■2013年月間賞/高橋正子選

2013-05-31 06:14:48 | 日記
●12月
○最優秀/2句

★窓ガラス磨き明るき冬木立/小西 宏
磨いた窓ガラスを通して見える冬木立が凛々しく鮮明だ。(高橋正子)

★外套を叩き芝居の雪一枚/川名ますみ
外套を叩き軽く外出の埃を払うと、芝居のときに振りまかれた雪の一片がはらりと舞い落ちた。芝居の雪が作者のコートに降ったわけだ。観客も芝居の中に取り込まれた格好で、さぞやよい舞台であったろう。(高橋正子)

●11月賞
○最優秀/3句

★秋空は高き欅の触れる処/小西 宏
秋空は高い欅の聳えるところにある。秋空の青さに欅黄葉が触れているのは美しいがそれを見事に詩的表現に変えた。(高橋正子)

★鰯雲ほどけ大きな青空へ/川名ますみ
空一面を覆っていた鰯雲がいつの間にかほどけて、そのあとには「大きな」青空が広がった。鰯雲は天気が下り坂になる前兆だが、青空が広がったのは心が託せるようでうれしい。(高橋正子)

★鉄塔がつなぐ山々十一月/多田有花
冬になると、山々に立つ鉄塔が目につく。送電線が伸びて山々をつなぐ。ただそれだけの景色なのに、十一月の特徴をよく伝えている。(高橋正子)

●10月
○最優秀/3句

★稲刈機噴き出す藁の薄みどり/佃 康水
稲刈機が稲を刈り進む。まだ薄緑の稲藁を吹き出しながら刈り進むのだ。まだ命の通った薄黄みどりの稲藁は、それ自体が魅力だ。(高橋正子)

★吾影は右を離れず秋朝日/祝恵子
「影は右を離れず」が面白い。朝日があたたく気持ちよくなった秋の朝、つい影を意識する。影がずっと右にできているのは、南へ向かって歩いていることか。明るい方向だ。(高橋正子)

★新築の捗る庭に金木犀/桑本栄太郎
金木犀のある庭に家が建っている。建て替えなのか、日々見ているとずいぶん早く工程が進んでいる。冬が来る前には入居したい気持ちも見える。金木犀もいい匂いだ。立ち上がったら落ち着いた家になるだろう。(高橋正子)

●9月
○最優秀/3句

★秋雲のまとめて動く島の空/下地鉄
「まとめて動く」に島だからこそ感じられる雲の動きが読め、その感じ方、見方に驚いた。秋の島の空がぐっと身近になった。(高橋正子)

★蓮根堀る空の重さよ基地の町/佃 康水
基地の町は岩国であろう。岩国蓮根はほっくりとしていて有名だ。稲の実りに合わせるように、蓮田では蓮根が太ってくる。うすら寒い鉛色の空の下、軍用機の飛ぶ空の下で蓮根堀の作業がつづく。(高橋正子)

★水澄むや村の真中を流る川/黒谷光子
村の真ん中を流れる川。一村の生活が川によって支えられている。その水も澄み、村に秋が深まってきた。(高橋正子)

●8月
○最優秀/2句

★稜線のくっきり帰燕の空となり/佃 康水
山の稜線がくっきりと見える空気の澄んだ季節。空の色は深まり燕は南の国へ帰ってゆく。さびしさとともに色の深まる空である。

★稲の香の風に放たれ刈られゆく/柳原美知子
熟れ稲の香が田に満ちて、刈るたびにその香が風に放たれてゆく。一株一株鎌で刈り取られているのだろう。爽やかな風の吹く晴れた日の稲刈りが想像できる。

●7月
○最優秀/2句

★梅雨晴の空は広場の真ん中に/小西 宏
空が広場の真ん中にあるという着目に驚かされる。雨があがったばかりで、広場に人はいないのかもしれない。たしかに青空は、広場の真ん中に堂々とあるのだ。

