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「二度はゆけぬ町の地図」感想 西村賢太

2011-01-21 | 小説・漫画他
実はこの作家さんのことは、全然知らなかったのですが、今回芥川賞受賞のニュースを見た時に、小学校時代父親が人に言えない様な事件を起こしたが故に、残された家族で夜逃げ、中卒で色々な仕事をしながら、小説を書いていた作家さんと知り、その経歴に興味を持ったので、彼の本を読んでみるに至りました。

いやぁ・・・・なんというか・・・。
読んだ後味は、決して良くは無いですが、ぐいぐい読ませる筆力がある作家さんだな~と思いました。
この小説には「貧るの沼」「春は青いバスに乗って」「潰走」「腋臭風呂」の4編が収められているのですが、主人公はこの西村さんご本人なんだろうな?と、勝手にそう思いながら読ませて頂きました。どれも同じ性質の主人公なので・・・。背景も西村さんと似通っているようですし。

どれも主人公が17才頃、多分1980年前後の日本が舞台が中心。
港での日雇い労働者として働く、中卒の主人公は、週に3,4日だけ働き、その稼ぎを酒や風俗店に使ってしまったりして、なかなか稼ぎが貯まらず、常に家賃を滞納しがちだ。
真面目に毎日働いて、ちゃんと倹約すれば、1ヶ月で10万円位は貯めることが出来るのに(実際に溜めたエピソードがある)、元来のなまけ性分で、なかなかそう出来ない。
今度こそは!と固い決意をするも、あぁ~そういう感じで挫折してグダグダになってしまうんだなあ・・・と、崩れて行く経緯を細やかに書いています。

主人公は、かっとなると、大家さんや、酒屋さんの気の良い経営者や、バイト先の上司、はたまた交際相手に、すごい暴言を吐いて、台無しにしてしまうという処がある。そのタンカの切り方といい(逆ギレとも思える時有り)、その暴言の凄さといい、怒りで暴力をふるってしまうところといい、激情型というかね・・・。特にアパートの大家さんへの暴言は酷かったですね・・(孫が女子高生だったと解って・・)

とはいえ、留置所内で、薬で何度も捕まってるが、自分に優しくしてくれた先輩2人に、連絡先を聞かれたものの、本当に電話が無くて答えられなかった事を、今後もつき合いが続く事を躊躇したと思われ(完全に躊躇しなかったとは言い切れもしないものの・・)複雑な心境になったり、でも律儀に後日、留置所に雑誌などを届けに行く処とかからも、情のある人なのが感じられる。

一番印象に残ったのが、厳格なお家の不細工な娘と交際していたエピソード。もともと、不細工だから声をかけて強く誘ったら落ちるんじゃないか?という下心から近づいて、遂にHが出来た時の失望の描写・・。こういう表現は、私は生まれて初めて読んだかもしれなくて、結構ショッキングでした。
以前、奥田英朗さんの「無理」だったか・・「ララピポ」を読んだ時にも、こういったシニカルというか、妙に冷めた女性不信というか・・不細工な女子をさげずみながらも、そういう女子と交際するしかない自分を情けなく思い苛立つ・・みたいな処があったんですが、それのもっと生々しい表現というか・・がありました。
でも、確かにこんな女子はイヤだー!って私も思いましたし、こんな女子なのにもかかわらず、自分がふられるなんて、こんな腹立つ事は無いだろうな?とも思いましたよ・・・。

毎日風呂に入れなくて臭くて・・・とか、腋臭のひどく強い人間への嫌悪感など、臭い系のエピソードが多く、中でもラストの短編「腋臭風呂」が、一番可笑しくて、読んでいて面白かったです。
銭湯に行くと、またあのワキガの男が!下半身は丁寧に洗うのに、本人は全く気がついていないのか、腋を洗わずに風呂にザバーンと入って来る。とたんにあの臭いがなくなる。同じお湯に浸かっている者としては、凄くイヤですよね。
でも、彼はワキガの人をみんな敵とみなしてるわけじゃなく、以前職場にいたワキガの知人がとても気を使って、腋の下にクリームをいつも塗っていたこととかも思い出しつつ、必死でなんとか耐えてる?わけです。

