*** june typhoon tokyo ***

近況注意報 0505 音楽篇

 GWとはグッド・ミュージック・ウィークの略。

 という戯言を発しながら、いま一つ好きな音楽シーンを追えていない拙ブログ主筆ですが、気になった音源などをいくつか紹介する記事を約1ヵ月ぶりにお届けします。

 いつも通りに何の脈絡もなく十数枚を垂れ流しのごとく紹介していきますが、今回はその前に一つのCD作品に言及しておこうかなと。先日4月中旬に六本木Varit.で開催されたCICADA、UKO、AFRO PARKERを擁する良質レーベル〈para de casa〉(パラ・デ・カサ)の4周年とライヴハウス「六本木Varit.」の1周年を兼ねたレーベル・パーティ〈para de casa 4th anniv × Roppongi Varit 1st anniv party!!!〉(その時の記事はこちら→「Parade!@六本木Varit.」)にて数人の方とお話しさせていただく機会があったのですが、その際「是非聴いてみて欲しい」とのことで一枚のアイドルCDを頂戴しました(こうやってファンがCDを渡して薦めたり広めたりするのを“配布芸”というらしい)。聴いてみたところ、なかなか興味深いところもあったので、まずはその作品から触れていきたいと思います。

◇◇◇
■ callme / Bring you happiness


 callme(コールミー)はRUUNA(秋元瑠海)、MIMORI(富永美杜)、KOUMI(早坂香美)によって2014年12月に結成されたガールズ・ユニット。元来は宮城県仙台市発のガールズ・ユニット、Dorothy Little Happy(通称ドロシー)の派生ユニットとして誕生し、2015年3月にメジャー・デビュー。同年夏に3名がDorothy Little Happyを卒業し、以降はcallmeに専念。2016年までにシングル3枚、アルバム2枚を発表し、2017年3月リリースの当「Bring you happiness」は4thシングルとなる。
 メンバーそれぞれの得意分野を活かした“完全セルフプロデュース”をコンセプトに、アイドルのなかでもアーティスト気質に重きを置いたスタイルが特色とのこと。クレジットを見ると、タイトル曲とカップリング「It's own way」ともにMIMORIが作詞・作曲を担当。カップリングにはKOUMIも名を連ねている。

 タイトル曲「Bring you happiness」は正統派アイドル・ポップスの系譜をしっかりと継承したような麗しいリズミカルなポップ・チューンで、メロディラインとしてはPerfumeのキュート・ポップ路線にも親和性を感じさせる(PVやライヴ映像などのパフォーマンスからはPerfumeとの親和性をより感じたが、それは奇しくも“平成のキャンディーズ”を意図して結成し、中田ヤスタカを迎えてテクノポップ化したPerfumeのルーツともいえるキャンディーズのポップネスが、図らずも正統派アイドル・ポップを構築するcallmeの意匠となっているのかもと考えると興味深い)。グルーヴを携えながらもそれが強調され過ぎず、清爽なヴォーカルワークが耳を惹きつける構成は、清楚と気品を持って佳曲を衒いなく届けるDorothy Little Happyの影響が大きいのだろう。クセがないゆえインパクトに欠けるとの見方もあるだろうが、上質なポップスを余計なノイズを加えることなくある程度の“質を持って”(これが重要)真摯に届けるスタイルがシーンでそれほど多く見受けられない昨今では、この純度は貴重な“フック”に成り得ると思う。



 だが、それ以上にこのシングルの“肝”はカップリングの「It's own way」にある。MIMORIとKOUMIが詞曲を手掛けたこの曲は、11分弱という長尺の楽曲で、クイーン「ボヘミアン・ラプソディ」やプログレッシヴ・ロックをオマージュし、ダンス・ポップ版として昇華したような組曲風。ハウス・ダンサー調な導入から第一楽章を終えると、鍵盤やギター&ドラムというバンド・サウンドに重心を落としたヘヴィロック調バラードへと移行。さらに、R&Bのフィルターを通したソウル・ポップを繋ぎにしてサム・オックやリ・プラスあたりのメロウ・ヒップホップ路線に寄せたジャジー・ヒップホップで変化をつけ、ダブステップを経由して加速度を高めつつ、再びハウス・ダンサーでクライマックスへ向かうという構成。第一楽章を“起”とするなら、ヘヴィロック・バラードが“承”、ジャジー・ヒップホップが“転”、そしてクライマックスのハウス・ダンサーが“結”という展開もよく練られている。
 
