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 ♪♪♪ H.Tokuda

ちょっと変な洋楽の邦題

2017-02-14 00:50:01 | エッセイ(音楽)


 ビートルズ初期の名曲「I Want to Hold Your Hand 」、日本語では「抱きしめたい」と訳されている。これはちょっと変だぞ。「Hold Your Hand」だったら、手をつなぐとか握るとかいうくらいのニュアンスで、抱きしめるのとはだいぶ感じが違う。「抱きしめる」までいってしまうと、原曲の持つ可愛らしさが損なわれてしまうように感じられる。
 当時は日本でビートルズを売り出そうという意図が強く、インパクトのある曲名が求められてこういうことになったのだろうか。「A Hard Day's Night」に至っては「ビートルズがやってくる ヤァ! ヤァ! ヤァ!」なんて変な邦題が付けられている。坂本九の「上を向いて歩こう」がアメリカでは「SUKIYAKI」というタイトルで売り出されたくらいだから、まあそういうこともあるのかもしれない。

 同じくビートルズの「Norwegian Wood」。村上春樹の小説タイトルにも使われた有名な曲である。誰が考えても「ノルウェーの森」あるいは「ノルウェイの森」(村上春樹はこちら)としか訳せないように思えるが、実はこれにも疑惑がある。
 「Wood」は、森、木のほか木製の家具という意味にも用いられ、それだと「ノルウェー調の家具」ということになる。実際、欧米の人はこのタイトルだけ見ると家具のほうを想像することが多いようだ。家具と解釈した場合、この歌の舞台は野外から室内に転じ、そこで出会った女の子のイメージもずいぶん違ってくる。
 それじゃ「Wood」は森なのか家具なのかどっちなんだ?ということだが、作者のポール・マッカートニーによると、答えはどっちでもなく、部屋の内装に使われている木材を指しているということだ。つまり、彼女の部屋に入ってみるとノルウェー産の木材で内装された部屋だった、ということを表現している。英国ではノルウェー産の木材は安物の扱いで、ここに登場する彼女は、安っぽいアパートに住んでいる、あまり裕福ではない娘という設定なのである。
 ポールが言うんだから、これは間違いないだろう。僕はその曲想から、深い森の奥に迷い込んでしまったような雰囲気を感じ取り、そこで森の精みたいな女の子に出会った・・・というようなイメージを抱いていたのだが、なんだ、安アパートの一室の話だったのか。
 しかし、歌の中ではこの女性を鳥に喩えていることもあり、ウッド調の部屋の雰囲気が「まるで森の中にいるようだった」と比喩しているのだとも解釈できる。それならやっぱり「ノルウェーの森」でいいのかな?

 キング・クリムゾンのセカンド・アルバム「In the Wake of Poseidon」は「ポセイドンのめざめ」と訳されているが、これはまったくの誤訳だと言われている。「in the wake of」は、「目覚め」という意味ではなく、「ポセイドンの跡を追って」、「ポセイドンに続いて」程度の意味らしい。

 誤訳とまではいかなくても、何かちょっと違うなぁと感じるものはたくさんある。例えば「朝日のあたる家」。
 原曲は「The House of the Rising Sun」という古いブルースだ。「Rising Sun」は固有名詞で、ニューオリンズにそういう名称の建物があるというところから歌が始まる。これがアパートだったら「日の出荘」とか訳するところだろう。ところがこの曲は、娼婦として売られていく悲しい女を歌ったもので、「Rising Sun」は娼婦館の名称なのである。それを「朝日のあたる家」なんて訳されると、なんだか健康的な感じがして、この曲を知らない人が題名だけ耳にすると、明るく幸せな家庭を歌ったマイホームソングかな、とかいう具合に、とんでもない誤解が生まれてしまいそうだ。その点、浅川マキによる「朝日楼」は名訳だと思う。いかにも安っぽく、物悲しく、名前とは裏腹に薄暗い感じがにじみ出ている。
 なお、1960年代にヒットしたアニマルズのバージョンでは、原曲の歌詞の女性を不良少年に変えており、「Rising Sun」は少年院を指すと解釈される。この場合にしても、「朝日のあたる家」はやっぱり変だ。

 そもそも、英語と日本語とでは表現方法などが全然違うのだから、題名を直訳しようなどと考えず、歌詞の意味を噛み砕いて日本語の題名を新たに作るほうがよいのかもしれない。例えば、松任谷由実の訳による「雨音はショパンの調べ」(原題I Like Chopin)などはよく出来ていると思う。また、古いジャズ曲の和訳版で「月光値千金」(原題Get Out and Get Under the Moon)というのがあるが、これもなかなか洒落ている。
 高石ともやは「Roll in My Sweet Baby's Arms」を「あの娘のひざまくら」と訳した。好きな女の子に抱き着かれるよりも、ひざ枕のほうが、われわれ日本人男性にはしっくり来る。諸口あきらはジョン・デンバーの「Country Roads」を「いなか道」と歌っていた。こちらの方は直訳ながら素朴な味わいで、僕は好きだ。

 しかし、なんといってもすごいと思うのは、ピンク・フロイドの「原子心母」。
 原題の「Atom Heart Mother」をそれぞれの単語ごとに漢字に直し、それをつないだだけだ。ほんとにこれ以上ないというくらいの直訳なのだが、訳されたってちっとも意味が分からない。その分からないところがいかにもピンク・フロイドらしくて良いね。

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