*** june typhoon tokyo ***

Lalah Hathaway@BLUENOTE TOKYO

 レイラからの素敵な聖夜の贈り物。

 ブルーノート東京のクリスマス・シーズン企画〈クリスマス・イヴニング〉にレイラ・ハサウェイが登場すると耳にしてから、待ち望んでいた公演〈Christmas Evening with LALAH HATHAWAY〉を観賞。12月23日から3日間行なわれる1日2ステージの6公演、まさにライヴ・タイトルどおりのクリスマスの夜、25日の最終公演に足を運んだ。

 レイラ・ハサウェイを生で観るのは約3年弱ぶり。その時はロバート・グラスパー公演のゲストとしてだったが、単独公演となるとその前年の2012年のブルーノート東京公演となる。

・2013/01/25 Robert Glasper Experiment@Billboard Live TOKYO
・2012/01/07 LALAH HATHAWAY@BLUENOTE TOKYO

 2014年にスナーキー・パピーとの「サムシング」で“ベストR&Bパフォーマンス”、そして2015年にはロバート・グラスパーとの「ジーザス・チルドレン」(邦題「神の子供たち」)で“ベスト・トラディショナル・R&B”と2年連続でグラミー・ウィナーとなったレイラ。さらには、父ダニー・ハサウェイの名盤同様、“ライヴ”と銘打ったアルバムをリリース。この『レイラ・ハサウェイ・ライヴ』は『ダニー・ハサウェイ・ライヴ』と同じくハリウッドのトルバドールシアターで収録した感慨深い意欲作。そのアルバムを引っ提げて、東京の聖夜をソウルフルに彩るステージだ。

 左奥にキーボードのトニー・カズー、その右隣にコーラス隊のジェイソン・モラレスとデニス・クラーク、中央奥にギターのアイザイア・シャーキーとベースのエリック・スミスが佇み、右にドラムのエリック・シーツ。アイザイア・シャーキーは今夏のディアンジェロ公演で帯同した“ザ・ヴァンガード”の一人(その時の記事「D'angelo And The Vanguard@Zepp Tokyo」)で、ジェイソン・モラレスとエリック・シーツは前回の2012年1月の単独公演でもバンド・メンバーとして来日、レイラの極上のソウルショウを演出するには充分の面子が揃った。

 レイラの父、ダニー・ハサウェイについて少し触れておくと、マーヴィン・ゲイと共に“ニュー・ソウル”シーンを牽引する黒人アーティストとして脚光を浴び、1972年に彼自身初となるライヴ・アルバム『ライヴ』がヒット。ソロ名義としてはキャリア最大のヒット作となったが、その後入退院を繰り返した後、33歳の1979年1月13日に米ニューヨークのエセックス・ハウス・ホテルから転落死という悲しい最期を遂げたソウルの逸材だ。死後も多くのファンを持ち、ソウル/R&Bシーンのアーティストはもちろん、たとえば、彼の初アルバム『新しきソウルの光と道』(原題『Everything Is Everything』)はサンボマスターのアルバム『新しき日本語ロックの道と光』のタイトルに引用されるなど、ブラック・ミュージック・シーン以外にも影響を与えている。

 その父ダニーの最高傑作と同タイトルをリリースした娘レイラ。長年父の楽曲をカヴァーすることを避けていたような彼女だったが、“ダニー・ハサウェイの再来”と言われたフランク・マッコムとの共演で父ダニーの楽曲を歌うことが増えるようになると、次第に父の歌を受け入れ、そしてようやくライヴ・アルバムとして形に残したのが『レイラ・ハサウェイ・ライヴ』だ。ある意味その再現が東京で行なわれるとなれば、ソウル/R&Bなどブラック・ミュージックを愛する者としては見逃すわけにはいかない。しかも、クリスマス・シーズンともなれば、父が歌う名クリスマス・ソング「ディス・クリスマス」(1972年)を披露するという期待も十二分に高まるのは必然だろう。

 新作『レイラ・ハサウェイ・ライヴ』の出来は、ここでは「聴いてもらえば解かる」というライターの記事であれば避けなければならない言葉を敢えて使って触れないでおくが、その世界観が間近で体感出来る興奮を何と表現したらいいのか。