★黒潮の豊かに寄せて青岬/河野啓一
「黒潮」と「青岬」の取り合わせが絵画的で印象深い。黒潮寄せる、緑滴る岬。涼しさと強さをもった景色だ。(高橋正子)

●6月
○最優秀/2句

★早苗積み軽トラックゆく真昼かな/多田有花
田に早苗を運んでゆくのだが、「真昼」の出来事として、しらしらと、うすうすと、光に満ちたさわやかな印象を受ける。

★はつ夏や少年ピアノを弾き止まず/川名ますみ
ピアノの音とはつ夏が「少年」の初々しさを美しく仕上げている。少年の意志によってひき続けられるピアノ。「弾き止まず」に、ピアノ線のような強さがある。

●5月
○最優秀/2句

★夏潮に乗り釣り船の帰り来る/河野啓一
「夏潮」が季語でこの句のテーマである。大きく、濃く流れる夏潮に乗って釣り船が帰ってきた。釣果もたいしたものであろう。勢いと爽快さがいい。(高橋正子)

★昼月を上げて深山の朴の花/佃 康水
深山の気配をもつ朴の花と空の昼月とを詠んだ大きな景色の句。それがまた、大らかにしっかりと咲く朴の花とよく付合している。(高橋正子)

●4月
○最優秀/3句

★柳青みて水に照り水に垂る/藤田洋子
「柳青みて」の上七に力強さがある。以下「水に照り水に垂る」の五・五と続く五音のリズムも力強い。柳はしなやかなものとして詠まれることが多いが、この句は柳を力強く詠んで成功した。(高橋正子)

★水替えて水に挿しおりチューリップ/祝 恵子
水中にあるチューリップの葉や茎は、清涼感さえある。花もよいが、「水」と取り合わせたチューリップもまたよい見所がある。「水」の語の繰り返しが効いている。(高橋正子)

★護摩焚きの森に響くや春深し/多田有花
森に囲まれた寺。護摩が焚かれ弾ける音が春深い森に響く。森の木々、森の小さな生き物にもその音は響き伝わる。護摩を焚く音が春の森に響くのがよい。(高橋正子)

●3月
○最優秀/2句

★春耕のまだ始まらぬ田の広き/小川和子
裏作やあるいは冬の間手入れをしないでいた田畑は、だだっ広く思える。しかし、耕しが始まるころになると、田畑も息づいてくる。その広さを感じとったのがよい。(高橋正子)

★高々と蝶越え来しや伊吹嶺/河野啓一
初蝶であろうか。目の前に現れた蝶は、あの伊吹嶺を高々と越えて来たに違いない。蝶に寄せる新鮮な思いがよく読まれている。(高橋正子)

●2月
○最優秀/2句

★風二月鳥よろこびの声散らし/藤田裕子
二月の、まだまだ寒い風に、鳥はもう「よろこびの声」を散らしている。真冬とは違う風の暖かさを知ったのだろう。野の生きるものたちは、季節の変化に敏感だ。(高橋正子)

★汲まれたる桶それぞれの薄氷/多田有花
木桶に汲まれた水であろう。どの桶にも桶の木肌を透かして薄く氷が張っている。一つの桶でなく、「それぞれ」の桶があってリズミカルな面白さがある。(高橋正子)

●1月
○最優秀/2句

★元朝や秒針のゆく確かな音/多田有花
元日の静かな朝、秒針が確実に時を刻んでいるのが耳に聞こえる。元朝なればこその静かな緊張が時を意識させている。(高橋正子)

★光るもの鈍なるものもみな冬芽/小西 宏 
光の当たる冬芽はよく光っている。一方光りの当らない冬芽は鈍い光を放っている。それらは、どちらも冬芽で、日向にも、(高橋正子)

■2012年月間賞/高橋正子選

2012-11-30 15:05:14 | 日記

●12月
○最優秀/3句

★初霜の大地へざくりと杭を打つ/古田敬二
初霜に強張った大地に杭を打ち込む。「ざくり」が人間の力強さ、また迫力をよく表わしている。(高橋正子)

