●12月
○最優秀/2句
★窓ガラス磨き明るき冬木立/小西 宏
磨いた窓ガラスを通して見える冬木立が凛々しく鮮明だ。(高橋正子)
★外套を叩き芝居の雪一枚/川名ますみ
外套を叩き軽く外出の埃を払うと、芝居のときに振りまかれた雪の一片がはらりと舞い落ちた。芝居の雪が作者のコートに降ったわけだ。観客も芝居の中に取り込まれた格好で、さぞやよい舞台であったろう。(高橋正子)
●11月賞
○最優秀/3句
★秋空は高き欅の触れる処/小西 宏
秋空は高い欅の聳えるところにある。秋空の青さに欅黄葉が触れているのは美しいがそれを見事に詩的表現に変えた。(高橋正子)
★鰯雲ほどけ大きな青空へ/川名ますみ
空一面を覆っていた鰯雲がいつの間にかほどけて、そのあとには「大きな」青空が広がった。鰯雲は天気が下り坂になる前兆だが、青空が広がったのは心が託せるようでうれしい。(高橋正子)
★鉄塔がつなぐ山々十一月/多田有花
冬になると、山々に立つ鉄塔が目につく。送電線が伸びて山々をつなぐ。ただそれだけの景色なのに、十一月の特徴をよく伝えている。(高橋正子)
●10月
○最優秀/3句
★稲刈機噴き出す藁の薄みどり/佃 康水
稲刈機が稲を刈り進む。まだ薄緑の稲藁を吹き出しながら刈り進むのだ。まだ命の通った薄黄みどりの稲藁は、それ自体が魅力だ。(高橋正子)
★吾影は右を離れず秋朝日/祝恵子
「影は右を離れず」が面白い。朝日があたたく気持ちよくなった秋の朝、つい影を意識する。影がずっと右にできているのは、南へ向かって歩いていることか。明るい方向だ。(高橋正子)
★新築の捗る庭に金木犀/桑本栄太郎
金木犀のある庭に家が建っている。建て替えなのか、日々見ているとずいぶん早く工程が進んでいる。冬が来る前には入居したい気持ちも見える。金木犀もいい匂いだ。立ち上がったら落ち着いた家になるだろう。(高橋正子)
●9月
○最優秀/3句
★秋雲のまとめて動く島の空/下地鉄
「まとめて動く」に島だからこそ感じられる雲の動きが読め、その感じ方、見方に驚いた。秋の島の空がぐっと身近になった。(高橋正子)
★蓮根堀る空の重さよ基地の町/佃 康水
基地の町は岩国であろう。岩国蓮根はほっくりとしていて有名だ。稲の実りに合わせるように、蓮田では蓮根が太ってくる。うすら寒い鉛色の空の下、軍用機の飛ぶ空の下で蓮根堀の作業がつづく。(高橋正子)
★水澄むや村の真中を流る川/黒谷光子
村の真ん中を流れる川。一村の生活が川によって支えられている。その水も澄み、村に秋が深まってきた。(高橋正子)
●8月
○最優秀/2句
★稜線のくっきり帰燕の空となり/佃 康水
山の稜線がくっきりと見える空気の澄んだ季節。空の色は深まり燕は南の国へ帰ってゆく。さびしさとともに色の深まる空である。
★稲の香の風に放たれ刈られゆく/柳原美知子
熟れ稲の香が田に満ちて、刈るたびにその香が風に放たれてゆく。一株一株鎌で刈り取られているのだろう。爽やかな風の吹く晴れた日の稲刈りが想像できる。
●7月
○最優秀/2句
★梅雨晴の空は広場の真ん中に/小西 宏
空が広場の真ん中にあるという着目に驚かされる。雨があがったばかりで、広場に人はいないのかもしれない。たしかに青空は、広場の真ん中に堂々とあるのだ。
★黒潮の豊かに寄せて青岬/河野啓一
「黒潮」と「青岬」の取り合わせが絵画的で印象深い。黒潮寄せる、緑滴る岬。涼しさと強さをもった景色だ。(高橋正子)
●6月
○最優秀/2句
★早苗積み軽トラックゆく真昼かな/多田有花
田に早苗を運んでゆくのだが、「真昼」の出来事として、しらしらと、うすうすと、光に満ちたさわやかな印象を受ける。
★はつ夏や少年ピアノを弾き止まず/川名ますみ
ピアノの音とはつ夏が「少年」の初々しさを美しく仕上げている。少年の意志によってひき続けられるピアノ。「弾き止まず」に、ピアノ線のような強さがある。
●5月
○最優秀/2句
★夏潮に乗り釣り船の帰り来る/河野啓一
「夏潮」が季語でこの句のテーマである。大きく、濃く流れる夏潮に乗って釣り船が帰ってきた。釣果もたいしたものであろう。勢いと爽快さがいい。(高橋正子)
★昼月を上げて深山の朴の花/佃 康水
深山の気配をもつ朴の花と空の昼月とを詠んだ大きな景色の句。それがまた、大らかにしっかりと咲く朴の花とよく付合している。(高橋正子)
