泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

劇画 ヒットラー

2018-02-08 17:24:09 | 読書
 

 水木さんの残した隠れた名作。
 本人は、隠すつもりなどないでしょう。むしろ読んでほしいでしょう。戦争を知らない世代の子たちに。
 でも、世間の扱いは「妖怪漫画家」一辺倒のように見えてしまう。
 それはさておき、内容は、ヒットラーの青年時代から死まで。
「ヒットラー」という、これもステレオタイプな理解を壊し、再構築してくれた。
 一人の人間として描いている。実際、そうだった。
 人が都合よくこしらえてしがみつく観念や理想と、命ある生命体として日々変化する営み。この二つがかけ離れるほどにカウンセリングが必要とされます。
 私もかつて、この二つの引き裂かれによってさんざん苦しんだわけですが、ヒットラーもまたその一人だった。
 父親との不仲。母からの溺愛。中学校を成績不良のため中退。国語と数学が苦手だったようです。
 画家になると言って美術専門学校の試験を受けるが、こちらは二度も不合格。頭部デッサンの課題を未提出という。
 父もまた小学校卒業までという学歴だったが、努力して役人として成功した。かなりの高給取りとなっていた。
 その代償というか、報酬なのか、女性に目がなく、真相は定かではないけど、結婚した妻は次々と亡くなる。子供はじゃんじゃん産ませて。
 アドルフの母クララは、三番目の妻。しかも元家政婦で、近親者と言われる。
 すでに暴力をはらんでいる。
 でも、ここまでだったらまだ、よき教師なり恩人なりと出会えれば、こつこつ生きる術も身に着けていくことができたのかもしれない。
 20歳を過ぎ、軍隊に入らなければならないのに無視し、父の遺産を食いつぶす。真面目に働くことを軽蔑もしていた。
 ついに公園のベンチで暮らすことに。
 第一次世界大戦が勃発。彼は参加し、国のために働くという観念を強固にする。
 終戦後、ドイツ労働者党に顔を出す。20人の貧しい人たちしかいない。
 その地、ミュンヘンで一揆を起こす。
 失業者があふれるようになると、ドイツ労働者党は選挙で急伸。
 ついにヒットラーはドイツ帝国という国そのものになってしまった。
 隣国を次々と屈服させ、ポーランドにも侵攻。このとき、堪忍袋の緒が切れた英仏が宣戦布告。1939年9月3日、第二次世界大戦勃発。
 最初はよかった、ように見えた。大日本帝国は、「バスに乗り遅れるな」と、ドイツ帝国と同盟を結ぶ。1940年9月27日。
 大日本帝国が真珠湾攻撃をしたのは1941年12月8日。このとき、ドイツ帝国はソ連の反撃を受け、すでに劣勢に回っていた。
 劣勢は跳ね返せず、それでもヒットラーは前線の軍隊からの退却願いを退け、死して英雄となれと命じる。
 ドイツ帝国軍は、ついに反抗。武器を捨て、ソ連の捕虜となる。
 ずるずると後退し、士気も失われ、求心力も落ち、逃亡する人たちも出てくる。
 1945年、ベルリンをソ連軍に囲まれ、地下の防空壕にいたヒットラーはそこで死ぬことになる。
 4月29日、自死する前日ですが、ヒットラーにすがって離れないエヴァ・ブラウンと結婚式を挙げている。これには驚いた。
 ヒットラーの最期は心中だった。
 その相手が、実はユダヤ系だったという事実は、もちろん後で判明したことですが、生命体から観念への痛烈な一撃として忘れがたい。
 そのとき、56歳でしたが、すでにパーキンソン病で手の震えは止まらず、目も足腰も悪く、立つのもやっとだったそうです。
 主治医モレルは、かなり科学的根拠から外れた治療をしていたようですが、ヒットラーは信じていた。そのモレルはエヴァの紹介。
 その前から、両親が早く死んだことから、不安障害と不眠があったようです。会議はいつも深夜。運動嫌いで、体重100キロを超えたことも。
 この本だけでなく、ウィキペディアも読みましたが長い長い。今までで最長ではないでしょうか。
 この感想も長くなるはずです。それだけヒットラーという、どこにでもいそうな元不良少年から学ぶべきことは多い。
 ちなみに、現在のドイツ、フランスでは、「手を挙げる」とは言いませんし、しません。
 挙手は、「ハイル・ヒットラー」式敬礼を思い出させるので。ちなみに、「ハイル」は「万歳」です。
 肘を曲げて人差し指を立てる。これが今のやり方。
 なんでもかんでも「神」にし、「神頼み」してしまう日本とは、反省と学びの徹底度が違うと思うのは私だけでしょうか?
 なぜ衆議院が解散するとき、まだ万歳するのでしょうか?
 どこかの横綱も、お客さんに万歳を強要した。なぜ?
 尊い子供たちを、愛しい人たちを、万歳しながら見送るしかなかった記憶は、もう想起されないのでしょうか?

 水木しげる著/ちくま文庫/1990 
 

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