プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

深夜の訪問者

2010-11-13 23:52:50 | SS




 ずるっ・・・ぐしゃっ・・・べしゃっ・・・ずるっ・・・




 既に真夜中と呼べる寝静まったパレス内、扉の外から水を大いに含んだ足音が近づいてくる。それは昔の幽霊話の冒頭シーンによく似ている。全身ずぶぬれのこの世のものでない女が、足を引きずるようにしながら、恐怖を撒き散らしながら何かを探すように這い回る、確かそんな描写だったような気がする。

 魔性のものを退治するのは私の役目でもある。そして退治したいと言う本能に似た思いがこみ上げてくるが、生憎相手は魔性のものでもなんでもない。諦め半分で私は扉を開け、足音の出し主を確認した。

「・・・ヴィーナス」
「ま、マー・・・ズ・・・こんばんは・・・」

 目の前は我らが四守護神のリーダー。恐怖の無い冷気を纏ったその姿は「赤の他人です」と言ってドアを閉めたくなるほど情けない姿だった。
 廊下にはだらしなく歩いてきた後が分かるよう水溜りをつくり、全身濡れ鼠な本人は局所局所が凍りついており、胸の辺りまでぶら下がる鼻水はシャーベット状だ。がちがちと震えながら顔を引き攣らせるその姿はとても愛の星を守護に受けた人とは思えない。

 ―これじゃ百年の恋も冷めちゃうってものよね。

 最も、彼女をそうしたであろうその人が彼女の恋の相手なのは明らかであったけど。ある意味お似合いのカップルかもしれない。

「ま・・・ず・・・ちょ、あった、めて・・・」
「・・・」

 私は無言で彼女に火球をぶつける。一瞬ヴィーナスは人体発火のごとく燃え上がり、少しの焦げ臭い匂いとともに元の姿を取り戻す。
 
「あ、熱ッ!!ちょ、乱暴よ!ああ、リボンが焦げてっ・・・」
「フローズン鼻水見せ付けられた上に文句言われる筋合いないわよ・・・どーでもいいけど廊下ちゃんと拭いておきなさいよ。あーあ、巨大なナメクジが這った後みたいになってるわ」
「なっ・・・巨大なナメクジって失礼ぶっこきね!しかも何でそんな冷静なのよ!?四守護神のリーダーたるあたしがこんな目にあったんなら、心配とか、妖魔の侵入!?とか聞いても良くない!?」
「そうでないことは火を見るより・・・いえ、水を見るより明らかよ。どーせマーキュリーにやられたんでしょ」

 敢えて冷たいと見られるように彼女を睨む。するとヴィーナスはさっきの表情から一転、にやりと笑って掌を折る。

「や~ね~もう分かっちゃう?全くマーキュリーちゃんったらあんな顔してすっごい手ぇ早いんだから、おかげであたしはいつもしっぽりと濡・れ・濡・れ・・・」
「『暴力的に』手の早いマーキュリーに『水でも被らされてる』ってだけでしょーが。卑猥な表現しないで」
「なっ・・・じ、事実じゃないッ!」
「・・・で、今日は何してそーなったの?」
「別に何もしてないわよ?」
「本当に何も?胸に手を当ててよく考えてみなさい」
「・・・うーん、でも、今日は・・・後ろから気配を消して抱きついて胸をもみもみしたりしてないし、書類作業中に耳に息を吹きかけてデータをおシャカにしたりもしてないし・・・仮眠とってる時にうなじにこっそりキスマーク付けまくって皮膚病みたいにしたりもつけてないし・・・」
「(普段からそんなことを・・・マーキュリー・・・やっぱり他の犠牲者を出さないで済むと言う意味で、あなたがいないと四守護神は駄目だわ・・・)」
「はっ・・・もしや何もしてないから怒ったのかしら!?もうマーキュリーってば、遠まわしにあたしの愛情表現を求めてたのね!全く恥ずかしがり屋さんで素直じゃないんだから・・・」
「(しかも自分の都合のいいようにしか取らないし・・・)あ、ちょっと待ってヴィーナス」
「何よっ?あたしは今からマーキュリーのところに夜這い・・・じゃなくて、特攻・・・でもなくて、会いに行こうかと・・・」
「最後まで話聞きなさい。本当にあなた、マーキュリーに何もしてないの?」
「だから、してないって・・・」
「本当にしてないのね?」
「しつこいわね!何もしてないわよ!むしろこれからしに・・・」
「ってことはマーキュリーにチェックしてもらわなきゃいけない仕事もやってなかったってことね」
「・・・あ」

 あ、と言うことは本当にしていなかったらしい。流石に私もまさかと思っていいたので、言葉を失った。
 すると次の瞬間、脊髄に液体窒素を流されたような強烈で圧倒的な寒気を覚える。

「マーズ、私の言いたいことを言ってくれてありがとう」
「あ」
「・・・マーキュリー」

 ある意味四守護神の不幸を一手に引き受けてくれていたであろう人が、圧倒的な冷気を伴って、いつのまにやらドアにもたれ腕を組み佇んでいる。そしてその姿はさっきの幽霊話を連想させたヴィーナスとは桁違いの恐怖を引き連れてきた。
 はっきり言って滅茶苦茶怖い。