●4月
○最優秀/3句
★柳青みて水に照り水に垂る/藤田洋子
「柳青みて」の上七に力強さがある。以下「水に照り水に垂る」の五・五と続く五音のリズムも力強い。柳はしなやかなものとして詠まれることが多いが、この句は柳を力強く詠んで成功した。(高橋正子)
★水替えて水に挿しおりチューリップ/祝 恵子
水中にあるチューリップの葉や茎は、清涼感さえある。花もよいが、「水」と取り合わせたチューリップもまたよい見所がある。「水」の語の繰り返しが効いている。(高橋正子)
★護摩焚きの森に響くや春深し/多田有花
森に囲まれた寺。護摩が焚かれ弾ける音が春深い森に響く。森の木々、森の小さな生き物にもその音は響き伝わる。護摩を焚く音が春の森に響くのがよい。(高橋正子)
●3月
○最優秀/2句
★春耕のまだ始まらぬ田の広き/小川和子
裏作やあるいは冬の間手入れをしないでいた田畑は、だだっ広く思える。しかし、耕しが始まるころになると、田畑も息づいてくる。その広さを感じとったのがよい。(高橋正子)
★高々と蝶越え来しや伊吹嶺/河野啓一
初蝶であろうか。目の前に現れた蝶は、あの伊吹嶺を高々と越えて来たに違いない。蝶に寄せる新鮮な思いがよく読まれている。(高橋正子)
●2月
○最優秀/2句
★風二月鳥よろこびの声散らし/藤田裕子
二月の、まだまだ寒い風に、鳥はもう「よろこびの声」を散らしている。真冬とは違う風の暖かさを知ったのだろう。野の生きるものたちは、季節の変化に敏感だ。(高橋正子)
★汲まれたる桶それぞれの薄氷/多田有花
木桶に汲まれた水であろう。どの桶にも桶の木肌を透かして薄く氷が張っている。一つの桶でなく、「それぞれ」の桶があってリズミカルな面白さがある。(高橋正子)
●1月
○最優秀/2句
★元朝や秒針のゆく確かな音/多田有花
元日の静かな朝、秒針が確実に時を刻んでいるのが耳に聞こえる。元朝なればこその静かな緊張が時を意識させている。(高橋正子)
★光るもの鈍なるものもみな冬芽/小西 宏
光の当たる冬芽はよく光っている。一方光りの当らない冬芽は鈍い光を放っている。それらは、どちらも冬芽で、日向にも、(高橋正子)
○最優秀/2句
★窓ガラス磨き明るき冬木立/小西 宏
磨いた窓ガラスを通して見える冬木立が凛々しく鮮明だ。(高橋正子)
★外套を叩き芝居の雪一枚/川名ますみ
外套を叩き軽く外出の埃を払うと、芝居のときに振りまかれた雪の一片がはらりと舞い落ちた。芝居の雪が作者のコートに降ったわけだ。観客も芝居の中に取り込まれた格好で、さぞやよい舞台であったろう。(高橋正子)
●11月賞
○最優秀/3句
★秋空は高き欅の触れる処/小西 宏
秋空は高い欅の聳えるところにある。秋空の青さに欅黄葉が触れているのは美しいがそれを見事に詩的表現に変えた。(高橋正子)
★鰯雲ほどけ大きな青空へ/川名ますみ
空一面を覆っていた鰯雲がいつの間にかほどけて、そのあとには「大きな」青空が広がった。鰯雲は天気が下り坂になる前兆だが、青空が広がったのは心が託せるようでうれしい。(高橋正子)
★鉄塔がつなぐ山々十一月/多田有花
冬になると、山々に立つ鉄塔が目につく。送電線が伸びて山々をつなぐ。ただそれだけの景色なのに、十一月の特徴をよく伝えている。(高橋正子)
●10月
○最優秀/3句
★稲刈機噴き出す藁の薄みどり/佃 康水
稲刈機が稲を刈り進む。まだ薄緑の稲藁を吹き出しながら刈り進むのだ。まだ命の通った薄黄みどりの稲藁は、それ自体が魅力だ。(高橋正子)
★吾影は右を離れず秋朝日/祝恵子
「影は右を離れず」が面白い。朝日があたたく気持ちよくなった秋の朝、つい影を意識する。影がずっと右にできているのは、南へ向かって歩いていることか。明るい方向だ。(高橋正子)
★新築の捗る庭に金木犀/桑本栄太郎
金木犀のある庭に家が建っている。建て替えなのか、日々見ているとずいぶん早く工程が進んでいる。冬が来る前には入居したい気持ちも見える。金木犀もいい匂いだ。立ち上がったら落ち着いた家になるだろう。(高橋正子)
●9月
○最優秀/3句
★秋雲のまとめて動く島の空/下地鉄
「まとめて動く」に島だからこそ感じられる雲の動きが読め、その感じ方、見方に驚いた。秋の島の空がぐっと身近になった。(高橋正子)
★蓮根堀る空の重さよ基地の町/佃 康水
