LIBRO x 嶋野百恵/オトアワセ
AMPED MUSIC/AMPED-006
2015/10/07
≪TRACK LIST≫
01 これなんて曲
02 自分流
03 太陽の心
04 やさぐれつつ核心
05 静寂なる炎
06 時の鐘
07 記憶の調律
08 コトバノチカラ
09 ビューティフルデイ
10 クデ マク テ (マタ)
11 エン
12 探求
◇◇◇
ヒップホップ・シーンの黎明期から活動し、97年にラップ&トラックメイクというスタイルで登場したLIBRO。その翌年にシングル「baby baby, service」で日本のR&Bムーヴメントに沿うように注目された嶋野百恵。同時期にデビューした二人がそれぞれの言葉と音を持ち合って生まれたアルバム、それがこの『オトアワセ』だ。LIBRO、嶋野百恵のそれぞれ5曲のヴォーカル曲に、イントロとアウトロを飾るインストゥルメンタル2曲を加えた全12曲。ジャケットのような星空舞う深い夜に見合う、アダルトでシックな一枚となっている。
LIBROのラップと嶋野百恵のヴォーカルが明白に交差するという楽曲はほとんどなく、交互にそれぞれのヴォーカル曲が登場するという印象が強いためにスプリット・アルバム的にも思えるが、そこはしっかりとしたコンセプトを通底。聴いているうちに、LIBROと嶋野百恵が“遠い夜空の向こうにいる人へ問いかけ合う”ようなストーリーを創り上げている。
たとえば、嶋野百恵が「太陽の心」で“1 2 1 2 1 2 1”(この曲は歌詞がこれしかない)と歌えば、LIBROが次曲の「B面」で“マイクチェック1、2”と受けたり、「記憶の調律」で“満たされない言葉が夜を包む”と嶋野百恵が発せれば、「コトバノチカラ」でLIBROが“言葉”の重みを語り出すといった風。ただし、直情的にテーマを投げ受けるのではなく、背景や心の底に微かに見える何かを感じ取りながら想いを放ち合うという、大人の佇まいでの会話がなされていくところは、彼らの真骨頂といえるものだろう。
そのコンセプトは何かといえば、LIBROは「自分流」での“引き続き探求”、「B面」で“聞いた事ない切り口 角度で探求”、「コトバノチカラ」で“おれたちの探求は続いて行く”というリリックやラスト曲のタイトル「探求」でも解かるとおり、“探求”だ。一方、嶋野百恵のヴォーカル曲にはその“探求”という言葉すら出てこない“モエ節”全開のラヴ・ソングが並んでいる。だが、そのラヴ・ソングを聴けば、常にあなたという存在を探し求めている情動を描いたものだということに気づくだろう。自らの築くべきスタイルを探求するLIBROと愛や恋という形で自らを満たす術を追い求める嶋野百恵という、表情は異なれど深く何かを探し求めることに意識を置いた会話が、90年代のR&B/ヒップホップをベースにしたスムース&メロウなトラックに乗せて綴られていく。それはさながら、星空の下で交わされる大人の恋愛短編集とでもいえようか。
派手なインパクトはないが、ジワジワと心に響く浸透力の高さは特筆もの。インスト・トラックを含めて、どれも心地良い雰囲気を抱いた曲ばかりだが、あえて1曲を挙げるとするならば、5曲目の「静寂なる炎」が白眉か。ヒップホップ・クラシックなミディアム・ビートと仄かに明るさを灯す鍵盤に、艶やかなスキャットとスクリュー・ヴォイスが絡み合うこと3分。そこでようやく嶋野百恵のヴォーカル・パートが顔を表わすという、この上ない焦らしに悩殺される。こみ上げる想いがままにならないもどかしさを描き上げる、陰りと妖しさのシーツを纏ったような歌声を聴くにつれ、いつの間にか彼らが奏でる深層心理の世界へと導かれてしまっているのだ。また、DJ BAKUのスクラッチも静かながらも心躍らせるのに充分な絶妙のツボを刺激してくれる。
素晴らしいのは彼らが奏で合う楽曲にはブレがないこと。もしかしたら僅かながらも、90年代の匂いはノスタルジックさえ呼び起こすがそれだけでしかないという批評を生むかもしれない。単にその時代のテイストに回帰しただけなら、その言質も当たる部分もあるだろう。だが、本作はその言及には全く値しない別次元のもの。彼らが培ってきた音楽性を進化させながらも決して時流に呑まれないという確固たる信念が、一つ一つの音や声に根付いている。コンセプト、ストーリー性、そして相性。全ての面で高次元で融合した星空の短編集。この楽曲を今の時代に聴ける喜びに、思わず頷きたくなる一枚だ。
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モエにはそろそろ単独アルバムもリリースしてもらいたいところ。
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