「こんばんは、マーズ、ヴィーナス」
「まままマーキュリーちゃん・・・」
「ヴィーナス、夜にマーズに迷惑をかけるのはよくないわ」
「そ、そーですね・・・」
「実はね、ヴィーナス。私、あなたに謝ろうと思ってあなたを追いかけてきたの」
「・・・え?」
「さっきは本当にごめんなさい。やりすぎたと思ってるわ。しかも結果的にはマーズにも迷惑をかけてしまったし・・・私のせいね」
「いや・・・マーキュリー、私は構わないけど・・・」

 謝りに来たのにこの禍々しいオーラは何故?

「マーキュリー・・・」
「仕事は終わりさえすればいいから、やりすぎたかと思って追いかけてきたの。けど・・・こないだジュピターが私の襟元を見て謎の斑点が出てるよって言ってたけど・・・そう、あれはあなただったのね・・・」
「Σ(-□-;;;)」

 キレてる!!!
 マーキュリーのティアラの下に青筋が浮いてるのが見えて、私は思わず息を飲んだ。

「Σや、あれは口にしたかったんだけどぉ~、思いっきり突っ伏して寝てたもんだから・・・それにほら、うなじがセクシーで結構そそるのよね・・・だから、つい」
「正直なあなたの態度、潔いわね」
「そ、それほどでも・・・」
「その正直さに免じて、今回の件は水に流してあげるわ」
「え、そう?いや~怒ってると思ったのに、やっぱマーキュリーってあたしには優しいのね」
「優しい・・・お褒めに預かって嬉しいけど聞こえなかったの、ヴィーナス?」
「え?」
「『水に流して』あげるのよ?」
「Σはぅっ・・・」
「ちょ、マーキュリーここは私の部屋っ・・・」
「・・・あ、ごめんなさい、マーズ」

 水に流されるのはヴィーナスだけで充分なはず。私があからさまに焦るとそこでマーキュリーは困ったようにはにかんだ。
 笑って済む問題でもないが、この二人に巻き込まれるとろくなことがないのだ。未遂なので黙っていようと思う。未遂なので黙って・・・

「修理代その他もろもろの経費はヴィーナスのお給料から引いておくから安心して」
「Σ(((@□@)))マーキュリー!!!」

 さらっとすごいこと言った!!

 あまりにナチュラルな物言いに開いた口が塞がらない。マーキュリーは相変わらず取って付けたような爽やかな笑みを浮かべながら、流れるような自然さでシャインアクアイリュージョンの構えをする。私も反射的にヴィーナスを盾にする。抵抗したら被害が広がるだけだ。頭の中の冷静な部分は私に諦観を促し、惨劇に堪えるよう目を閉じさせた。

「ちょっとマーズ、離してっ」
「うるさいわね!出て行かないんならせめて盾になりなさい!」
「3人とも何はしゃいでるんだよ?」

 そこに介入したのは、本日最後の来訪者。しかもちゃっかりなのかしっかりなのかマーキュリーを後ろから抱きかかえ、片手でマーキュリーの技を制している。
 仮にも戦闘態勢に入っていたマーキュリーの背後をあっさり捉え、それどころでなかったとはいえ私とヴィーナスに気配も感じさせずそこに割ってきたジュピターは、ある意味一番怖い人なのかもしれない。
 何よりこんな修羅場を止める勇気は既に常人のものでない。ジュピターはマーキュリーを覗き込むと、鼻先に突きつけるように人差し指を立てた。

「めっ」
「・・・ジュピター?」
「マーキュリーさん、駄目だよこんなトコで技放っちゃ。らしくないなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「オフまで常に冷静でいろとは言わないけどさ、せめてあと数分落ち着きなよ。さっきまであたしが使ってたトレーニングルーム空いたから、はしゃぐならそこでいいだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「言うこと聞いてくれないとこの手は離せないな」
「・・・分かったわ」

 その言葉の刹那、ジュピターの拘束からあっさりマーキュリーは離れる。私もヴィーナスをマーキュリーに捧げるように突き飛ばす。むしろ最初からこうすべきだった。
 足もとに転がったヴィーナスに、マーキュリーはわざとらしくブーツのヒールを鳴らして近づく。そして震えているヴィーナスの顎を掴み、くい、と自分の目線に合わせた。行動もだが、その表情は酷くサディスティックだ。
 意外と楽しんでたりして、マーキュリー。

「マーキュリー・・・ちょっと、冷静になりましょう?ね?」
「あら、私はいつでも冷静よ」
「でもっ・・・」
「ふふ、あなたと折角二人きりになれる機会をジュピターが作ってくれたのだし・・・マーズ、ごめんなさいね」
「・・・いや、構わないけど・・・」