 近年は特にアイドル“ながら”斬新な大胆なアプローチでアイドル“らしくない”楽曲やパフォーマンスという類が珍しくなくなったが(その先鞭をつけ、他に野心と自信を与えたのがEspeciaの音楽的冒険だと思うが)、斬新や大胆という切り口ばかりが先走り、音楽性やアーティスト性が体を成さないものも少なくない。アイドルに限らず、ヴィジュアル系やたとえば渋谷系といったムーヴメントにも内包される“音楽性に因らないジャンル”にある雑食性が、イメージとのギャップによる“旨味”を生み出しやすい土壌にあるのも要因の一つだろうか(その意味ではアイドル・シーンでの“楽曲派”なる括りもその一つといえる)。楽曲やアーティストの“良さ”はどこを支点にするかによって評価が大きく異なるため一概には言えないが、あくまでも音楽性の完成度やトータルバランスという意味では、この「It's own way」は、さまざまな展開をしながらもcallmeらしい上品で清々しいポップネスという確固たる下地を敷いているという点で揺らぐことのない芯を持っていると感じた。
 
 その3名のクリエイティヴィティに磨きをかけ、才能の発露に手を貸しているのがアレンジを担当するRumbの存在で、callmeの楽曲のトータルバランスや質の向上に非常に大きな役割を担っている。Rumbは〈残響レコード〉所属のトラックメイカー/DJで、リミックス、アレンジ、プロデュースもこなす気鋭。el(vo)、Noki(ds)との3人編成での活動も行なっており、ブラック・ミュージック、特にジャズ、ヒップホップにインスパイアされた感も窺えるそのセンスは、「It's own way」のスムーズな展開力で遺憾なく発揮されているといえよう。
 
 個人的には、トラック(ボトム)と主旋律との融合にもう一つ踏み込んだ気密性があればと思うところもあるが、全体的にはあまり気にならない程度。興味を持った人は、特に「インストゥルメンタル」(レスヴォーカル・ヴァージョン、いわゆるカラオケ)を聴いて欲しい。ポップネスという土壌から揺らぐことなく、次にどのような新機軸、新境地を打ち出してくるのか。その継続性に期待したいところだ。



■ callme「Bring you happiness」(2017/03/22)
【Type-A】AVCD-83787/B
[CD]
01 Bring you happiness
02 It's own way
03 Bring you happiness (Instrumental)
04 It's own way (Instrumental)
[DVD]
01 Bring you happiness -Music Video-


◇◇◇

 と、意外にもcallmeに言葉を費やしてしまったので、通例の作品紹介はいつも以上にサラッと流していきたいと思います(笑)。全てが全て必聴盤! という訳でもない“適当加減満載”なので、何か一つでも興味を持つ作品があったら、嬉しいデス。
 ちなみに、最近の通勤の行き帰りはEspecia『Wizard』ばかり聴いています(←前回の記事の時と同じじゃねぇか!)。

 ということで、どんと見据えて!(Don' miss it!)

◇◇◇

Gavin Turek/Good Look For You
Kendrick Lamar/DAMN.
Llorca/The Garden
Lyrica Anderson/Nasha Pearl
Mack Wilds/AfterHours
Mary J. Blige/Strength Of A Woman
Mila J/Dopamine
Nef The Pharaoh/The Chang Project
Njomza/Sad For You
Noah/Feeling In Color
Soul II Soul/Origins
Stro/Grade A Freqencies
SYD/Fin
Tinie Tempah/Youth
Wale/Shine
1-O.A.K./Riding In Cars With Girls

◇◇◇

■ Gavin Turek/Good Look For You


 フライング・ロータス主宰〈ブレインフィーダー〉初の女性アーティストのToKiMONSTA(ジェニファー・リー)と共作やリミックスを手掛ける、米・ロサンゼルス拠点の女性シンガー、ギャヴィン・トューレック。というよりも、タキシードのバックヴォーカルを務めた紅一点と言った方が早いか。ドナ・サマー、ダイアナ・ロスらディスコ・クイーンの佇まいを嫌味なく受け継いだ、可憐なダンス・グルーヴが魅力。タキシード好きはもちろん、ダンクラ愛好家もマスト。

Gavin Turek - Don't Fight It



■ Kendrick Lamar/DAMN.


