■今日の秀句9月/高橋正子選

2012-09-16 16:05:39 | 日記

○9月28日
★西空の大きや秋の夕映えて/小西 宏
秋空を染める夕焼けの大きさ、美しさに人は言い知れず感動する。それが「西空の大きや」の率直な感嘆となっているのがよい。(高橋正子)

★青空のあおに木魂す鵙の声/桑本栄太郎
「キチキチキチ」と鋭い鵙が声がするが、その正体はどこかと思うことがある。青空のあおに抜けて行く声であるが、よく聞けば「木魂」している。その声がはね返って、また耳に入るような。(高橋正子)

○9月27日
★朝顔の色ごとに種採り分けぬ/河野啓一
朝顔の花が終わり、種ができた。来年のために、色ごとに分けて種をとる。どりどり咲いた夏の花を思い出し、また来年の花を楽しみとする。良い生活感覚だ。(高橋正子)

★山の陰山に映りて澄み渡る/安藤智久
意味から言えば、「山の陰」は「山の影」であるが、山の影が映ったところが、「陰」となっているイメージが打ち出されているので、「陰」を「影」と直しにくい。従って直さない。織りなす山山の秋気が澄んでいる景色が清々しい。(高橋正子)

○9月25日
★ひそと鳴る秋播き種はポケットに/古田敬二
秋播きの種をポケットに入れて、これから畑に出かけるのか。「ひそと鳴る」には、種の小ささもあるが、その音を一人聴きとめた作者の種への愛おしみがある。軽やかながら味わいがある句。(高橋正子)

○9月22日
★三日月に薄き雲ありきりぎりす/小西 宏
三日月ときりぎりす、それに薄き雲。これらが醸すかぼそさに、透明な世界がある。(高橋正子)

○9月21日
★バッタ飛んで青空は見ざるかな/河野啓一
バッタはよく飛ぶが、はたして青空が目に入っているのであろうか。その貌はいつも草や土を見て、空を見ないようではないか。(高橋正子)

○9月20日
★ゆきあいの空へコスモス揺れどうし/佃 康水
「ゆきあいの空」がなんともよい。出会った空にコスモスゆれどうしている。そんな空に明るさと夢がある。(高橋正子)

○9月17日/3句
★栗おこわ鞄に温い旅を行く/古田敬二
まだ温い栗おこわを鞄に入れて、旅をする。栗おこわの温みは、すなわち栗おこわを炊いてくれた人の温かみ。(高橋正子)

★母からの電話もなき日敬老日/高橋秀之
「便りのないのは、よい便り」、である。敬老の日の父母の健やかさを素直に喜ぶ。(高橋正子)

★茎に葉に紅の通いて鶏頭花/黒谷光子
鶏頭は、たくましい。鶏頭は、棒立つ茎にも、茂る葉にも、花にも、紅色をあきらかに通わせている。(高橋正子)

○9月12日
★ドングリの葉ごと落ちたり土に青し/小西 宏
大風が吹いて葉ごとドングリが土に落ちた。落ちたばかりのドングリの青さが土の色に対比されて際立つ。素敵な青だ。(高橋正子)

○9月10日
★花束を花瓶にほどく秋の夜半/安藤智久
花束をいただいた。帰り着いたのが夜となったのだろう。落ち着いてから、夜半に花束を花瓶に入れた。しっとりとした秋の夜半である。(高橋正子)

○9月9日
★とんぼうととんぼの影の水面かな/小口泰與
とんぼうが水面を飛ぶ。そのとんぼの影も水面にある。澄んだ水面と、とんぼうの翅の透明感がよい。(高橋正子)

○9月5日/2句
★静かなる海の遠さや稲光/小西 宏
海ははるかに遠くに静かに横たわる。全く平らかに。ところが、その海をいらだたせるかのように、稲光が走る。平らな海と稲妻が好対照。(高橋正子)

★石段を下りて清流芋水車/桑本栄太郎
石段をおりれば清流がある風景が爽やかでよい。芋水車は、芋を洗うために小川に仕掛けられた小さい水車。昔ながらの清流が想像できる。(高橋正子)

○9月4日/2句
★涼新た一直線に船が出る/高橋秀之
新涼の季節。港を出てゆく船も、かろやかに一直線に航跡を残して出てゆく。新涼の気分に満ちた句。(高橋正子)

★秋の野を北へ北へと行く列車/迫田和代
静かな秋の野を北へコトコトと走る列車の音を、感傷的になり過ぎずに感じているのがよい。(高橋正子)

○9月1日
★うすうすと月の生まれし薄かな/小口泰與
うすうすと生れた白い月。その月と薄の取り合わせが美しい。(高橋正子)