 内心では全然納得はしていなかったけれど、他になんて答えればいいのか。そしてマーキュリーは色香さえ感じるほどの笑顔で、私たちにも聞こえる囁き声をヴィーナスに寄せた。見た目だけはおとぎ話のクライマックスシーンのように麗しい。

「ここだとすぐ済んだけど・・・でもよく考えたら二人きりでゆっくり、の方がいいわよね?」
「・・・なんでしょう」
「今夜は寝かさないわよ?」
「・・・いやん☆熱烈なお誘いね!」
「いつまでそんなこと言ってられるかしら、リーダー」

 そしてマーキュリーはやっぱり笑顔でヴィーナスのセーラーカラーを掴み引きずると、「おやすみなさい」と爽やかに去っていった。背を向けた瞬間僅かに見えた襟元は成程謎の斑点の名残が残っていた。そしてヴィーナスの顔が真っ青だったのは襟を引っ張られ首が閉まってるのか、それともこれから自分に来る未来を予期しているのか―どっちでもいい。どうでもいい。
 この状況、ヴィーナスは微かに笑ってさえいたのだから。

 全くお似合いすぎる。百年はおろか千年でも冷めることはないんだろう、きっと。

「―はぁ・・・」

 あと残されたのは私とジュピター。ジュピターは何をしに来たのか帰ることなく、勝手にベッドルームまでずかずかと入り込んでいた。

「・・・ちょっと」
「お疲れマーズ」
「なんであなたまでこの部屋に」
「えー、あたしがいないとマーズの部屋大洪水だったんだぜ?」
「・・・だから何?」
「労いが欲しいなぁって」

 座り込んだベッドの横をぽすぽすと叩きながらジュピターは、へらへらした表情で笑う。それが何を意味するのか分からないほどに私は野暮ではないけれども。むしろこの状況でボケられるのはマーキュリーくらいのものだろうけど。

「―助けてくれたのには感謝するわ。だからってそれとこれとは別よ」
「えー?何だよ。つまんねぇの」
「第一、あなたがマーキュリーとヴィーナスの揉め事に遭遇したのは偶然で、そもそもは何か別の用事があってここに来たんでしょう」
「・・・あ、いけね。そうだった」
「忘れるくらいならたいした用事じゃないんでしょう。悪いけど私もう寝るから、帰ってほしいんだけど。仕事なら明日聞くわ」
「あ、ちょっと待てよ」

 ジュピターは私の突き放すような口調を気にすることなく、ふわりと笑った。それは開く花を連想させるような、子どものように甘く優しい笑みだった。
 太陽系最大の惑星の守護を持ち、王国を守護する戦士として勇名を馳せている彼女は―こんなに、嘘みたいに可愛い。

「そもそもあんたのためにここに来たわけじゃないから、労いってのは間違ってるな」
「―はぁ?」
 
 ジュピターはそう宣言すると、傍で突っ立っている私の腕を引いて腰を抱くとそのまま組み敷いた。
 背中にベッド、後頭部にいつもの枕の感触を感じる。真正面に―ジュピター。

「寝てていいよ。あたしはあたしで勝手にやるから」
「―ふざけないで」
「ふざけてないよ。あたしは最初から自分のためにここに来て、マーズをこうしたくて―マーキュリーもヴィーナスもそのために追い返したんだ」

 きっぱり言い放つその口調は冷酷なほどはっきりしていて、否定を許さない。それは甘い笑顔に似合わないもので微かに戦慄を覚えた。そういえば、さっき自分で思った、一番怖いのはこの人かもしれない、と。
 炎の力を持っている私が蕩かされてしまうほどに甘い笑顔は、予見の力を持ってしても何を考えてるかいつだって読めないのに。それなのに向こうは私のことなんて何でも知ってて、その上で私の気持ちを無視して弄んで楽しんでるんじゃないかとさえ思ってしまう。
 私の表情から私が抵抗しないことを悟ったのか、ゆったりと掌を目にかぶせられる。私はさっきのマーキュリーのとき以上の諦観に襲われ、光の遮られた目を閉じた。それでも悪い気がしない自分が憎らしい。
 
 私の周りは、皆笑顔で怖いことをする。

 出会う前は人の考えることなんて気配で簡単に察せたと言うのに―それが出来ないのは同じ四守護神の性質なのか、単に私の仲間は揃って頭がおかしいのか、分からない。
 それが一番怖くて、それでも何故か心地よい。

 ―結局、誰に振り回されるのも悪くないと思っているのかもしれない。でもそれ以上を許せるのはこの人だけなのだけれど。

「・・・流石に、年上に『めっ』はないんじゃない?」
「・・・あ、やっぱり?」


 とろとろと働かなくなっていく頭で、ヴィーナスの断末魔の悲鳴が遠く高く響き渡るのが聞こえた気がした。





           **********************


 サブリーダー苦労話。
 ジュピは黒っつーか全員の扱いを把握してる人。威厳のないリーダーに謎の斑点レベルまで跡付けられて気付かないマキュさんも如何なものかと。

 実は書いて一年以上放置してたブツです。文章力上がってねぇ・・・!
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