昨日に引き続き、リビア空爆について考察してみます。
とはいえ、日本ではまだまだ地震関連のニュースが多いですね。昨夜のNHKニュース7ではさすがにリビア関連のニュースがあるかなと思っていましたが、30分間全て地震関連でした。確かに被害の大きさを考えれば当然かもしれませんが。
さて、今日は、昨日記した、「保護する責任」の4つの要件が今回のリビア空爆に当てはまるかなどについて考察してみます。
(a)正しい意図(right intention):介入の主要な目的が、人間の苦痛の排除にあること
連合軍がリビア空爆の目的としているのは、「飛行禁止空域」の設定であり、ガタフィ政権側による反政府勢力への無秩序な空爆をやめさせることと言われています。ご案内のとおり、「飛行禁止空域」を国際社会が設定すると言っても、それが実効あるものになるためには、敵側の制空権を抑える必要があります。そのために、連合軍は、ガタフィ政権側の対空能力を奪うべく、軍事基地などを攻撃しています。
この時点では、連合国として、ガタフィ政権の打倒まで直接的に踏み込んだわけではありません。国際社会の足並みが若干乱れる中、そこまで踏み込んで言及してしまえば、空爆への了解が取れなかった可能性さえあります。
ただ、多くの国が、そこまで見通しているのもある程度事実だと思います。実際、イギリスのヘイグ外相は、「ガタフィ大佐を攻撃目標とすることは、状況次第」(時事通信より抜粋)として、含みを持たせています。
人道的介入の歴史をたどっても、饗場(2008)によれば、「介入主体の意図・動機には人道目的の利己的要素が付随し、場合によってはそれが主要な部分を占めうるのがむしろ一般的」である。また、Frank&Rodley(1973)は、「自国に利益がない時には介入しないのが一般的」とさえ言っている。
考えてみればそれも理解できる。自国民の兵士を危険にさらす以上、いわば理想主義的な人道目的以上に、実利的に、自国民に武力行使を納得させうる「利益」がなければならない。そのため、大国が人道目的以外を念頭において軍事行動を行ったからと言って直ちに非難されるべきではないと考える。必要なのは、人道目的と、それ以外の目的のバランスである。
連合軍の意図として、「飛行禁止空域」を設定することで、ガタフィ体制側を停戦交渉のテーブルにひっぱりだそうとしており、それ自体は純に人道目的と言えると思います。
(b)最後の手段(last resort):あらゆる非軍事的選択肢が尽くされたこと
国連安全保障理事会における決議、旧宗主国のフランスをはじめとした欧州各国による調停、国連から派遣された特使、アフリカ連合(AU)による仲介など、報道されている限りにおいても、国際社会が各種の外交的努力をしてきたことは紛れもない事実だと思います。
問題は、すでにその外交努力が決裂するほどの状態なのかということです。ただ、政権側の反政府部隊への攻撃は悲惨さをましており、その攻撃はとどまるところを知りません。こういう中で、停戦合意をいっこうに進めようとしない政権側の態度は国際社会の受忍限度を超えたと言えると思います。
(c)比例的手段(Proportional means):軍事規模の行動・期間が必要最低限のものであること
中国・ロシアなどが今回の軍事作戦に積極的に賛成していない(安保理決議でも棄権した。)以上、大規模な軍事作戦に発展することは、英米仏としても避けたいはずです。また、オバマ大統領が述べているとおり、アメリカ軍は陸上部隊の派遣を決して、決してしないと繰り返し言及しています。陸上部隊が投入されれば長期化は避けられませんからね。(a)でも述べたとおり、連合国による攻撃は政権側の軍事基地などに対して行われているようです。
(d)妥当な見込み(reasonable prospects):軍事行動により事態が改善する見込みがあること
繰り返しになりますが、連合軍としては、「飛行禁止空域」を設定することで、ガタフィ体制側を停戦交渉のテーブルにひっぱりだそうとしており、実際、ガタフィ政権側は、「即時停戦に応じるよう全部隊に命令した」と発表しています。ただ、この命令がどの程度実効性のあるものなのか、あるいは見かけ倒しなのか、それはここ何日かの推移を見守る必要があると思います。
今日もだいぶ長くなってしまいました。
明日は、「保護する責任」に内在する論理的な問題点を中心に考察します。
