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華音(8)

2020-11-30 22:35:03 | 小説
母さん!
母は俺が送金していた金を親父に内緒で貯金し生活が苦しくとも働いて賄っていた。
「そんな?嘘だろ」俺は金を送金して役目を果たしてたつもりだった。浅はかだった!母はその上をいっていた。
「母さん、これ嬉しいけどこれからは俺居るからさ使ってよ」いや、俺は家族のために使うよ!母の笑みが参道してくれてると解釈した俺は、とりま住む所は確保したから…翌日から地元職安に通った。
結にも変化があり、俺を待ってたと思いきや結は男友達を待っていた。女には学問は要らない!そう言って親父が中卒で結を家事手伝いに酷使していたが、そんな従順な結を陰ながら助け、いつしか愛してくれていた彼が居たとは?結ははにかみながら俺に紹介し、母はそんな二人を頬笑みで包んだ。「そうか…にいちゃんは嬉しいよ」
俺にできるのはこれまで家や母を支えてくれた妹の幸を祝うことだけだ。そして「ありがとう、妹を選んでくれて」婿殿に妹を託した。そうなれば尚のこと俺が母を支えしっかりしなければ…金を送金すればいいでは無い!そんな自己満にあぐらをかいていたから罰が当たったんだ。母が俺のために守ってくれた貯金を糧に俺は、新たに職探しを始めた。結を安心して嫁に出すためにも俺が頑張る!今更ブラック企業なんてどうでもいい!かたぱしから休職した末俺は地元の運送会社にアルバイトとして採用された。運送会社は地元の町からふた駅離れた所にあり本社は誰もが知る有名運送会社でその子会社、配達地域は広く山や僻地にまで配達していたからアルバイターは常に募集していた。年齢学卒不問でとにかくすぐにでも働いてくれる者を募っていたため俺は面接から即結で翌日から助手として就けた。
大型トラックを運転する先輩は着くと交通規制を気にして荷物の配達を俺に任せ「停車できなかったら移動するからよ」特に細い路地では緊張していた。俺はただ配達してればいいわけでは無いんだと必死になり新職を学ぶのに真摯に向き合った。「おまえ真面目だから…」そう、俺はそれが取り柄だ!会社の社長から勧められ俺は車の免許を取りに行き「忙しい時は任すから」小型トラックでの配達を任せられるまでに半年過ぎる頃なっていた。
運送の仕事はきつい!重量や大きさに関わらず給与は一緒だ。再配達しなければならない時は中々終われない。
残業しても加算金は出なかった。そんな時は俺が代わっていた。
「斉藤さんは独身だからいいよな」家族がいる人、異性との約束がある人からは重宝がられたが
「斉藤さん、バカじゃない」利用されてる!指摘する事務員もいた。が、俺は
例え利用されていても身銭が得られれば母のためになると思い人一倍勤めた。

華音(7)

2020-11-30 17:29:38 | 小説
母さん!
母は病室のベッドで静かな寝息を立て寝ていた。
俺はその間に医師から話を聞くべく医局を訪ねた。
「あ〜斉藤さんですか」
「お世話になってます」
母は…喘息から肺を痛めていた。落ち着いてきたので本人が希望している自宅療養に切り替えては?提案され俺は結に告げた。「お兄ちゃん、お母さんが望むなら」結は賛成したが、家に帰るとまた無理するんじゃないか?危惧した。
真逆、働くつもりじゃないよな!目覚めた母に俺は「家に帰ってもいいってさ…だけどちゃんと養生しなよ」働くことはもってのほかだときつく止めた。そして「俺がこれからは側にいて働くから」支えていくことを約束した。母は半信半疑で笑い飛ばし「頼むよ」了承した。俺の手を握る母の手はか細くていつの間にかシワシワだ。こんな手で頑張ってきたのかと思うと俺は、親不孝を悔やんだ。金さえ送金してればいいってもんじゃない!10年ひと昔と言うがそれ以上帰らなかったんだ。変わり果てた母、それを支えて来た結…俺は仕事を選んでる場合じゃない!何でもやろう‼︎
気持ちを固めた。親父…遺影は立派だが散々母に苦労かけ、呆気なく死んじまったバカ親父。もし今でも親父が生きていたら…俺は此処に腰を据えようと思ったか?いや、その前に俺は帰省さえしなかっただろう。母が入院と知ってもまた少しばかりの金を送金して済ませたに違いない。そして今も安宿を金が尽きるまで塒にして、公園などで御救い飯を頂き職安に早朝並ぶ。その繰り返しで金が尽きたら?ホームレスか!
母を連れて家に帰り休ませると結が飯を作り始めたので俺はしばしテレビを見た。テレビも電気屋の前で見ていたりしてたからゆっくり横になってくつろげたのは久しかった。すると俺の決意を砕くニュースが流れ
「何だって?」大声を出しテレビにかじりついた。
そう、所謂…平成の大不況が来ていた!契約社員や派遣社員にとどまらず、正社員にも不況の嵐が襲っていた!
親亀転けたら子亀は潰れる!何でもやろうと意気込んでいたが…静止画のように口を開けたまま眼鏡は見開き固まった俺を呼び戻したのは母の優しさだった。
「敏也、心配せんでもいいよ」
母は俺が送金していた金を手をつけずに貯金していた。