★裏白を採りて戻りし人と会う/多田 有花
年用意に裏白を採ってきた人と出会い、さわさわとした山の匂いに年改まる気持ちが掻き立てられる。すっきりと爽やかな年の暮である。(高橋正子)

★湯気立てて私の時間愉しめり/藤田裕子
「愉しめり」がいい。「私の時間」がいい。主婦の日常を詠んだ、作者のささやかだが、充実した生活が伝わってくる。この句を読めば、読者も「愉しめり」の境地になる。(高橋信之)


●11月
○最優秀/2句

★冬夕焼一直線に街を射す/川名ますみ
寒々とした冬の街を夕焼けが染める。街をすべて染める「一直線」の夕焼けが力強い。(高橋正子)

★今の音ぽんがしの音冬広場/祝恵子
がらんとなった広場に「ぽん」と弾ける音がした。あの音はポン菓子を弾かす音。急に広場がいきいきと温かく感じられた。冬の楽しさがある。(高橋正子)

●10月
○最優秀/3句

★ゆく雲の白き軽きも秋の空/小西 宏
雲は白く、そして軽く、流れて行く。秋の空はそうなのだ。自由で軽やかな秋空が、自身の心も秋の空に同化して詠まれている。(高橋正子)

★さわやかな風の満ちたる通学路/上島祥子
「さわやかな風の満ちたる」によって、通学路の世界が大きく膨らんだ。通学の児童たちの心身を爽やかな風が満たしている。(高橋正子)

★吾が窓に雲一片もなき秋天/川名ますみ
「吾が窓」にきょうは、一片の雲もない秋天が見える。読み手は、秋天の青を限りなく想像し、楽しむことができる。(高橋正子)

●9月
○最優秀/3句

★朝顔の色ごとに種採り分けぬ/河野啓一
朝顔の花が終わり、種ができた。来年のために、色ごとに分けて種をとる。どりどり咲いた夏の花を思い出し、また来年の花を楽しみとする。良い生活感覚だ。(高橋正子)

★耕せし畝照らしけり満月光/古田敬二
「耕し」は、美しいまでの人間の作業。昼間丁寧に耕された畝を満月が照らす。照らされた畑の畝が生むそれぞれの影もまた美しい。(高橋正子)

★涼新た一直線に船が出る/高橋秀之
新涼の季節。港を出てゆく船も、かろやかに一直線に航跡を残して出てゆく。新涼の気分に満ちた句。(高橋正子)

●8月
○最優秀/3句
★あけぼのの青田へあふる蜻蛉かな/小口泰與
青田のあけぼのは、広々としてさわやかである。蜻蛉も青田の上に集いあふれ、あけぼのの涼しさを満喫している。(高橋正子)

★新駅の高架工事や稲の花/桑本栄太郎
新駅は田園の中に建てられ、高架工事が進んでいる。おりしも田んぼには稲の花が咲き、暑さのなかにも秋の気配が漂う。開発が自然を押しやって進んでいるのも現代の景色だ。(高橋正子)

★花火待つ人らの声と星空と/安藤智久
花火の打ち揚げを待っている人々の何気ない会話の声を耳に、目を空に向けると星空が広がっている。花火に飾られる前の星空がロマンティックだ。(高橋正子)

●7月
○最優秀/3句
★ヨット帆を揚げて沖の明るさへ/多田有花
ヨットが帆を揚げて、明るい沖へと向かう。光に満ちた夏の沖とヨットの帆が明るさをくれる爽快な句。(高橋正子)

★梅雨の森また静やかに葉を鳴らす/小西 宏
梅雨の森は青葉が茂りしんとして緑の奥深さを感じる。風に鳴り止んだ葉が、またも静かに葉を鳴らす。なんと、ひそけく「静やか」なことであろう。深い明るさがある。(高橋正子)

