*** june typhoon tokyo ***

水曜日のカンパネラ@日本武道館




 水曜の夜、擬宝珠の下で鳴り響く夢の祝宴の鐘。

 2015年、「ヤフオク」のCMに出演すると“あの常盤貴子似の女性は誰?”といった惹句で一躍メディアに採り上げられたコムアイ。そのあたりを前後にライヴのチケットもなかなか入手困難になるなど、急カーブで人気に火が付いた水曜日のカンパネラがついに日本武道館の地に足を踏み入れた。観賞したのは2015年3月のリキッドルーム公演以来となる(その時の記事→「水曜日のカンパネラ@LIQUIDROOM)。

 少し個人的な話をすると、水曜日のカンパネラの“主演”のコムアイを最初に直に見たのは、2013年8月に行なわれたEspeciaの渋谷・WWW公演〈Bailas con Especia〉にまで遡る。当時、Especiaのオープニングアクトとして出演し、終演後にフロアを自由気ままに観客たちと話しながら徘徊していたのを覚えている。また、nujabesが設立した〈Hydeout Productions〉に所属していたケンモチヒデフミがトラックメイカーだと分かると、〈Hydeout Productions〉レーベルにも興味を寄せていた自分は、コムアイの“ヘタウマ”ラップとnujabes一派サウンドが今後どのように構築されていくのかにも非常に興味を抱いていた。

 あれから3年半。「ツイッギー」がヤフオクCMで流れ、日清「カレーメシ」とのタイアップには「ラー」が使われるなど瞬く間に知名度もファン数も上昇。2016年6月にはメジャー進出も果たし、TV音楽番組にも出演。そして、コムアイや“水カン”クルーの目標の一つでもあっただろう、日本武道館ワンマンライヴという大きな夢へと辿り着いた。

 360度を見渡せる八角形のステージをフロア中央に配して映像スクリーンを設けなかったのは、1万人集客可能な規模でありながらもどの角度からも肉眼で見えるように作られた日本武道館の特性を活かして「武道館の中心で演じる私をあらゆる角度から見てもらいたかったから」とコムアイ。そのステージへは『西遊記』の孫悟空がごとくキン斗雲に乗って、しかしながら三蔵法師とクレオパトラをマッシュアップさせたような出で立ちで登場。八角のステージをぐるっと一周しながらその演出に相応しい「猪八戒」で水カン流小宇宙〈八角宇宙〉の幕が開けた。

 『ジパング』以降、メジャー進出後の『UMA』『SUPERMAN』の楽曲を中心に構成。「ディアブロ」や「桃太郎」では観客の合いの手とともに和気あいあいと武道館の広さを実感すれば、「アマノウズメ」では“今回、実は撮影OK”と告知し、観客にスマホのライトを照らしてほしいと協力を要請。暗転したフロアの四方八方からスマホのライトが照らし出される光景は、さながら宇宙空間のそれとなった。「ウランちゃん」からはレーザービームも加え、ハードで近未来的なインパクトを構築。「マッチ売りの少女」ではマッチの火に見立てたスティックを持ったダンサーが中央のコムアイを囲むように現れ、バトントワリングのようにその“火”を回すと、「ナポレオン」では天吊りの棒状のキネティックライトがさまざまな形や色に変化しながら意志を持つ生物のようにコムアイの頭上で動き、コムアイを包み照らす演出。
 なかでも、“表現者”コムアイならではの世界観が充溢したのは、芸術性や写実性を強調した新劇風のダンスを交えた演目。幕間的に披露された「バク」ではステージ周囲を円筒状に白い布で覆い、その布にさまざまな映像を投影するなかで舞台上でコムアイが所狭しと踊る姿は、言うなれば踊る水中花か。「ユタ」では黒と白の衣装のダンサーがゾロゾロとステージに集結し、2010年代の“ええじゃないか”か“ヒジュラ(聖遷)”よろしく中央のコムアイへ向けて喜びの舞をするという阿鼻叫喚の絵図を展開。黒と白のダンサーで陰陽の意匠である太陰大極図を描いたのは、コムアイへの“ヒジュラ(聖遷)”をヒンディ語・ウルドゥー語で半陰陽や両性具有者を意味する“ヒジュラ”と重ねているのか。さらに「ユニコ」では、ステージを埋めたダンサーが次々と脱ぎ始め、その脱いだ服をセンターのコムアイの足元へ投げていくと、積み重なった服の上に立って歌うコムアイは、小高い丘に建つマリア像のような面持ちで心を癒し、苦悩を解き放つような柔和な歌唱でカオスな世界をゆっくりと安らぎの空間へといざなう。その声に諭されたダンサーたちは救済を得たかのようにステージから外へと歩を進めていった。

