"暮らしのリズム"的できごと

先人が培った暮らしの知恵を通じて今を楽しむ【暮らしのリズム】のブログ。旧暦、落語、音楽、工芸品、食、民俗芸能などをご紹介

江戸の名建築が蘇ります

2010年09月06日 21時37分08秒 | まち歩き

 旧七月二十七日。相変わらず厳しい残暑が続いています。猛暑日や熱帯夜の記録が次から次へと書き換えられているようです。0906urokogumo 夏の象徴である太平洋の高気圧がとても強いのでしょう。台風がやってきても日本海の方に行ってしまいます。なかなか空気が入れ替わらず、涼しい陽気にならないのでしょうか。それでも空を見上げればもうすっかり秋です。右の写真は9月3日金曜日の夕方4時半頃。表参道から渋谷方面に広がっていた鰯雲、うろこ雲とも言うのでしょうか。少し傾いて薄ら橙色の陽光に照らされた雲と青空のコントラストは、まさに秋を感じるものでした。

 都会のオアシス、旧浜離宮庭園は四季を感じられるだけではなく、江戸の大名庭園を今に伝える貴重な歴史的名跡でもあります。今は東京都立の公園となっていて、6年前からは史実に基づいて修復や復元が行われています。特に平成20年度から始まった「御茶屋」の復元がこれからますます盛んになることでしょう。
 今は潮入りの池に面した「松の茶屋」の復元が佳境を迎えています。白いテントのベールに覆われた中でどんな作業が行われ、足を運ぶたびに今はどんな姿なのだろうか、と興味津々眺めていました。
0906matsunochayaそんな中、たまたま都のホームページを眺めていたところ「松の茶屋復元工事現場見学会」の募集があり、飛びついてしまいました。
 本来の「松の茶屋」が建てられたのは十一代将軍家斉時代(1787年~1837年)で、第二次大戦の空襲で焼失してしまったそうです。礎石がそのまま残っていたことと、史料が豊富だったことが幸いしているとのことで、創建当時の姿・材料・工法を出来る限り忠実に再現しているそうです。建物は茶室建築などに代表される「数寄屋建築」。随所に見られる粋な意匠と技術を極めた職人の心意気が伝わってきます。(写真左上から時計回りに)茶屋は十畳の間と十三畳の間が続いています。奥が十三畳の間で天井板には屋久杉が使われています/長押釘の隠し金具は松毬と蝉の意匠。蝉は文献にしか残っていないので試作だそうです/南側の縁側に座って潮入りの池から中島の茶屋を望みます。将軍様もこの風景を愛でていたのでしょう/この礎石は創建当時のもの。足柄の小松石です。
 感動的なのは屋根の美しさ。軒の高さに組まれた足場に上って間近で見学が出来ます。
0906yaneサワラ材を3mmの薄さに割って重ねて葺く「杮葺き(こけらぶき)」という技法で出来ています。(写真左上から時計回りに)意匠の細やかさと正確な業をこの視線で見られるのは貴重な体験/厚さ3mmを3cmずつずらして葺くと厚みは10cm以上になります。下には立派な杉の磨き丸太が見えます/サワラ材の屋根板は竹釘二本で固定されます/北西の角のカーブ。繊細で美しい様は職人業の極みです
 見学会は1時間で終了。猛暑の午後、縁側では冷たいお茶が振る舞われ、実際屋根に使われるサワラ材の屋根板と、0906omiyage 天井板に使われた屋久杉材の端材ををお土産に頂きました。
 「復元にあたり、資料を集め調査を進めてゆくのに従って先人の知恵と業の素晴らしさに驚かされました」と言う言葉には重みを感じます。スタッフの皆さん、施工業者の皆さん、設計士の方、貴重な体験を企画・サポートして頂きましてありがとうございました。
 松の茶屋を囲むベールは9月中に取り払われ、日の目を見るそうです。完成までもう少し。ただならぬ愛着を感じる建物になると思います。11月下旬には落成するそうです。機会がありましたらぜひ見にいらして下さい。旧浜離宮庭園は一年間有効の年間パスポート1200円があります。お近くの方には断然お得でおすすめです。