★山の湯へ七夕笹を潜り入る/佃 康水
七夕飾りをしてある山の湯。七夕飾りをさらさら鳴らして湯に入るという、抒情ゆたかな七夕が詠まれている。(高橋正子)

●6月
○最優秀/2句
★一枚の光り湛えて田が植わる/藤田洋子
田が静かに植えられていく様子が目に見えるようだ。水を湛えた田は、そのまま光りを湛えた田となる。(高橋正子)

★代田へ注ぐ水の音にも力あり/井上治代
田植えのころは、野川に水が勢いよく走る。その水を田に引き込ん​で代田ができ、田植えがはじまる。引き込む水も高鳴るのだ。(高橋正子)

●5月
○最優秀/2句
★噴水のしぶき花にも吾らにも/祝 恵子
噴水のしぶきが辺りに散るほど吹き上がり、そばに花が咲き、吾らがいる。楽しげで、涼しげな光景に気持ちが和む。(高橋正子)

★八十八夜のきょう街筋が白っぽい/藤田裕子
八十八夜は、立春から数えて八十八日目。蔬菜の苗などが成長し、この日以後は霜が降りないなど農作業を主とした節目だが、農業に関係ない街筋も、夏が近い光で「白っぽい」のである。詩情のある句。(高橋正子)

●4月
○最優秀/2句
★振り上げし鍬の高さや春田打/安藤智久
春田の土を起こし、いよいよ苗代作りの作業が本格的に始まる。鍬を振り上げる高さは力。のびやかで、力強い「春田打」の光景が見える。(高橋正子)

★山桜次々雲を放ちけり/多田有花
「次々雲を放ちけり」が山桜らしい。雲は山に近いだろうし、つぎつぎに雲が流れてゆくには風がふいているだろう。山桜の風趣がよく表わされている。(高橋正子)

●3月
○最優秀/2句
★店先の竹筒に挿し早桜/祝恵子
竹筒と早桜の取り合わせがさっぱりとして清々しい。季節に先駆けた「早桜」でありが。さりげなく風雅を楽しむ心意気が好もしい。(高橋正子)

★浅間山真向いにして花を待つ/小口泰與
堂々とした浅間山に真向かい、いまだ蕾の桜が咲き満ちる姿を想う。浅間山を咲く桜をまっすぐにわが心に受け止める姿勢がよい。(高橋正子)

●2月
○最優秀
★たんぽぽの野に散らばれる低さかな/津本けい
「低さかな」は、言えそうでなかなか言えない。野に咲くたんぽぽは、まだ風も冷たいせいか、丈が低く野にへばりつくように咲いている。野に咲くたんぽぽの景色を平易な言葉でうまく表現した。(高橋正子)

●1月
○最優秀/2句
★葦原の枯れ尽くしても水の上/藤田洋子
「枯れ尽くしても水の上」は、意表をついて、新しい発見。蓮や菖蒲などは、枯れると茎や葉が折れて水に浸かってしまう。葦原の葦は、枯れながらもまっすぐに立ち、水には影を落とすのみ。なるほど、枯れ尽くしても水の上である。(高橋正子)

★野に覚めし淡きみどりや蕗の董/佃 康水
「野に覚めし」によって、淡い蕗の董のみどりが目に強く焼きつく。初めて見つけた蕗の董であろう。驚きと嬉しさを隠せない。(高橋正子)



■今日の秀句11月/高橋正子選

2012-11-12 15:03:47 | 日記

11月29日
★銀杏黄葉句帳にはさみ戻り来る/河野啓一
気軽な吟行であろう。出かけた先の銀杏黄葉の美しさに、一枚を拾い句帳に挟んで持ち帰った。イメージが鮮明で優しさのある句。(高橋正子)

11月29日
★朝市や大根の白蕪の赤/古田敬二
冬の朝市は寒く冷たい。真っ白い大根と紅色の蕪が色彩的に鮮やかで、それぞれが、きっぱりとしてみずみずしい。(高橋正子)

