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「父親たちの星条旗」 見る価値【大】

2006-11-04 02:27:21 | 映画レビュー
クリント・イーストウッドとスティーブン・スピルヴァーグによる、硫黄島の戦闘を描いた「父親たちの星条旗」;FLAGS OF OUR FATHERS を見た。

 イラク戦争で、少女のような米軍女性兵士が戦闘中捕らえられて監禁されているのを、米軍の決死隊が突入して救い出し、彼女はイラク戦争の「英雄」として、戦意高揚に最大限利用したのは、つい数年前のことである。
その、彼女は良心に反する英雄扱いで心が痛み、真相を書いて出版した。
怪我で動けないところをイラク人に助け出され、イラクの病院で手厚い看護を受けていたというのが本当の話だった。

 この映画は、硫黄島の闘いで、星条旗を峰に立てた6名を英雄視し、その生き残り3名を国内に召喚し、人寄せパンダよろしく全国各地を訪問させ、「戦時国債」購入キャンペーンに協力させるというものである。

 その「星条旗を立てた」写真も実は、最初のショットではなく、メディア向けに再現した写真であり、英雄視されている3名は実は別人であるということを、冒頭に提示して、政府による「ヤラセ」世論誘導をえぐってゆく。

 その英雄の一人がインディアン(ネイティブ・アメリカン:映画では露骨に差別用語としてインディアンと放言させている)であり、表向きは「英雄」として歓迎する振りをしながら、舞台裏では露骨な差別と蔑視をやっているという「人種差別」が映画のもう一つのテーマである。
彼は、差別に心を痛め、また英雄視に対しても良心が許さず、酒に溺れてゆくことになる。

 とはいえ、何といっても第一のテーマは「ヤラセ」により徹底した世論誘導を行い、「戦時国債」を買わせるキャンペーンの実態である。
そして、直接的ではないが、これらの戦時国債により国民の資産を没収し、軍需産業だけが潤うという構造を示唆する。
 そして、このキャンペーンの推進者(財務省役人)自らに、ドルの印刷を無制限に続けており、そのうち紙切れになる、という発言をさせている。

 映画では、ベトナム戦争でも同じような「ヤラセ」が行なわれたことを、セリフの中で伝える。

 この事実を追究しているのは、硫黄島の生き残りを父に持つ、中年の男(原作者)である。
記録は、ノートパソコンを使用して行なっているので、現代に繋がっていることを強く象徴している。

 私の父も、戦時中、商社務めで上海の事務所で働いている時に、現地召集を受け、満州鉄道の防衛に参加させられたというから、年代的には殆ど同じである。
まさに、今に繋がっている話であることを実感した。

 ところで、「戦時国債」キャンペーンのパーティ会場で、戦死した戦友の母親に会う場面の背後で、楽団が演奏していた曲はモーツァルトの交響曲(おそらく40番)だった。
日本では、敵性音楽は禁止だったようだが、アメリカではモーツァルトはモーツァルトとして受け容れられていたのだろうか?
時代考証もして、選曲したものと思われるので・・・

 最後のエンディング・クレジットでは、その『英雄たち』本人(俳優ではなく)の写真と、戦死した戦友たちの写真を次々と流す。そして、おそらく映画のシーンではなく、当時の従軍カメラマンが取ったであろう歴史的資料価値の高い、戦闘写真を次々と流し、戦争の悲惨さを静かに訴えている。

 時間を計った訳ではないが、全編の半分が、硫黄島でのすさまじい残酷な戦闘シーンであった。それが、現代と、国債キャンペーンの前後と、硫黄島に派遣される前とをアトランダムに入れ子にした作りであった。
 映画の中だけでも凄まじい戦闘が36日間も続いたのである。

「補給も無い中で日本兵士も良く36日も持ちこたえて頑張った」という気持ちになってしまう自分が居た。

終演後「硫黄島からの手紙」(日本の視点で描く)の予告編が流されたが、国粋主義者にならぬよう「心して」見たいと思う。

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