LiveInPeace☆9+25

「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」

[紹介]排除の空気に唾を吐け 講談社現代新書

2009-06-30 | 本・番組・映画など
[紹介]排除の空気に唾を吐け 講談社現代新書 720円(税別) 2009.3.

 湯浅誠さんと堤未果さんの対談『正社員が没落する』が紹介されていたので、触発されて雨宮処凜さんの『排除の空気に唾を吐け』を紹介します。雨宮さんの本は次々に出版されています。『「生きづらさ」の臨界』『生きるために反撃するぞ』『プレカリアートの憂鬱』『怒りのソウル』『排除の空気に唾を吐け』『ロスジェネはこう生きてきた』『雨宮処凛の「生存革命」日記』などなど。すでに時代を代表する作家と言ってもいいほどです。
 『排除の空気に唾を吐け』は、餓死事件や児童虐待、通り魔事件などの事件や犯罪を取り上げ、その背景や犯罪へと追い詰められる心理を解説した、雨宮さんの本の中でも異色の本です。表紙には、ゴスロリファッションでタバコを吸う、いかにも悪びれた雨宮さんの写真があります。この本には犯罪者をそれとして処罰するのではなく彼らを取り巻く社会への批判が貫かれています。そして、若者たちを襲う精神疾患やリストカット、オーバードラッグなど、本人の経験もふまえ常に当事者たちの視点から物を言っています。帯には、「事件・犯罪の背景には「社会の病」がある」というコピーがあります。
その中でも私が最も驚いたのは次の事例でした。08年3月埼玉で起こった幼児餓死事件。3人の子供をもつ29歳の母親が、6歳の長男に2歳の双子の男の子と女の子の世話を頼んで男のところに走ったという話です。「後はよろしく」と言われた長男は懸命に世話をしますが10日後に「弟が大変。起きない。」と母親に電話をします。母親は戻ってきますが部屋に入る勇気がなく、浴びるように酒を飲んだあげくに部屋に戻り、次男の遺体を発見したというものです。
 ところがこの母親には夫がいて単身赴任中。家には祖父母が同居。その中で6歳のこどもに2歳の双子の世話を任せて家出する。どう考えても異常な事件です。雨宮さんは、なんでこうなったかは母親にもわからないのではないかといっています。そして、20代前半から子育てに追われ、家族がいながら誰にも頼ることができず、自暴自棄、子どもを置いて家出するという罪悪感にさいなまれながらも、家にも帰れずというどうしようもない事態に追い込まれたのではないかと説明します。
母親の虐待と子育て放棄。しかし、雨宮さんははこの事件に対しても温かい目を向けます。「自暴自棄になるまで追い詰められて」、「もう少し助けを求めやすい社会だったら」という章を設けて、これは公的支援の問題だと断言します。母親がここまで追い詰められるまでに、駆け込んだり相談したりするところがあれば、救われたのではないかと。
 私が雨宮さんの本を読むのは、具体的な事柄を通じて、物事に対する見方、徹底して弱者の立場に立つとはどういうことかを教えてくれるからだと思います。
 この本の最後は、ジャーナリスト安田純平氏がイラクで米軍基地の料理人をしていた話で終わるのですが、これこそが「軍に入らなくても戦争に協力できる」究極の形態だといいます。しかもこれは、突拍子もない話ではなく、リアルな就職先なのです。なぜなら「年収200万円、住居の心配がいらず、基地の外に出歩けないので金が貯まる」という条件は、日本国内でホームレスやネットカフェ難民するよりも条件がいいと言うのです。それを「外注化された」現在の戦争の特徴と捉えます。貧困と戦争の深い結びつき。赤木智宏氏の「希望は戦争」というのは、単なる「丸山真男をひっぱたく」ためではなく、戦争があれば職にありつけるので「戦争を熱望するようになる」のではないかと危惧するのです。
 雨宮さんは、現在の状況に60年代末の永山則夫事件や90年代末の池袋通り魔事件を重ね合わせ、奇妙な符号を感じるといいます。もちろん統計的に実際に凶悪犯罪が増えているかどうかなどは別途検討する必要はあるでしょう。雨宮さんが主張するのは、かつては、繁栄から取り残された例外的な存在であった「永山則夫」のような境遇にある人たちが大量に生み出されているということです。そして、雨宮さんは「悩める人を孤立するな」と叫ぶのです。

(ハンマー)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。