それにしても、港湾人足(マグロやイカの固まりを運ぶ等の日雇い)は、ただでさえ臭くなる魚介類の汁やら、夏場は自分の汗やらが混ざり、Tシャツがもの凄い匂う様になる。しかし銭湯代をケチって風呂に入らず、そのまま布団に入って寝たりしちゃう・・というのに、もう絶句。蟹工船を読んだ時にも、同様の気持ちになったけれども、あれは昔で、こちらは割と最近のエピソードなのに・・。

もう一冊西村さんの本を図書館でリクエスト中なので、そちらも近々読んでみます。
読んだ印象としては、柳美里さんのように、正直にぶちまけて書くことで、昇華させてる感?がある作家さんだな・・と思いました。

西村賢太
夢想と買淫、逆恨みと後悔の青春の日々……。デビュー作『どうで死ぬ身の一踊り』が「本の雑誌」が選ぶ文庫ベストテンで1位! 「苦役列車」で2011年芥川賞受賞。

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6 コメント

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作風 (真紅)
2011-02-04 14:45:03
latifaさん、こんにちは。
私も、この人芥川賞受賞で知って、一冊読んでみたよ。
いっつも、自分モデルにして書いてるのかな? 人生ネタ帳だね(笑)。
柳さんよりは、自分を道化にするのに長けてるっていうか、柳さんの書くもののように自己憐憫的なものは感じないかな。
まぁ、男性と女性の違いとか、育ってきた環境とか、いろいろあるからね。
今度の文藝春秋は買うぞ~、って思ってます。

ところで、前に『センセイの鞄』、読んでみて、、みたいなコメントもらっていたんだけど。。
あの本は、出版当時に読んでるんですよ。その頃は、中年(?)女性とおじいさんの恋愛、っていうのがちょっとピンとこなかったのかな。。
久世光彦さん演出で、キョンキョンと柄本明さん主演でドラマにもなったと思う(観てないんだけど)。
川上さん、また読んでみようかな~、印象変わってるかもね。
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真紅さん☆ (latifa)
2011-02-05 11:36:27
こんにちは~真紅さん
真紅さんが読んだ西村さんの本のレビュー、近々アップされるかな? 読みたいなぁ~!是非アップしてね

ぐははは!確かに人生ネタ帳だね。似たようなエピソードになりそうだけど、平々凡々に暮らしている人には経験出来ない様なネタが一杯ありそうだね。

>柳さんよりは、自分を道化にするのに長けてるっていうか、柳さんの書くもののように自己憐憫的なものは感じないかな。

す、するどいっ! まさにその通りだ・・・。

で、そうなんだ~「センセイ~」昔読んだことがあったんですね? その時はあんまり楽しめなかったのね?
でも、そうそう、確かに小説(映画もだよね)読む時期とか、自分の年齢とか経験で、同じ作品でも違って感じたりすることあるよねー。
 で、まさにそのキャストでセンセイ、映画化されてるんだって。私も機会があったら見てみたいって思ってるんだ。
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アップしてました (真紅)
2011-02-05 17:06:11
latifaさん、再びお邪魔です。
感想、このコメントした日にアップしてたんだ。。
違う本だからTBしなかったんだけど、送らせてもらいました♪
昨日『白夜行』観て来たよ。。とってもよかった!
ミチさんの感想が聞きたいね~、きっとご覧になってるよね?(涙)。
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真紅さん☆ (latifa)
2011-02-07 09:12:31
真紅さん、こんにちは
そうっか!コメント頂いた時すぐ真紅さんちに飛んだんだけど、そうなんだ~その日にアップされたのね?
違う本でも大歓迎だよ~~。
似た内容みたいね。
この作家さんの本って、一貫して自伝的な感じで、同じ雰囲気なのね? それ以外は書かないのかな・・。

おお~映画見て来たのね? とっても良かったって?そうなんだー。
私ね、船越さんが苦手なのよ・・・。ドラマ版の武田さんがとても良かったから、そこがネックになってるんだ~。私はレンタルかなあ・・。
ミチさんなら絶対見てるね
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日記のタイトル (とおりすがり)
2011-02-11 14:16:08
変だなぁと思って・・・
「二度」の間違いですよね?
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とおりすがりさん☆ (latifa)
2011-02-11 17:20:15
うわ!!
教えてくださって、本当にありがとうございました。
全く気がつかずにいました。
本当に感謝です!!
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