11月26日
★薪積み海鳴り遠き冬構/桑本栄太郎(正子添削)
故郷山陰の冬を追想した句。どの家も薪を家の周りにがっしりと積み、日本海の海鳴りが遠く聞こえる冬構の村なのだ。海鳴りが今も聞こえるようだ。(高橋正子)

11月24日
★地に落ちて木の実静かに位置を決め/古田敬二
木の実は、多方はその木の根元に落ちる。落ちた木の実は、おのずとその位置が決まり、その位置に芽生える。「静かに」が現象を深く捉えてよい。(高橋正子)

★山水に大根を浸け禅の古寺/黒谷光子(正子添削)
山から引いた水に大根を浸けて洗おうとするところか。冬の味覚の大根が禅寺の食を賄う。質素ですがすがしい山懐の禅寺の生活が窺える。(高橋正子)

11月23日
★満潮へ鴨の二陣の広く浮く/佃 康水(正子添削)
満ちて来る潮に向かって、二陣の鴨の群れが広がり浮かんでいる。豊かな潮と浮き広がる鴨の群れが色彩的にもよい風景である。(高橋正子)

11月21日
★枯蓮と青空たたえ水平ら/多田有花
平らな水に青空が映り、枯蓮が立っている。水のよく溜まった枯蓮田は「青空たたえ」となって、枯れの美しさを見せている。(高橋正子)

11月19日
★寒暁の噴煙むくと起ちにけり/小口泰與
身を切る寒さの冬の暁。浅間の噴煙がむくむくと吹きあがり、見る者を奮い立たせて雄々しい。(高橋正子) 

11月14日
★山風の陽を奪いけり冬の蝶/小口泰與
山から吹いて来る風は陽に輝いているのだが、その陽を奪って、何よりも輝いていきいきしているのは冬の蝶。蝶の翅の力強さがよい。(高橋正子)

11月13日
★今の音ぽんがしの音冬広場/祝恵子
がらんとなった広場に「ぽん」と弾ける音がした。あの音はポン菓子を弾かす音。急に広場がいきいきと温かく感じられた。冬の楽しさがある。(高橋正子)

11月11日
★枯れ芙蓉枯れつくしたるを剪られけり/河野啓一‏
芙蓉の花が終わると、実が付く。その実がからからと枯れ、葉もほとんどが落ち、枯れ切ってしまうと、剪るにためらうことはない。さっぱりとした清潔感がある。(高橋正子)

★冬夕焼一直線に街を射す/川名ますみ
寒々とした冬の街を夕焼けが染める。街をすべて染める「一直線」の夕焼けが力強い。(高橋正子)

11月9日
★二列ずつ畝のみどりの冬菜かな/桑本栄太郎
冬菜が畝に二列ずつ育っている。一列ではなく、二列というのが面白い。都合で二列に種が播かれたのであろう。(高橋正子)

11月7日
★農道を真直ぐ辿る冬はじめ/小川和子
農道は、田や畑の中を抜ける農業用の道路。まっすぐな農道の脇は、刈田であったり、冬菜が育っていたり、冬のはじめの景色が楽しめる。それがいい。(高橋正子)

11月6日
★枯蓮のあちこち向いて水に折れ/祝恵子
夏、大きな青い葉を広げて水を隠していた蓮も、冬になると、枯れて水に折れ曲がり、実を受けた茎もひょろりとして水に映っている。夏の生い茂る景色と一変して、寒々とした枯れの景色となっている。これもよい見所である。(高橋正子)

■今日の秀句10月/高橋正子選

2012-10-30 06:40:23 | 日記
○10月31日
★包まれて玄関にある野菊かな/川名ますみ
摘まれたばかりの野菊であろう。そっと包んで玄関に置いてある。包まれた野菊にいまだある野の風情が生き生きとしている。(高橋正子)

