やま建築研究所

私が感じたこと、気になった建築などを書き留めたノートです。

オレ建は「旧古河庭園」です。長いけど写真だけでも見てくださいな。

2008年04月25日 00時57分50秒 | 建築の歩き方

昨日と今日は二連休。
仕事のある日は毎日朝早く夜遅いので休みの日は寝溜めです。
今日は久しぶりに映画に行ってきました。
2007年度アカデミー作品賞の「ノーカントリー」です。
友人の鬼氏より推薦があったので見てみました。
一言でいうと、事件に巻き込まれた一般人が殺し屋に追いかけられる話です。
殺し屋の不気味さ、理不尽さがひしひしと伝わってくる怖さがありましたが、結末がいまいちよくわかりませんでした・・・。

オレ流建築の歩き方は東京都北区にある「旧古河庭園」です。
2008年1月9日に行ってきました。

初夏と晩秋には洋風のテラス式庭園に咲くバラが見頃となり、多くの人でにぎわいます。
バラで着飾られた大正時代の洋館。
訪れた人を歴史と異国のロマンスへといざないます。

でも私が訪れたのは季節外れの1月。
花よりダンゴ。だって、そこに建つ旧古河邸が目当てですから。


   旧古河邸 バラはまだ咲いていません

古河とは古河財閥の創業者一族。現在ではみずほ銀行を筆頭に損保ジャパン、古河電気、富士通、新日軽などなど蒼々たる企業グループを形成しています。
創始者は古河市兵衛。京都の豆腐屋から鉱山経営で財をなした立志伝中の人物です。

でも古河庭園は市兵衛によって造られてはいません。
もともとは明治時代の外務大臣、陸奥宗光の別邸が建っていた場所。
宗光の次男・潤吉が市兵衛の養子になった時に古河家の所有となりました。
ところが二代目となるはずだった潤吉ですが、病弱のため市兵衛の亡くなった二年後に亡くなります。
その後、白羽の矢が立てられたのが実子の長男であった虎之助
古河家三代目当主となり、現在に残る庭園と洋館の施主となります。

古河虎之助(1887~1940)

設計の依頼先は日本建築界の基礎を築いたジョサイア・コンドル


ジョサイア・コンドル
(1852~1920)

英国から政府の要請で来日。東京大学で教鞭をとり、東京駅を設計した辰野金吾、赤坂の迎賓館を設計した片山東熊を育てあげただけでなく、自身も上野の旧岩崎邸やニコライ堂などいずれも現在では文化財となっている建物を設計しました。


          旧岩崎邸(台東区)


        ニコライ堂(千代田区)

さてこの古河邸ですが、館内見学は予約制、ガイド付きとなります。
しかも内部は写真撮影禁止。
なので私つまらない実況リポートが長くなりますがご容赦を。

大正六年(1917)に完成後、関東大震災、東京大空襲といった天災人災、修羅場をくぐりぬけた都内でも数少ない時代の生き証人です。


      時代の生き証人 旧古河邸

完成当時は大食堂やビリヤード室が備わったこの館は、住まいとしてだけでなく、著名なお客を招いて接待する場としても使われました。

「庶民感覚とかけ離れた、きらびやかな上流階級の社交場」

なんだか反感を買いそうですが、関東大震災時は虎之助氏の決断で敷地全部を開放して避難者を受け入れます。
ほとんど被害のなかった本館は、1階を臨時の診療所として負傷者の救護にあてがい、さらには庭園にあった温室を取り壊し、仮設住宅を建設。
家を失った人々に一時的な住まいを提供しました。


           正面玄関側

その後ほどなくして虎之助氏夫妻は新宿区へと転居しますが、この洋館は古河財閥の迎賓館として使われてきました。

大正、昭和の激動の時代に働き盛りだった洋館も戦後は財閥解体の余波を受け、国有財産となってしまいます。
しばらくは手入れもされず、傷みが進んでいたご老体も平成の今となっては東京都指定文化財として、再び往来の輝きを取り戻しています。




この古河邸、外からみると山荘風のペンションのような形です。

        ペンション風のファサード
        (この日は工事中でした)

時代の重みも相まって、どっしりとした建物構造はレンガ造りの組積造。壁の厚さはなんと50cmもあります。
外壁は火山岩の一種で小松石による仕上げです。


      小松石の外壁にズームイン!!

