」
「バレンタイン」

 感情を抑えようとして、却って不気味なほど抑揚のない声が出た。だがまことは特に気にする風でもなく、口元に手をやり何かを思い出す仕草をした。

「ああ、あたしもやったよ。えっと・・・クラスで仲いい子とか部活仲間とかにもあげたし、はるかさんにみちるさん・・・二人に頼んでせつなさんやほたるちゃんにも。いつも新聞配達してくれるおじさんにも渡したし大家さんにも」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ルナにアルテミス、ちびうさちゃんとダイアナにもね。元基さんに宇奈月ちゃんにも渡してきたし、あと浅沼も。衛さんに渡すのはうさぎちゃんに駄目って言われたからあげてないけど」
「・・・・・・・・ご苦労なことね」
「あと・・・・・・・・・・えっと、そう、亜美ちゃんにも」
「・・・亜美ちゃん?」

 もらわなかったのかと聞いたつもりだったが、自分が渡した分を列挙しているらしい。
 そしてそこでピンポイントに亜美の名を出されたことにレイは違和感を抱く。衛に渡さないと言っている辺り結構律儀に報告してくれているのだと思うが、それゆえに仲間うちで亜美だけ名前を出すことに違和感を覚えた。
 むしろ名前が出てない面子のほうが奇妙なことで。

「うさぎや美奈には渡してないの?一番欲しがりそうなのに」
「ああ、あげてないよ」
「じゃあ、私たちの間では亜美ちゃんだけあげたわけ?」
「うん。亜美ちゃんのも市販だけどね」
「どうして?」
「うさぎや美奈はね、ここ何日かチョコレートのお菓子の作り方教えてくれってずっと付きっきりだったし、今日まで試食とか言ってそれはもうあたしが作ったの食べ尽くしてくれたんでね。材料も無くなっちゃったし、もう今年はあの二人はハネさせてもらったよ」
「・・・・・・・・・・・・そう」
「亜美ちゃんは、ちょっと悪戯させてもらったんだよ」
「悪戯?」
「ふふ。成功してるといいな」

 何がおかしいのかまことは頬を緩ませ笑んでいた。市販のチョコレートで悪戯とはこれいかに、と思ったが、自分から語らないと言うことはこれ以上語る気は無いのだろう。どうせろくなことでは無い気がするが、まことの悪戯には「悪意」とは違う妙な意図が存在している気もする。

 いずれにせよ亜美がどうなるのかは、冷たいようだがレイには関わりのないことである。

「ほんとは亜美ちゃんにもちゃんとしたのをあげるつもりだったんだけどね、チョコレート系の材料ほんとなかったし。使い尽くされちゃったのが正しいんだけどさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だから他のみんなにあげたのもパイとかクッキーなんだよ。折角のバレンタインなのに」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 他の人にあげたのがチョコレート抜きのお菓子なら亜美にもそれをあげればよかったではないか、とレイは思うのだが、そうしなかったあたりはやはり何か理由があるのだろう。いずれにせよまことはわざわざ市販のものにしてまで亜美に渡す分を特別にしたと言うことで。思えばまことが市販のものを人に渡すほうが珍しいことだ。

 全く考えてることの分からない人だと思う。美奈子や亜美のように思考が飛び抜けているわけではないのに、それなりに付き合いも長いのに、未だまことが何を考えているのかと言うのはレイには読めないでいる。

「だから一個だけ」

 ふと思考の海に沈んでいたレイを引き戻したのはまことの暢気な声。あまりに暢気な声だから、言葉の意味を正しく受け取れないところだった。
 顔をあげたら、レイの掌には、ぽんと収まる紙袋があった。

「はい」
「はい?」
「今年唯一の手作りチョコ」
「・・・なに?」
「チョコレートが問答無用で食べ尽くされる中、ほんとにやっと死守した分なんだぞ」
「・・・で?」
「レイに」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「バレンタインなんて下らないって思ってるかもしれないけどさ、そういう機会があるからこそいつもより好きな人のために頑張れるっていうのもあるんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「でも、いらないのに受け取られて人にあげられたり捨てられたりしたらやっぱり悲しいから、その気がないならここで断って欲しい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・でもあたしとしては受け取って欲しい。そりゃ他のものだって頑張って作ったけど・・・これは特別だし」
「・・・本命とでも言いたいの?」
「・・・まあ、そうなるかな」