基地の町は岩国であろう。岩国蓮根はほっくりとしていて有名だ。稲の実りに合わせるように、蓮田では蓮根が太ってくる。うすら寒い鉛色の空の下、軍用機の飛ぶ空の下で蓮根堀の作業がつづく。(高橋正子)
★水澄むや村の真中を流る川/黒谷光子
村の真ん中を流れる川。一村の生活が川によって支えられている。その水も澄み、村に秋が深まってきた。(高橋正子)
●8月
○最優秀/2句
★稜線のくっきり帰燕の空となり/佃 康水
山の稜線がくっきりと見える空気の澄んだ季節。空の色は深まり燕は南の国へ帰ってゆく。さびしさとともに色の深まる空である。
★稲の香の風に放たれ刈られゆく/柳原美知子
熟れ稲の香が田に満ちて、刈るたびにその香が風に放たれてゆく。一株一株鎌で刈り取られているのだろう。爽やかな風の吹く晴れた日の稲刈りが想像できる。
●7月
○最優秀/2句
★梅雨晴の空は広場の真ん中に/小西 宏
空が広場の真ん中にあるという着目に驚かされる。雨があがったばかりで、広場に人はいないのかもしれない。たしかに青空は、広場の真ん中に堂々とあるのだ。
★黒潮の豊かに寄せて青岬/河野啓一
「黒潮」と「青岬」の取り合わせが絵画的で印象深い。黒潮寄せる、緑滴る岬。涼しさと強さをもった景色だ。(高橋正子)
●6月
○最優秀/2句
★早苗積み軽トラックゆく真昼かな/多田有花
田に早苗を運んでゆくのだが、「真昼」の出来事として、しらしらと、うすうすと、光に満ちたさわやかな印象を受ける。
★はつ夏や少年ピアノを弾き止まず/川名ますみ
ピアノの音とはつ夏が「少年」の初々しさを美しく仕上げている。少年の意志によってひき続けられるピアノ。「弾き止まず」に、ピアノ線のような強さがある。
●5月
○最優秀/2句
★夏潮に乗り釣り船の帰り来る/河野啓一
「夏潮」が季語でこの句のテーマである。大きく、濃く流れる夏潮に乗って釣り船が帰ってきた。釣果もたいしたものであろう。勢いと爽快さがいい。(高橋正子)
★昼月を上げて深山の朴の花/佃 康水
深山の気配をもつ朴の花と空の昼月とを詠んだ大きな景色の句。それがまた、大らかにしっかりと咲く朴の花とよく付合している。(高橋正子)
●4月
○最優秀/3句
★柳青みて水に照り水に垂る/藤田洋子
「柳青みて」の上七に力強さがある。以下「水に照り水に垂る」の五・五と続く五音のリズムも力強い。柳はしなやかなものとして詠まれることが多いが、この句は柳を力強く詠んで成功した。(高橋正子)
★水替えて水に挿しおりチューリップ/祝 恵子
水中にあるチューリップの葉や茎は、清涼感さえある。花もよいが、「水」と取り合わせたチューリップもまたよい見所がある。「水」の語の繰り返しが効いている。(高橋正子)
★護摩焚きの森に響くや春深し/多田有花
森に囲まれた寺。護摩が焚かれ弾ける音が春深い森に響く。森の木々、森の小さな生き物にもその音は響き伝わる。護摩を焚く音が春の森に響くのがよい。(高橋正子)
●3月
○最優秀/2句
★春耕のまだ始まらぬ田の広き/小川和子
裏作やあるいは冬の間手入れをしないでいた田畑は、だだっ広く思える。しかし、耕しが始まるころになると、田畑も息づいてくる。その広さを感じとったのがよい。(高橋正子)
★高々と蝶越え来しや伊吹嶺/河野啓一
初蝶であろうか。目の前に現れた蝶は、あの伊吹嶺を高々と越えて来たに違いない。蝶に寄せる新鮮な思いがよく読まれている。(高橋正子)
●2月
○最優秀/2句
★風二月鳥よろこびの声散らし/藤田裕子
二月の、まだまだ寒い風に、鳥はもう「よろこびの声」を散らしている。真冬とは違う風の暖かさを知ったのだろう。野の生きるものたちは、季節の変化に敏感だ。(高橋正子)
★汲まれたる桶それぞれの薄氷/多田有花
木桶に汲まれた水であろう。どの桶にも桶の木肌を透かして薄く氷が張っている。一つの桶でなく、「それぞれ」の桶があってリズミカルな面白さがある。(高橋正子)
●1月
○最優秀/2句
★元朝や秒針のゆく確かな音/多田有花
元日の静かな朝、秒針が確実に時を刻んでいるのが耳に聞こえる。元朝なればこその静かな緊張が時を意識させている。(高橋正子)
★光るもの鈍なるものもみな冬芽/小西 宏
光の当たる冬芽はよく光っている。一方光りの当らない冬芽は鈍い光を放っている。それらは、どちらも冬芽で、日向にも、(高橋正子)