華音(6)

2020-11-29 21:00:36 | 小説
自問自答していた間実家は想像を超えていた。
公衆電話がビービー鳴り急かすが俺は機械のように右手指を動かしコインを投入続け妹の結から近況を聞き出した。
マジか?呑んだくれの親父は酔いつぶれて道端に倒れそのまま寝入ってしまい、車にひかれてあっけない最期だった。母さんは働き詰めがたたり持病の喘息が悪化して倒れ病院に入院していた。
「そうだったのか?」俺の口から出たのは情けないがこんな相槌だけで兄らしい言葉はかけられなかった。俺が何とかしなくてはならないのに…今の俺は!電話口ですすり泣く結には言えやし無い!
「今直ぐ帰る」俺は電話を切ると残りのコインを置き去りにして上野駅に走った。
安宿仲間が手を振り、公衆電話に次に入った者がコイン忘れていると叫んでたが「やるよ」振り向かず答え…
帰ってからと言ってどうなるわけでもない。纏まった金があるわけでもない。今の俺は無職者だ!
上京した時は特急車だったが帰省は新幹線。勝手が変わってたが動揺していた俺は、ノンストップで新幹線に乗り込み空いている席に座った。とにかく乗ってしまえばジタバタしても仕方ない。ひと息つくと
「切符を拝見します」車掌が回ってきた。しまった!切符買ってない。しかもローカル線乗りついて来たけど改札口出ていないから…今更遅い!自己申告なんだけど俺は、「すいません、急いでたんで今買います」新幹線の切符代だけ払った。落ち着いた俺はこれからどうするか?思考した。地元でも仕事はないだろう!あってもアルバイトに毛が生えたようなもの。給与も小遣い稼ぎ程度しか貰えないはず。何しろ俺の実家はヘンピな田舎町、電車も単線で車両は一両だけ、整理券で乗る電車だ!そんな所に仕事なんて…とっさに乗ってしまったがジワジワ後悔が押し寄せてきた。
模索していると新幹線は降りる駅に到着してしまい答えが決まらない速さにため息をもらし俺はローカル線乗りついて懐かしい町に帰ってきた。懐かしいが古びた家、なんて顔すればいいんだ?家が近くなるにつれて足が重くなる。
「お兄ちゃん!」家の前で俺を待っていたのか?結が俺を見るなりかけてきた。
「お、おう」久しぶり。軽く手を振って照れ隠しする俺に結は「お兄ちゃん、おかえり」明日病院に行こう。今日は面会時間過ぎたから明日行こうと言って快く家の中に入れてくれた。
「ご無沙汰して悪かったな、元気だったか?」「うん、私は元気よ」本当に親父が死んだのか?半信半疑な俺だったが「お兄ちゃん、線香あげて」仏壇の遺影が増えている様で確信した。祖母の隣りの父遺影は普段飲んべえだった父では無くスーツ姿で凛としていた。

華音(5)

