「けやぐの道草横丁」

身のまわりの自然と工芸、街あるきと川柳や歌への視点
「けやぐ」とは、友だち、仲間、親友といった意味あいの津軽ことばです

#26. 柊 =木×春夏秋冬÷四季

2013年12月23日 | 植物
▲ ヒイラギ/近所のコンビニの前の植込み



柊の家紋/抱き柊


§1.文字の由来

  旁(つくり)の「冬」という文字。由来は「糸の最後の結び目」を表わす象形から、「一年の月日の終わりの季節」を意味しているそうです。

  「柊」という文字。ヒイラギは葉のトゲに触れるとヒリヒリ痛むことから、「ひりひり痛む(疼痛)」という意味の古語「ひひらく(疼く)」の「疼」と、「冬」の意味とを併せ、日本で当てられた漢字といわれます。


§2.ヒイラギ

・ヒイラギ
  「木」+「冬」=「柊」。訓読み:ひいらぎ、音読み:シュウ、英名:Chinese-holly etc.、学名:Osmanthus heterophyllus 。
  モクセイ科モクセイ属の1種。東アジア原産の常緑広葉樹。雌雄異株。葉は「対生」し、縁には先が鋭い刺となった鋭い鋸歯がある。11~12月葉腋に白色の小花を密生させる。果実は核果で、長さ12~15mmの楕円形になり翌年の春に黒褐色に熟す。花には同じモクセイ属のキンモクセイに似た芳香がある。

  老樹になると葉の刺は次第に少なくなり葉は丸くなる。日本では本州(関東地方以西)、四国、九州、琉球の山地に分布し、台湾でも見られる。「柊の花」 は冬の季語。

  葉に棘があるため、防犯目的で生け垣に利用され、低木で常緑広葉樹であるため、盆栽などとしても作られる。

  幹は堅くかつしなやかで強靱な耐久性を持っていることから、玄翁(げんのう)の柄にも使用される。特に熟練した石工はヒイラギを自宅の庭先に植えて利用する方もいる。また、細工物、器具、印鑑の材料などに利用される。

  古くから邪鬼の侵入を防ぐと信じられ、庭木に使われてきた。家の庭には表鬼門(北東)にヒイラギ、裏鬼門(南西)にナンテンの木を植えると良いとされている(鬼門除け)。また、節分の夜、ヒイラギの枝と大豆の枝に鰯(イワシ)の頭を門戸に飾ると悪鬼を払うといわれている(柊鰯)。

  兄弟ともいえる同じモクセイ属の異種に、

・ギンモクセイ
  銀木犀 / 英名 fragrant olive etc./ 学名 Osmanthus fragrans Lour. var. fragrans / いわゆる「もくせい」。花は白色。


▲ ギンモクセイの果実/東京・北区中央公園

・キンモクセイ
  金木犀 / 英名 fragrant orange-colored olive / 学名 Osmanthus fragrans Lour. var. aurantiacus Makino / ギンモクセイの変種。日本には雄株だけが移入されたので、実を結ぶことがない。花はオレンジ色。


▲ キンモクセイの花冠の吹溜り/東京・北区十条台の路地

・ヒイラギモクセイ
  柊木犀 /英名 fortune tea olive/ 学名 Osmanthus × fortunei Carrière / ヒイラギとギンモクセイの交雑種。実を結ばない雄株だけが見られるとされている。


▲ ヒイラギモクセイの葉/東京・千代田区神田錦町の植栽

などが、また、従兄弟ともいえる同じモクセイ科の異属には、オリーブ属、レンギョウ属、ソケイ属(ジャスミン etc.)、ハシドイ属(ライラック etc.)、イボタノキ属(ネズミモチ etc.)、トネリコ属(アオダモ etc.)などがあります。


§3.「ヒイラギ」の民話

  民話には、いにしえの人々の優しさ、くらしの知恵、歴史の記憶といったものごとが見え隠れしています。ヒイラギにまつわる民話を探してみると、ありました。

  岡山に伝わるお話で、地元の俳人・民話研究家である貝原■璋(かいばらがしょう/1886~1969)の語りを基に、「まんが日本昔ばなし」でも取り上げられたものです。あらすじを原文のまま紹介します。 ■=王ヘンに我

「鬼と小娘」
  《 今からずっと昔のこと、海が南に退いて、やっと備前平野が現れた頃の話。吉備の祖先はこの平野に新しく村を作るため、笹ヶ瀬川を下って山の方から下りてきた。

  辺りは見渡すばかりの葦原。いったいどこに村を作ろうかと人々が思案していると、一匹のカニが現れ、人々の前で15×10メートルの四角形を描きながら歩いた。

  これが、作ろうとしていたお宮の寸法とぴったりだったので、人々はそこにお宮を建て、村を作ることにした。これが今の「蟹八幡」である。

  さて、葦原を開拓した土地は豊かな土地となり、村はどんどん栄えていった、ところが村が栄えるにつれ、「鬼」が現れ、豊かな村を襲うようになった。鬼は決まって、「きれい盛り、働き盛りの娘たち」をさらっていくのだった。

  そんなある夜のこと、一人の娘が家を抜け出して、北に向かって山道を歩いて行く。娘は、このままでは自分も鬼にさらわれてしまうと思い、「鬼が苦手とするヒイラギ」を探しに家を出たのだった。そして、とうとう7日目に美作の国の久常(ひさつね)で、おおせの森と呼ばれるヒイラギの大木を見つけた。