○10月28日
★青空にきららと映えてかりんの実/河野啓一
「きららと映えて」は、かりんの実を言い得ている。かりんの黄色は青空の中では、いっそう本来の色を発揮する。(高橋正子)

○10月25日
★さわやかな風の満ちたる通学路/上島祥子
「さわやかな風の満ちたる」によって、通学路の世界が大きく膨らんだ。通学の児童たちの心身を爽やかな風が満たしている。(高橋正子)

○10月25日
★一雲の大きく隠す秋の富士/高橋秀之
雄大な富士をひとつの雲が隠す。「秋の富士」がよく効いて、すっきりとして大きな句だ。(高橋正子)

○10月22日
高原の空の深さや星月夜/小口泰與
高原の澄んだ空気に月も澄み、空の深くの星々までも夥しく輝いている。高原の空の深さが実感される。(高橋正子)

○10月20日‏
★秋潮の岸に連なる浚渫船/桑本栄太郎
骨太で確かな句だ。秋潮と浚渫船の出会いがよく、詩がある。(高橋正子)

○10月18日
★鰯雲あまねく里を統べ治む/小川和子‏
鰯雲が里の空の端から端まで広がる。「統べ治む」は、為政者の言葉だが、鱗雲が里をすっぽりと包みこみ、抱き込んだ姿だ。(高橋正子)

○10月15日
★芒日を透かしておりぬ寺静か/祝恵子
日当たりのよい寺はだれも居ぬようだ。芒が日を透かし、これ以上ないような静けさと、穏やかな明るさが思われる。(高橋正子)

○10月13日
★朝焼けの湾にみなぎる鰯雲/佃 康水
はつらつとした句。朝焼けに輝く湾は生気に満ちている、その上に「みなぎる」鰯雲で、これもまた力に溢れている。因みに「朝焼け」は夏の季語。「鰯雲」は秋の季語。(高橋正子)

○10月11日
★コスモスや鍬を休めばよく揺れる/古田敬二
鍬を使うのを休んでコスモスを眺めていると、コスモスは意外にも風を感じてよく揺れている。休めば、辺りの動きを感じやすくなる。コスモスの揺れがやさしい。(高橋正子)

○10月8日
★ゆく雲の白き軽きも秋の空/小西 宏(正子添削)
雲は白く、そして軽く、流れて行く。秋の空はそうなのだ。自由で軽やかな秋空が、自身の心も秋の空に同化して詠まれている。(高橋正子)

○10月5日
★木の実あまた落ちたばかりの輝きに/古田敬二
落ちたばかりの木の実は、驚くほどつやつやしている。それが「あまた」なので、あたりの森や、その木のゆたかさが思われるできる。(高橋正子)

○10月4日
★吾が窓に雲一片もなき秋天/川名ますみ
「吾が窓」にきょうは、一片の雲もない秋天が見える。読み手は、秋天の青を限りなく想像し、楽しむことができる。(高橋正子)

○10月1日
★群青の秋夜を渉る渡航の灯/小西 宏
秋夜の色を「群青」としたところが、がみずみずしい感覚だ。その夜の群青を海を渉る船の灯が色彩的に好対照をなしいい抒情を生んでいる。(高橋正子)

■今日の秀句9月/高橋正子選

2012-09-16 16:05:39 | 日記

○9月28日
★西空の大きや秋の夕映えて/小西 宏
秋空を染める夕焼けの大きさ、美しさに人は言い知れず感動する。それが「西空の大きや」の率直な感嘆となっているのがよい。(高橋正子)

★青空のあおに木魂す鵙の声/桑本栄太郎
「キチキチキチ」と鋭い鵙が声がするが、その正体はどこかと思うことがある。青空のあおに抜けて行く声であるが、よく聞けば「木魂」している。その声がはね返って、また耳に入るような。(高橋正子)

