昨日来てくださったご老人。
「見るだけで悪いね」
と言いながら入っていらした。
「勿論どうぞ!」
そう言って向かい入れる。
見事なほど白髪の小柄な小奇麗な男性。
ビニール傘を杖代わりに
とぼとぼとスニーカーを履いた足を
ゆっくりと前に出しながら歩く。
「面白いね~、好きなのが沢山あるよ」。
自分はお客様とお話をするのが好きなので、
話しかけてみることに。
娘さんと一緒に近くのお蕎麦屋さんで食べ、
そして弊店の存在に気が付いて1人で入ってくださったとのこと。
近くに住んでいて、
既に93歳だとか。
それにしては本当にお若い。
白髪だけれど、
肌はつやがあり、
補聴器も付けず
そして眼鏡もしていない。
なんて元気なお爺ちゃんだろう。
この辺りの昔のお話を伺うのは個人的にも興味深く、
店内をご覧いただきながらお話を伺っていると、
合間合間で「見るだけで悪いねぇ」っとその方は仰る。
「いえいえ別にいいんです」。
全く買っていただくことも意識せず、
心からお話を楽しんでいた。
すると「これでお酒を飲んだら美味しいねぇ」
と言いながらお猪口を手に取る。
そしてマグネットの一輪挿しを気にいられ、
そちらも一つ。
お会計が済むと、
まだ見てっていいかな
っと仰るので、
勿論どうぞと
お話を続けながら店内をじっくり店内散策を続け、
そして今度はお香の前で立ち止まる。
あっ、お線香も貰おうかな、
と小さめのお線香を買ってくださり、
そしてまた店内散策が続く。
すると今度はアクセサリーに目が止まり、
おっ、この赤色がとっても綺麗だねぇ。
壁飾りにしようかな、
っとまた買ってくださる。
その赤色がとっても綺麗だねぇ、
と仰ったときの彼の満面の笑みが印象的。
素敵な笑顔だった。
そう言われれば確かにこの赤は何とも言えない
とっても綺麗な赤だったことに気が付く。
その都度お会計をしてくださり、
その都度、あっ袋の中のも支払わなきゃって。
いえいえ、既にいただいていますから。
散策を続けられるたびに、
最初に買ってくださったお猪口の存在を忘れ、
お猪口買ったっけ?と仰る。
そして袋の中を覗いて、
あっ、このお線香はお宅のじゃなかったよね、って。
いえいえ先ほど買っていただきましたよ。。。
えっ、どうしよう?
大丈夫かしら?
そうこうしているうちに、
また違う物を手にとって
これもいいねぇって仰るので、
「これはまた今度の楽しみに」、
とお伝えすると
「そうだね」と納得されるご老人。
またお邪魔するね、
と元気よく帰られるのと同時に、
別のお客様がご来店。
あの方とお会いしたのは現実だったのか?
そしてまた彼と会うことはあるのだろうか。
本当に93歳だったのだろうか?
お話をしている分には全く違和感も無く、
はっきりとされていたけれど、
本当に買っていただいて良かったのだろうか?
そんな事が気になった秋の風。