  娘は早速ヒイラギの子株を持ち帰って、村の中心に植えた。すると、ヒイラギの子株を植えた日から、鬼はパッタリと姿を現さなくなり、村人たちは安心して暮らすことができた。

  鬼はこの忌々しいヒイラギが枯れてしまうのを待っていたが、ヒイラギはどんどん大きくなるばかり。とうとうある晩、鬼は大岩をヒイラギにぶつけて潰してしまおうと考えた。

  鬼は、長さ30メートル幅10メートルもある大岩を持ち上げると、左足を「のどろ山」にかけ、右足は「花尻山(はなじりやま)」にかけて「久米のヒイラギ」目がけて大岩を投げた。

  ところが力が余って、大岩は久米のヒイラギを通り越し、今保(いまぼう)の田の中に落ち、そこからさらに跳ね上がって、1キロも離れた高尾の山の頂上に乗っかった。これが「烏帽子岩(えぼしいわ)」になり、今保の田には大きなくぼみが出来て、これが今の「八幡沼」になった。そして、のどろ山と花尻山には、今も鬼が足を踏ん張った跡が残っているそうだ。

  その後、「久米のヒイラギ」は大木に育ち、魔よけにヒイラギの枝を持って帰り、門ごとに打ち付ける風習が残った。そして、鬼は今でもヒイラギが駄目になるのを待っているのだという。 》


  ヒイラギの持つ「鬼門払い」、「悪鬼除け」の力を切札に、一方で地域の名所・旧跡を織り込んでその由来を説く、典型的な「国産み譚」・「村つくり譚」となっています。

  古代の海退によって平野ができ、祖先が日本海側から山を越えてやってきたことは、地誌学の説に基づき、「鬼」は外敵となった異部族・異民族を示しているようです。また、ヒイラギを門ごとに打ち付ける風習に結び付けて、話の信憑性や伝統性を高めています。


§4.「久米のヒイラギ」

  文中の「久米のヒイラギ」について、実在するのではないかと思い、調べてみると、「おかやま名木バンク」(岡山県農林水産総合センター・森林研究所/平成18)には、「三成/さんなり/のヒイラギ」とあって、樹齢400年、津山市(旧久米郡久米町)中北下、(樹高)5m、市天然記念物とあり、「増殖対象木」のひとつに選定されていました。(▼ 資料画像)


  見るからに痛々しい限りのようすで、データには平成18年とあり、虫の知らせか、津山市役所・久米支所に問い合わせてみると、ご親切にもすぐに所有者方に確認してくださり、そのご報告はやはり、最近枯れ死したため伐採されたとのことでした。大往生に合掌…。ご協力に深謝です。

  ただ、本文の末尾に「鬼は今でもヒイラギが駄目になるのを待っている」とあったことが気がかりでもあり、ご存じではないごようすでしたので、でしゃばりとは思いつつ、この民話の内容をごく簡単にお伝えしました。

  しかし、よく考えてみると、村人たちが「魔よけに持って帰った」ヒイラギの枝は、きっと「挿し木=クローン」で町の随所に生き残っているに違いありません。

  この民話に、「久米の大ヒイラギ」が消滅したという現実を加え、これをチャンスとして将来の観光振興の種にするという発想は、民話を後世に残した貝原■璋翁の希望でもあると思います。 ■=王ヘンに我

  「ヒイラギ」と「民話」という他にはない貴重な文化財を、ぜひ次の世代に大切に手渡してほしいものです。


§5.セイヨウヒイラギ

・セイヨウヒイラギ
  =セイヨウヒイラギモチ / 西洋柊 / 英名:European holly etc. / 学名:Ilex aquifolium / 園芸用に栽培されるモチノキ科モチノキ属の常緑広葉樹。葉は「互生」。雌雄異株。ヨーロッパ西部・南部、アフリカ北西部、アジア南西部原産。( ▼資料画像)


  クリスマスの装飾の定番として使われるセイヨウヒイラギと、日本に在来のヒイラギ(モクセイ科モクセイ属)は、一見、葉の形がよく似ているので混同されやすいのですが、前述のようにヒイラギの葉は「対生」し、実が黒紫色に熟すなど、全く別の植物です。

  常緑で真冬に目立つ赤い実をつけることから、ヨーロッパではキリスト教以前にも聖木とされていました。材は白く堅いので、細工物、特にチェスの白駒(黒駒は黒檀など)に使われます。

  モチノキ属 Ilex にはほかに、イヌツゲ Ilex crenata 、モチノキ Ilex integra、タラヨウ Ilex latifolia、アオハダ Ilex macropoda、クロガネモチIlex rotunda、ウメモドキIlex serrate、イェルバ・マテIlex paraguariensis(マテ茶の原料)などがあります。

  ちなみにアメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスのハリウッド Hollywood は、「ひいらぎの森」という意味ですが、元々はイチジク果樹園で、ハリウッドという別荘の名を、ウィルコックスという不動産業者の奥様が気に入り、その土地の名として名付けたことに始まる地名とされています。(当初は Hollywoodland と呼ばれていたということです。)


ヒイラギを伐って繋げるハイウェイ  蝉坊



《 関連ブログ 》
● けやぐ柳会「月刊けやぐ」電子版
会員の投句作品と互選句の掲示板。
http://blog.goo.ne.jp/keyagu0123
● ただの蚤助「けやぐの広場」
川柳と音楽、映画フリークの独り言。
http://blog.goo.ne.jp/keyagu575

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