 心なしか照れたように頬をかくまことから、レイは目線を掌に移す。特に遠慮せず封を破ると、中から出てきたのは小さめの瓶に詰められたチョコレートソースだった。
 想像していたようなものではないが、工夫を凝らしているものであるのは分かった。今年唯一のまことの手作りチョコレートは形がない。それはどこかおとぎ話に出てくるような毒を入れた小瓶に見えなくもない。
 レイは瓶に指を突っ込んだ。とろりとしたものが指に絡みつき、濃厚なカカオの匂いが漂ってくる。

「・・・言っとくけど」
「ん?」
「学校とかで手渡しで持ってこられたものは全部断ったから」
「・・・え?」
「その気がないなら断るのが誠意だと思ったからよ」

 言って、糸を引くチョコレートソースを口に含む。舌に触れるほろ苦いそれは、口の中に甘く広がっていく。
 何の疑いもなく口に含んだそれは毒のようにレイの中に蕩けていく。

「・・・じゃあ、あたしの気持ちは受け取ってもらえたってことでいいのかな」
「・・・・・・・・・・それにしても珍しいわね、こういうの」

 素直に肯定の返事をするのは癪な気がして、レイはチョコレートをもうひと舐めした。だが口に出した疑問では実際感じていたことでもある。
 レイにとって、チョコレートと言うものは固形のイメージが強い。わざわざこんな食べにくい形を選んだまことの意図が知りたくもあったからだ。

「おいしいけど、こういう形は・・・」
「ああ、固形にしちゃうとすぐ食べ終わって終わりかなって気がしてさ。それに、シロップ状だとほら、そのまま食べる以外にパンに塗るとかとかフルーツにかけるとか、応用広いんだよ」
「・・・ああ」
「だから好きなものに塗って食べてくれたらいいよ」

 そういって穏やかに頭を撫でられた。そんなまことからは甘い匂いがして、どこか脳髄が蕩けそうな心地がする。こうやっていつも蕩かされては、彼女のペースに持っていかれるのだ。
 いつもならここでそれでもいいかと思ってしまうのだが。

「・・・ん?」

 レイはチョコレートが絡んだ自分の指をまことの唇の前に突きつける。面食らったような顔をしたまことに、レイはいつも彼女にされてるように不意打ちでかけられる言葉遣いを真似てみた。
 何とかできるかぎりの笑顔で。

「好きなものに塗っていいんでしょう」
「・・・え、あ・・・・・・・・・・・・・・・えぇ?」

 言葉に澱んだまことの口に指を滑り込ませる。強引にチョコレートのついた指を口腔内にすり込ませると、やがて諦めたようにまことの舌が指に吸い付いてきた。

 バレンタインは無礼講が許される日、と言うのがあくまでも火野レイのバレンタイン観である。

「まこと」
「・・・・・・・・・ん、ん」
「そういうあなたはどれくらいもらったの?」
「・・・んあ?ぐっ・・・む」

 レイはそのまままことの喉ぎりぎりまで指を突っ込んだ。まことは俄かに焦ったように口の中でもごもごと舌を動かそうとしたが、レイの指がそれを阻む。言い訳は聞きたくなかった。そして本気であることを分かってもらわなければいけなかった。
 向こうもこちらのチョコレートを漁っていたのだし、プライベートを聞き出す無礼も今日なら自分に許していいという気になった。
 そしてそれならいつもみたいに言葉足らずにかわされてはたまらない。

「もらったの?」
「・・・んー、んん、ほえなりに」
「折角用意してくれたものをもらわないのは誠意に反するって手渡しももらったりした?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほめんなはい」


 自分が用意した唯一のチョコレートを渡すのは、この言及が終わってからになりそうだ、とレイは密かに自嘲した。








           *****************


 レイちゃん、キレる(笑)
 二人ともモテそうですよねーバレンタイン。あとまこちゃんがしかけた亜美ちゃんへの悪戯は一体なんだと言うので美奈亜美編に続きたいです(希望かよ/いや、書けるかどうか自信が・・・)

 北川さんご本人も女子校出身で、バレンタインにはロッカーにチョコいっぱい入れられたりしてたって某番組で聞いて燃えました。リアルレイちゃんww
コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 隣人は静かに笑う | トップ | Bitter×Sweet »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

SS」カテゴリの最新記事