 USシーンの重要人物として注目度も非常に高いケンドリック・ラマーの4作目。米・カリフォルニア州コンプトン出身ながら、ギャングスタからファミリーへと語る矛先を変えたことで評価も高めた彼。絶賛された『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』は個人的には何故かあまり好きになれず、今作にそれを覆す期待を掛けたが、払拭されたかというと微妙。それでも、自分の弱さを見せながらも権威に対抗していく哲学みたいなものは一貫。リアーナ、U2らが参加。

Kendrick Lamar - DNA.



■ Llorca/The Garden


 1974年生まれ、仏出身のルドヴィッチ・ロルカは、「ブルー・インディゴ」などのラウンジヒットを持つアート・オブ・トーンズ名義でも活躍。そのロルカ名義でのアルバムで、ブルージィながらもキラー・フレーズをふんだんに散りばめたシャレたハウス・テイストのナンバーが美味。ディミトリ・フロム・パリのコンピにも参加している通り、仏系オサレ・ハウス好きは食指が伸びそう。スティーヴィー風ファンク好きにも。

Llorca - Waiting



■ Lyrica Anderson/Nasha Pearl


 ジェニファー・ロペスのバックヴォーカルやティンバランド「メンタリー」での客演から注目され、ティナーシェ「プリテンド」、ビヨンセ「ジェラス」、ジェニファー・ハドソン「ウォーク・イット・アウト」などを手掛けたロサンゼルス出身のR&Bシンガー・ソングライターによるEP。ミッシー・エリオットとも共演し、実力は折り込み済み。ティナーシェ路線のアンビエントR&B作風が軸。クリス・ブラウンや、彼のレーベルに所属する元リッチ・ガールのセヴン・ストリーターらが客演参加。

Lyrica Anderson - Faded to Sade



■ Mack Wilds/AfterHours


 サラーム・レミのレーベルからデビューしたマック・ワイルズは、米TVドラマ『新ビバリーヒルズ青春白書』(原題:90210)のディクソン役で知られる俳優のトリスタン・ワイルズその人。アリシア・キーズやジェイ・ZのPVにも出演経験があるらしく、90年代のヒップホップやR&Bへのリスペクトがあるとのこと。デビュー作『ニューヨーク:ア・ラヴ・ストーリー』に続く2作目で、キーシャ・コールやR.ケリーらを手掛けたDJ・キャンパーとの共作「ボニー&クライド」ほか、ヒップホップ・ソウル作を収録。

Mack Wilds - Bonnie & Clyde



■ Mary J. Blige/Strength Of A Woman


 ヒップホップ・ソウルの元祖ならこちら。先日の来日公演も素晴らしかったメアリー姐さんのアルバムは、旦那と離婚調停中に制作したこともあり、これまで以上に女性のパワーや尊厳を強調した作風に。真偽はどうか定かではないが、“これが最後のアルバムになるかも”と公言しているだけに、その熱量は凄まじい。

Mary J. Blige - Thick Of It



■ Mila J/Dopamine


 前回、ヴァレンタインに合わせて放ったミックステープ『Milaulongtime』を紹介したが、そのミラ・J(ジェネイ・アイコの実姉)がフル・アルバムをサプライズでリリース。ジャケット写真などなかなか露出好きなようで喜々とする男性も多そう。リアーナ・マナーのヴォーカルワークも含めて、官能的R&Bラヴァ―は必聴作。仏で活動するシンガー、アイ・リッチが客演参加。

Mila J - New Crib



■ Nef The Pharaoh/The Chang Project


 2015年発表のシングル「ビッグ・タイミン」が話題を呼んだ、E-40率いる〈シック・ウィドゥ・イット〉所属の米・カリフォルニア州ヴァレーホ出身のラッパー、ネフ・ザ・ファラオによるアルバム。タイ・ダラー・サイン客演の「バック・アウト」やその名も「ローリン・ヒル」なるナンバーを収録。ウェッサイ。

Nef The Pharaoh - Spice



■ Njomza/Sad For You


 USを代表するラッパー、マック・ミラーのインディ期のレーベル〈リメンバー・ミュージック〉から発表された、スクリレックスらとのコラボレーション経験もある米R&BシンガーのデビューEP。トラップ系のビートに乗るメロウな展開でハスキーなウィスパーを駆使して泳ぐように歌う、浮遊感漂う幻想的なムードが魅力。かと思えば、ライトなエレポップもあったりと振り幅が大きい(のか定まってないのか)。キングやライあたりを好む人は共感度高そう。ジャケットが鮮やか。