 アース・ウィンド&ファイアのカヴァー「ラヴズ・ホリデイ」でのロー・ヴォイス、ルーサー・ヴァンドロスのカヴァー「フォーエヴァー、フォー・オールウェイズ、フォー・ラヴ」でのギターを前面にフィーチャーした“哀愁”のステージ、「サムシング」での“サッチモ”(ルイ・アームストロング)ばりのスキャットなどは、前回の単独公演でも見せたが、グラミー・ウィナーとなったからという訳でもないだろうが、時を経て旨味と熟成がさらに進んだ感じ。噛み締めるほどに味を感じる醸成の妙がレイラが放つ声やバンドと織りなすグルーヴから伝わってくるようで、客席をくまなく見渡し、微笑みを浮かべながら歌う姿は“泰然自若”という言葉がピッタリ。ロー・ヴォイスのみならず高音スキャットまで幅広いレンジで繰り出す折々の声の表情に“自信”が満ち溢れていたことを、会場にいた多くの観客が感じたと思えるほどだ。

 また、バンドの音鳴りとグルーヴは格別。決してレイラのヴォーカルを邪魔することはなく、それでいてそれぞれの音を明確に示すのだから、その絶妙なバランスたるや。レイラとのコミュニケーションも和やかに取れていて、ここぞという時に存在感を発揮する腕利きの仕事ぶりには感嘆せざるをえなかった。トニー・カズーの軽快に弾むエレピ仕様の鍵盤、漆黒だが泥臭さは皆無のエリック・スミスのベース、ヴォーカルに厚みとコクをもたらすコーラス隊……と、演奏技術視点だけではなく、楽曲の本質を表現しようとするようなパフォーマンスが見事なグルーヴを創り出していき、その音に感化されたレイラも豊かなヴォーカルをさらに細やかで美しく奏でていく。テクニックやパフォーマンス以上に、オーディエンスやフロアに感嘆と歓喜をもたらす“センス”が漲っていたといえるだろう。“脂の乗った”“旬の”という言葉ではチープ過ぎるほどの真盛期を体感する喜びが、多くの観客の顔から窺うことが出来た。

 そして、冒頭の「リトル・ゲットー・ボーイ」と「ディス・クリスマス」という父の名曲の披露。アンコール1曲目にギターのアイザイアとアコースティック風に披露したナット・キング・コールの歌唱で広く知られる「ザ・クリスマス・ソング」を終えると、バンド・メンバーが再びステージインしてからの「ディス・クリスマス」で幕。そのイントロが流れるやいなやの観客の笑顔や感涙の表情は、まさにレイラからのクリスマス・プレゼントに喜ぶ子供たちのよう。もちろん自分も心躍りながらステージを見遣り、その声や音、グルーヴ、ヴァイブスにいつまでも浸っていたいと感じながら、メンバーがステージを後にするのを見続けていたことは言うまでもない。

 父の楽曲から背けていたのではなく、愛しているがゆえに封印してきたのだろう。それが次第に雪解けし、全てを受け入れた上で作品として形に遺した2015年。その冬に最高のステージを経験出来たことは、ダニーとレイラの楽曲を愛するファンとしてはこの上ない至福。レイラの穏やかな微笑みにも心安らぐ、極上のクリスマス・ナイトとなった。

◇◇◇
 
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Little Ghetto Boy(Original by Donny Hathaway)
02 Baby Don't Cry
03 Angel(Original by Anita Baker)
04 Love's Holiday(Original by Earth, Wind & Fire)
05 When Your Life Was Low
06 Forever, For Always, For Love(Original by Luther Vandross)
07 Something
08 Lean On Me
≪ENCORE≫
09 The Christmas Song -Merry Christmas to You-(Chestnuts Roasting On An Open Fire)(with Isaiah Sharkey's guitar)
10 This Christmas(Original by Donny Hathaway)

<MEMBER>
Lalah Hathaway(vo)

Jason Morales(vo)
Dennis Clark(vo)
Tony Cazeau(key)
Eric Smith(b)
Isaiah Sharkey(g)
Eric Seats(ds)

◇◇◇

Lalah Hathaway - Little Ghetto Boy

Snarky Puppy feat. Lalah Hathaway - Something


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