とはいえ、日本ではまだまだ地震関連のニュースが多いですね。昨夜のNHKニュース7ではさすがにリビア関連のニュースがあるかなと思っていましたが、30分間全て地震関連でした。確かに被害の大きさを考えれば当然かもしれませんが。
さて、今日は、昨日記した、「保護する責任」の4つの要件が今回のリビア空爆に当てはまるかなどについて考察してみます。
(a)正しい意図(right intention):介入の主要な目的が、人間の苦痛の排除にあること
連合軍がリビア空爆の目的としているのは、「飛行禁止空域」の設定であり、ガタフィ政権側による反政府勢力への無秩序な空爆をやめさせることと言われています。ご案内のとおり、「飛行禁止空域」を国際社会が設定すると言っても、それが実効あるものになるためには、敵側の制空権を抑える必要があります。そのために、連合軍は、ガタフィ政権側の対空能力を奪うべく、軍事基地などを攻撃しています。
この時点では、連合国として、ガタフィ政権の打倒まで直接的に踏み込んだわけではありません。国際社会の足並みが若干乱れる中、そこまで踏み込んで言及してしまえば、空爆への了解が取れなかった可能性さえあります。
ただ、多くの国が、そこまで見通しているのもある程度事実だと思います。実際、イギリスのヘイグ外相は、「ガタフィ大佐を攻撃目標とすることは、状況次第」(時事通信より抜粋)として、含みを持たせています。
人道的介入の歴史をたどっても、饗場(2008)によれば、「介入主体の意図・動機には人道目的の利己的要素が付随し、場合によってはそれが主要な部分を占めうるのがむしろ一般的」である。また、Frank&Rodley(1973)は、「自国に利益がない時には介入しないのが一般的」とさえ言っている。
考えてみればそれも理解できる。自国民の兵士を危険にさらす以上、いわば理想主義的な人道目的以上に、実利的に、自国民に武力行使を納得させうる「利益」がなければならない。そのため、大国が人道目的以外を念頭において軍事行動を行ったからと言って直ちに非難されるべきではないと考える。必要なのは、人道目的と、それ以外の目的のバランスである。
連合軍の意図として、「飛行禁止空域」を設定することで、ガタフィ体制側を停戦交渉のテーブルにひっぱりだそうとしており、それ自体は純に人道目的と言えると思います。
(b)最後の手段(last resort):あらゆる非軍事的選択肢が尽くされたこと
国連安全保障理事会における決議、旧宗主国のフランスをはじめとした欧州各国による調停、国連から派遣された特使、アフリカ連合(AU)による仲介など、報道されている限りにおいても、国際社会が各種の外交的努力をしてきたことは紛れもない事実だと思います。
問題は、すでにその外交努力が決裂するほどの状態なのかということです。ただ、政権側の反政府部隊への攻撃は悲惨さをましており、その攻撃はとどまるところを知りません。こういう中で、停戦合意をいっこうに進めようとしない政権側の態度は国際社会の受忍限度を超えたと言えると思います。
(c)比例的手段(Proportional means):軍事規模の行動・期間が必要最低限のものであること
中国・ロシアなどが今回の軍事作戦に積極的に賛成していない(安保理決議でも棄権した。)以上、大規模な軍事作戦に発展することは、英米仏としても避けたいはずです。また、オバマ大統領が述べているとおり、アメリカ軍は陸上部隊の派遣を決して、決してしないと繰り返し言及しています。陸上部隊が投入されれば長期化は避けられませんからね。(a)でも述べたとおり、連合国による攻撃は政権側の軍事基地などに対して行われているようです。
(d)妥当な見込み(reasonable prospects):軍事行動により事態が改善する見込みがあること
繰り返しになりますが、連合軍としては、「飛行禁止空域」を設定することで、ガタフィ体制側を停戦交渉のテーブルにひっぱりだそうとしており、実際、ガタフィ政権側は、「即時停戦に応じるよう全部隊に命令した」と発表しています。ただ、この命令がどの程度実効性のあるものなのか、あるいは見かけ倒しなのか、それはここ何日かの推移を見守る必要があると思います。
今日もだいぶ長くなってしまいました。
明日は、「保護する責任」に内在する論理的な問題点を中心に考察します。