NJOMZA - NJOMZA



■ Noah/Feeling In Color


 No1ドラッグ名義で活動するR&B/ヒップホップ・アーティストの新プロジェクトによるミックステープ。アンビエントやトラップ系のどんよりとしたムードの中でソウルフルな歌唱やラップを繰り広げていく。チルアウト的な要素もあり、ジ・インターネット、フランク・オーシャン、ドレイク路線に目がない人はハマるかも。ドランテらが多くに制作関与。

NO1 (NOAH) - Stuck On Stupid



■ Soul II Soul/Origins


 80年代後半よりグラウンドビートなるサウンドを引っ提げてクラブ・シーンを席巻したジャジー・B率いるサウンドシステムに端を発するユニット、ソウル・II・ソウルのライヴ音源。タイトルよろしく同ユニットの名曲をオリジナル・ヴォーカリストのキャロン・ウィーラーを迎えて、原点に立ち返りながらもフレッシュなグルーヴで堪能させる。2016年の限定アナログをタワーレコード限定でCD化。

Soul II Soul - back to life / keep on movin / get a life



■ Stro/Grade A Freqencies


 ラッパーではアストロ名義で知られ、10代で『Xファクター』出演経験や俳優としても活動する、ジャマイカ系の母を持つニューヨーク・ブルックリン出身のブライアン・ヴォーン・ブラッドリー・ジュニアによるアルバム。マーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーからナズ、2パック、ジェイ・Z、メアリー・J.ブライジ、ボーイズ・II・メンらの影響を感じさせるフレーズが散見。

Stro - From Me



■ SYD/Fin


 タイラー・ザ・クリエイター率いるロサンゼルスのヒップホップ集団オッド・フューチャー(オッド・フューチャー・ウルフ・ギャング・キル・ゼム・オール / OFWGKTA)に所属し、ジ・インターネットのメインヴォーカルでもあるシド・ザ・キッドによる、シド名義でのソロ・デビュー・アルバム。ジ・インターネットとは旗色を替えた打ち込み主体のシンセ・サウンドは、美麗なブランディといった感じも。メロー・X、ヒット・ボーイ、シックス・ラックらが参加。

Syd - All About Me



■ Tinie Tempah/Youth


 2009年のメジャー・デビュー・シングル「パス・アウト」で全英1位を獲得後、英ラッパーで初めて全米でミリオンセラーを記録した、サウスロンドン出身のナイジェリア系ラッパー、タイニー・テンパー(パトリック・ジュニア・チュクエメカ・オコグ)の3作目。UKガレージやグライムの影響下で育ったゆえ、アッパーなナンバーにはその“名残”も。スウェーデンのポップ歌姫ザラ・ラーソンや人気ラッパーのキッド・インク、R&Bアイコンのティナーシェほかゲストが多数参加。

Tinie Tempah ft. Tinashe - Text From Your Ex



■ Wale/SHiNE

 
 リック・ロス主宰の〈マイバッハ・ミュージック・グループ〉に所属する、ワシントンD.C.出身のリリシスト・ラッパーによる5作目。タイトルは“Still Here Ignoring Negative Energy”の略称とのこと。リル・ウェイン、メジャー・レイザー、G・イージー、クリス・ブラウンら著名どころに加えて、ウィズキッド、フィル・アデ、オラミデ、ダヴィドなどナイジェリア出身のラッパーが多数参加。ワーレイ自身がナイジェリア・ヨルバ人系の出自を持つだけに、ドレイクの最新作『モア・ライフ』的なアプローチを模したフックアップ/フォーカス的な要素もあるか。マイケル・ジャクソン「P.Y.T.」を借用した「マイ・PYT」なる曲も。

Wale - Fashion Week



■ 1-O.A.K./Riding In Cars With Girls


 米・オークランド出身でベイエリア周辺仕事で活躍するR&Bシンガー・ソングライター/プロデューサー、ワン・オブ・ア・カインド(One of A Kind)によるアルバム。“女子たちと車に乗り込んでる”という何とも下世話度合いの高いタイトルだが、褐色系の声色というか、中高音に照りが出るなかなかのヴォーカルワークを披露してくれる。聖歌隊の経験があり、スティーヴィー・ワンダーやダニー・ハサウェイ、ルーサー・ヴァンドロス、マイケル・ジャクソンらに影響されたようで、ニューソウル~ブラコンあたりの風味も垣間見られる。

1-O.A.K. - Lost & Found


◇◇◇


















 以上です、キャップ。










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