2020-11-28 23:38:47 | 小説
「え?」
認識するまで寸時かかったがその男は俺のことをよく覚えていた。
「あんたも文無しかい?」
公園でご飯を配っていたのはボランティア団体で並んでいたのは派遣切りで仕事を失った者達だった。
「俺もさ、文無しになってホームレスになっちまってよ」
聞いていないのに男は俺に身の上話を始め、安宿を出てからはガード下や公園のベンチなどを塒にしていたと言い
「お救い飯は有難いよな」
捨てる鬼あれば救う仏あり!有り難みを噛み締めていた。
「兄さんは何歳だね?」男はもう50だからこのままホームレス生活でのたれ死ぬだけだと目を落として言ったが、俺には「まだ若いんだからここで終わるなんてもったいないよ」激励してくれた。
「いや〜俺なんて…」名もない地方の普通高校出た俺なんて…就職がこんなに厳しくなるなんて!
「あいつが悪いんだよ!あの首相が!余計な法律作るから」酔って怒鳴る男もいた。
食い終わり俺はその男と別れまた仕事探しを始めた。がしかし運送業なら少しくらいきつくても…俺なりにこれでもかというくらい譲歩したけど、どれもこれも若さと学歴が阻み「短期アルバイトならね〜」寮付きの仕事にはありつけなかった。親戚でも近くにいればそこを拠点としてアルバイトからでも出来たけど…警備員や清掃員でも身元確かな者しか採用せず、安宿でも日が嵩張ると俺も金が尽きてきて…俺は
実家を出てから初めて電話をした。妹に押し付けたような形で出てきた家だった。まだ呑んだくれの親父はクダ巻いているのか?母さんは持病の喘息は大丈夫なのか?気にしていなかったわけではない。言い訳じゃ無い!俺は俺なりに頑張って来たんだ!自分に言い訳して行き場を失った俺は、躊躇う腕を収めて懐かしいダイヤルを回した。
「はい、斉藤です」電話に出たのは妹の結だった。予想だにしなかった懐かしい声に言葉を失いかけたが俺は振るい絞り冷静さを保ちながら近況を聞き出した。勿論俺の近況は順調だと嘘言って
「お兄ちゃん、大変なの!お母さんが…」
飄々とした俺の目を妹の叫嘆と怒恨が覚ました。
俺は…俺は…

華音(4)

2020-11-28 22:42:24 | 小説
ホテルを後にして直ぐに職安に行ったのに、すでに溢れてはないが列をなしていた。
何故?こんなにと思ったが俺の安泰だと確信していた会社も所謂リスストラにあったわけで、他の会社から溢れた派遣社員らが職を探して来ていた。朝9時だと言うのに2時間待ち…俺はこの時世の中の変化を悟った。
俺が就職してから10年以上は過ぎていたから世の中が変化していても変じゃない!けれど職安に求める者達は若者達が多くて俺は…安易に希望した事に深く後悔した。真逆⁉︎いったい何があったんだ?
俺は大学は出ていない。しかしそんなのは当たり前なはず…なのに言われたのは
「高卒ね〜、今じゃ大卒でも中々無いよ」担当者からのけんもほろろな対応。何なんだよ!
世は所謂派遣切りの時代だった!結局整理券を渡されただけで俺にあう仕事は無かった。
資格があるわけじゃない!普通高校出ただけで勤勉実直なだけが取り柄の俺には回る仕事は無かった。
「今は大卒でも中々無いよ、大卒でもピンキリだしね」国立大卒じゃない限り安泰な職にはつけない!冷たくあしわられた俺は、落ち着こうともアパートを借りる保証となる仕事が無いため、安宿に身を鎮めた。上野にある安宿は素泊まりで一日2500円、二階建てベッドで一部屋に4人まで泊まれたがプライバシーは無く、貴重品類は個人管理で紛失しても責任は持って貰えない。俺はそれでもトイレ風呂共同でも室料込みなのでそこで求人情報志を買い次の職場探しを続けた。会社は不況になると切りやすい派遣社員から捨てる。その宿で俺は他の切り捨てられた者達の恨み泣きを黙聞きした。俺は何てお人好しなんだ!そんな世の中なのに仕事一筋過ぎるよ!バカだよ俺!
テレビにも目もくれずしゃかりきに頑張ってきた俺の成れの果てがこれかよ!しかも自分から言う何て…何てバカなんだ!俺は悔み涙で枕を濡らし、再就職に掛けた。
が…しかし来る日も来る日も見つかってもアルバイト程度の仕事ばかり。職安は減るどころか求職者で増える一方で、30過ぎてからの再就職は難しく挫けそうになっていた。貯めた金も減る一方で安宿でも払えずひとりまたひとりと居なくなり、その人達が居場所がなくホームレスになっていたと知ったのは…俺がふらふら公園を歩いていた時見たボランティア活動のたまり場でだった。公園で例を成してるのを見かけた俺は、何かのイベントか?アルバイト募集かと近づいた。すると…「はいどうぞ、お一人一杯ですよ」美しい声が聞こえ、並んだ人達が皆無料で温かそうな汁椀とおにぎりをもらっていたではないか。俺も金が尽きてきていたのですかさず並んだ!そこで
「あれ、あんた俺と同じ安宿にいた人だよね?」
すっかり薄汚れてしまった顔なじみに声かけられた。