 圧巻はワイヤーで吊るされたコムアイが三角形へ変化したキネティックライトの中をくぐるようにして上昇して舞い踊る「世阿弥」から、空中に吊るされたままのMCを挟んで、2階席に陣取っていた“カレーメシくん”をステージに呼び込んでの「ラー」。観客と共に発したフックの“ラー!”“ゴー!”の掛け声の後押しを受けながら、時にくるりと回り踊る姿は、表現者としての喜びを発破させたものか。
 八角形で形作られた武道館は法隆寺の夢殿を模したものと聞くが、水カンにとっての“夢殿”がまさに武道館。聖徳太子を偲んで救世観音を本尊とした夢殿になぞらえた武道館に自らの夢を託したとすれば、遠く飛鳥の時代から近未来の宇宙へと連綿と続く時空にその身を置けることは、水カンにとって興奮の極地だったかもしれない。

 アンコールは「ドラキュラ」を観客とシンガロング。コムアイがケンモチヒデフミとDir.Fをステージに呼び込み“この3名で水曜日のカンパネラ”と宣言。ケンモチとDir.Fにも歌わせると、最後はケンモチがキン斗雲の台座に乗ってステージを周回するという演出で、水カン流小宇宙の幕を下ろした。

 コンテンポラリーからカオスな演出まで、コムアイらしさがふんだんに詰め込まれたステージは、多くの観客を魅了したと思う。しかしながら、正直なところこの規模に見合っていたかと首をかしげる場面もなくはなかった。元来、コムアイが“歌える”タイプではなく、適度な“緩さ”も水カンの持ち味なのは重々承知しているが、ステージで一人歌い踊る場面が続くと、おそらくこれはスタンディングで観ていたアリーナとスタンドとでは異なる感覚だと思うが、武道館の規模ではやや距離を感じたのも事実。そのうえ、コムアイのラップは声高かつ明瞭な譜割りをしない歌唱ゆえ、初見や歌詞を知らない観客にとっては何を歌っているのか分からない状況にもなっていたかもしれない。もちろん、当日の音響も要因として挙げられるが。
 厳しく言えば、豪華な演出もあったが、これまでのライヴハウス級でのステージと比べると全体的に見れば“帯に短したすきに長し”感が散見したのは否めなかった。もちろん、緩さもあってこその水カンのステージゆえ、このクラスではその緩さと規模とのバランスをもう一歩突き詰めるとより完成度が高まるのではと感じながら、完成度の向上が果たして水カンの魅力を高めることになるのかというジレンマも覚えた。「資金的に目一杯、満杯でも赤字」とコムアイが話していたとおり資金面がクリア出来ないと、そのあたりの統一性をもたらすのは容易ではない事実もあって、頭を悩ませるところだ。

 とはいえ、多くを魅了した空間にウソ偽りはない。カンパネラとはイタリア語で教会や寺、あるいは鈴などの小さな鐘を意味する。法隆寺夢殿を模した八角形の小宇宙で一つの小さな夢の鐘を鳴らした事実は、決して揺らぐことがない。

◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 猪八戒 (*5)
02 シャクシャイン (*5)
03 ディアブロ (*4)
04 雪男イエティ (*6)
05 アラジン (*7)
06 桃太郎 (*3)
07 アマノウズメ (*7)
08 ライト兄弟 (*5)
09 ツイッギー (*5)
10 ウランちゃん (*5)
11 バク (*6)
12 ユタ (*4)
13 ネロ (*1)
14 ユニコ(*6)
15 カメハメハ大王 (*7)
16 ツチノコ (*6)
17 マッチ売りの少女 (*5)
18 ナポレオン (*4)
19 ミツコ (*2)
20 坂本龍馬 (*7)
21 世阿弥 (*7)
22 ラー (*5)
23 一休さん (*7)
≪ENCORE≫
24 ドラキュラ (*3)

(*1):song from album『クロールと逆上がり』
(*2):song from album『シネマジャック』
(*3):song from album『私を鬼ヶ島に連れてって』
(*4):song from album『トライアスロン』
(*5):song from album『ジパング』
(*6):song from album『UMA』
(*7):song from album『SUPERMAN』

<MEMBER>
Wednesday Campanella are:
KOM_I(コムアイ)
Hidefumi Kenmochi(釼持英郁)
Dir.F(福永泰朋)

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