もともとは住居として作られたせいもあるのか、威厳のある他の財閥の迎賓館や国賓を迎える迎賓館と違って、暖かさが感じられます。
どの面から見ても完全な左右対称でないところが、親しみを持てる所以でしょうか。


            南西側


             南側

玄関より邸内に入ると大きなホールが広がり、各部屋へとつながっています。
ホールの特徴は漆喰塗りの白を基調にナラ材の腰壁そしてアーチ式欄間のアクセント。

まず入ったのが玄関横のビリヤードルーム
紳士の社交場として使われていたのでしょうが、今はビリヤード台はありません。
床の補強部分や照明が当時の面影を忍ばせます。
ビリヤードルームの延長には喫煙室があります。この頃も禁煙、喫煙の区別があったことに驚かされます。
サンルームのように明るい室内に、床や壁の幾何学模様。ちょっとうるさい気もしますが古き良きモダンといった感じですね。


          喫煙室外側

ビリヤードの合間に喫煙、そして談笑。当時のセレブな男性のたしなみが目に浮かんできます。

隣は書斎で、喫煙室ともつながっています。虎之助氏の煙草好がうかがえます。
腰壁や作りつけの本棚、暖炉のマントルピースはナラ材です。落ち着いた色合いとキズの付きにくさから、現代の住宅でも好まれています。

つづいて食堂。お客様へのもてなしや打ち解けた会話を楽しむための場所へとやってきました。
南側のベイウインドウ(張り出し窓)により奥行きが感じられますが、広過ぎず派手過ぎず、ちょっと背伸びした洋風レストラン風の気取らなさが好感もてます。


食堂外側のベイウインドウ

内装の高めの腰壁は声を通りやすくするもの。
セレブたる者、食事中大きな声で話すのはマナー違反。小声で話してもよく聞こえたそうです。

二階へ登ると、ホールは天窓からの光が差し込み、中廊下と思えない明るさ。
腰壁、格天井、アーチ、シャンデリアに飾られた一階ホールと違ってシンプルな漆喰色。
扉の向こうに何があるのか、想像力をかき立てます。

まずは階段横の部屋の案内です。部屋の用途は仏間でしょうか。
扉を開けると板の間。障子を開いてみると寺の窓でおなじみの火頭窓のオブジェ
窓といっても大きな開口部になっています。
趣味の良し悪しは別にして、そこはやっぱりイギリス人の建築家。
外国人の目からみたニッポンが表現されています。

ホール正面の大きな扉の先は、純和風の大広間。
欄間、床の間、違い棚といったニッポン伝統のボキャブラリー
ふすまを取り払えば大空間。冠婚葬祭なんでもこいといった伝統的ライフスタイルも踏襲しており、設計者コンドル先生の日本への理解の深さがうかがわれます。
でも本当にそんな集いをこの場でやっていたのかはわかりませんけどね。

窓際には広縁なるものもありますが、やっぱりここは洋館。
窓は縦長の上げ下げ窓です。


            上げ下げ窓

大広間の隣には小ぶりの、といってもそれぞれ八畳の座敷が二間続いています。
茶道など外国人が喜びそうな日本オリジナルの接客はここでやっていたのかなと想像がふくらみます。

柱を計ってみると三寸五分(10.5cm)角でした。
建物自体はレンガ造りなので飾りの柱ですけどね。

庭に面した子供部屋を抜けていくと眺望陽当り抜群の洋間の主寝室があります。


         二階主寝室外観

ウォークインクローゼットが隣接していますが、内装は洋風、床は畳敷きです。
洋服和服の着替えや整理のしやすさだけでけでなく、息抜きにゴロ寝もできる気安さ。
そんな使い勝手な和洋折衷もありだなと気付かされました。

浴室も二階です。
白を基調に二面採光の窓で室内はかなり明るいです。
浴槽は円筒形で深さもありますが、建物の大きさ浴室の大きさに比べると小さい気もします。
例えるなら高級 五右衛門風呂
ここにも日本の伝統が生きてます。

ここは旧古河庭園。

庭が建物を引き立てているのか、建物が庭を彩っているのか。

それは訪れる人それぞれが感じる事。でも建物と庭は一心同体。

南側の段差を利用した西洋風の庭もコンドル先生の設計です。
幾何学を形作るツツジに囲まれた中はバラ。見頃は初夏と晩秋です。


      手前が西洋式幾何学庭園

段差を下るにしたがって西洋式幾何学庭園から日本庭園へグラデーションのように変化します。


  幾何学庭園から日本庭園へと移り変わる

この回遊式の日本庭園の部分は平安神宮や八坂神社の庭園も手がけた京都の庭師 小川治兵衛 氏作


          和風庭園部分


西洋の鉄人と和の鉄人による西洋式庭園と和風庭園の共演。
ここでしか味わうことができません。

庭を歩いているとちょっとした森林浴気分。風情のある滝や枯山水に心奪われ、都心にいることを忘れさせてくれます。


    庭園内。都心とは思えない静けさ。



           庭園内の滝


            枯山水

と思いきややっぱり都心。背後には無愛想なビルがそびえ、現実に引き戻されます。
都心なので、いたしかたないにしてもデザインはもう少し考えて欲しいですな。


     庭園の裏手には高層ビルが

庭園奥にはかつての馬小屋がのこっています。
今は倉庫として使われているそうですがこれもコンドル先生作。


        昔馬小屋、今倉庫

そう思って見ると、どことなくがありますな。














 


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