○9月27日
★朝顔の色ごとに種採り分けぬ/河野啓一
朝顔の花が終わり、種ができた。来年のために、色ごとに分けて種をとる。どりどり咲いた夏の花を思い出し、また来年の花を楽しみとする。良い生活感覚だ。(高橋正子)

★山の陰山に映りて澄み渡る/安藤智久
意味から言えば、「山の陰」は「山の影」であるが、山の影が映ったところが、「陰」となっているイメージが打ち出されているので、「陰」を「影」と直しにくい。従って直さない。織りなす山山の秋気が澄んでいる景色が清々しい。(高橋正子)

○9月25日
★ひそと鳴る秋播き種はポケットに/古田敬二
秋播きの種をポケットに入れて、これから畑に出かけるのか。「ひそと鳴る」には、種の小ささもあるが、その音を一人聴きとめた作者の種への愛おしみがある。軽やかながら味わいがある句。(高橋正子)

○9月22日
★三日月に薄き雲ありきりぎりす/小西 宏
三日月ときりぎりす、それに薄き雲。これらが醸すかぼそさに、透明な世界がある。(高橋正子)

○9月21日
★バッタ飛んで青空は見ざるかな/河野啓一
バッタはよく飛ぶが、はたして青空が目に入っているのであろうか。その貌はいつも草や土を見て、空を見ないようではないか。(高橋正子)

○9月20日
★ゆきあいの空へコスモス揺れどうし/佃 康水
「ゆきあいの空」がなんともよい。出会った空にコスモスゆれどうしている。そんな空に明るさと夢がある。(高橋正子)

○9月17日/3句
★栗おこわ鞄に温い旅を行く/古田敬二
まだ温い栗おこわを鞄に入れて、旅をする。栗おこわの温みは、すなわち栗おこわを炊いてくれた人の温かみ。(高橋正子)

★母からの電話もなき日敬老日/高橋秀之
「便りのないのは、よい便り」、である。敬老の日の父母の健やかさを素直に喜ぶ。(高橋正子)

★茎に葉に紅の通いて鶏頭花/黒谷光子
鶏頭は、たくましい。鶏頭は、棒立つ茎にも、茂る葉にも、花にも、紅色をあきらかに通わせている。(高橋正子)

○9月12日
★ドングリの葉ごと落ちたり土に青し/小西 宏
大風が吹いて葉ごとドングリが土に落ちた。落ちたばかりのドングリの青さが土の色に対比されて際立つ。素敵な青だ。(高橋正子)

○9月10日
★花束を花瓶にほどく秋の夜半/安藤智久
花束をいただいた。帰り着いたのが夜となったのだろう。落ち着いてから、夜半に花束を花瓶に入れた。しっとりとした秋の夜半である。(高橋正子)

○9月9日
★とんぼうととんぼの影の水面かな/小口泰與
とんぼうが水面を飛ぶ。そのとんぼの影も水面にある。澄んだ水面と、とんぼうの翅の透明感がよい。(高橋正子)

○9月5日/2句
★静かなる海の遠さや稲光/小西 宏
海ははるかに遠くに静かに横たわる。全く平らかに。ところが、その海をいらだたせるかのように、稲光が走る。平らな海と稲妻が好対照。(高橋正子)

★石段を下りて清流芋水車/桑本栄太郎
石段をおりれば清流がある風景が爽やかでよい。芋水車は、芋を洗うために小川に仕掛けられた小さい水車。昔ながらの清流が想像できる。(高橋正子)

○9月4日/2句
★涼新た一直線に船が出る/高橋秀之
新涼の季節。港を出てゆく船も、かろやかに一直線に航跡を残して出てゆく。新涼の気分に満ちた句。(高橋正子)

★秋の野を北へ北へと行く列車/迫田和代
静かな秋の野を北へコトコトと走る列車の音を、感傷的になり過ぎずに感じているのがよい。(高橋正子)

○9月1日
★うすうすと月の生まれし薄かな/小口泰與
うすうすと生れた白い月。その月と薄の取り合わせが美しい。(高橋正子)