完全自己満足身勝手企画、Especiaのメジャー・デビュー・リリースまでに過去作を振り返るCDレヴュー第2弾は、2013年5月に2枚同時リリースとなったEP『AMARGA -Tarde-』『AMARGA -Noche-』を採り上げます。
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『AMARGA -Tarde-』(2013/05/22)
01 AMARGA
02 トワイライト・パームビーチ
03 センシュアルゲーム
04 スカイタイム
05 Interlude
06 パーラメント
07 オレンジ・ファストレーン
08 不機嫌ランデブー
09 AMARGA (reprise)

『AMARGA -Noche-』(2013/05/22)
01 AMARGA
02 トワイライト・パームビーチ
03 センシュアルゲーム
04 Midas Touch
05 Interlude
06 パーラメント
07 ステレオ・ハイウェイ
08 不機嫌ランデブー
09 AMARGA (reprise)
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『DULCE』に続く2枚目のEPは、なんと2枚同時リリース。スペイン語で“苦い”を意味する『AMARGA』(アマルガ)を共通のタイトルに冠して、“西日を映すビルディング、賑わい出すアヴェニュー。甘美な苦みはとっておきのスパイス。”がキャッチコピーの『AMARGA -Tarde-』(アマルガ・タルデ、以下『Tarde』)と“夜の帳が下りる頃、着飾った町並みは鮮やかに踊りだす。さぁもう一度、酔いしれて。”がキャッチコピーの『AMARGA -Noche-』(アマルガ・ノーチェ、以下『Noche』)という、それぞれ“夕方”と“夜”の風景を描いたものに。
それぞれ9曲のうち、「AMARGA」「トワイライト・パームビーチ」「センシュアルゲーム」「Interlude」「パーラメント」「不機嫌ランデブー」「AMARGA(reprise)」の7曲は共通だが、『Tarde』には「スカイタイム」「オレンジ・ファストレーン」が、『Noche』には「MIDAS TOUCH」「ステレオ・ハイウェイ」が収録されている。
まず注目したいのが、妖しげな吐息の囁きとムーディなサックスが黄昏時を描くようなイントロダクション「AMARGA」、そのリプライズでアウトロ的な役割を担う「AMARGA(reprise)」に加え、煌めきと爽快感をまとったトラックを背景に他愛のないガールズ・トークをそのまま乗せた「Interlude」をちょうど中間に配すなど、“アルバム”を意識した作りになっていることだ。楽曲単位で聴かれることが多くなった時代に逆らうように、というよりも、Especiaが掲げてきたアーバンというコンセプトの基となる時代にフィットさせた“仕様”というべきか。
前作『DULCE』がディスコ/ブギー・ファンクを中心に構築していたとすると、本2作目はAOR/フュージョンやシティ・ポップに寄った作風に。ヴィジュアル性でいえば、ミラーボール輝くディスコの風景から、ジャケットよろしくアーバンなベイサイド、鈴木英人やわたせせいぞうの世界が似合う色調へと変化。それを最も表現したのが「パーラメント」で、当時の人気音楽番組『ザ・ベストテン』風のロゴやトレンディードラマをモチーフにしたPVでも明らかなように、テーマは“トレンディ”なシティ・ポップだ。“Sunday Nightに魔法をかけて”で始まるキラキラとしたオシャレなリリックとリズミカルなカッティング・ギターやサックス・ソロなどを敷いて、華やかでスタイリッシュな都会を描出している。
とはいえ、サウンドには前作同様の“黒さ”は継承。シティ・ポップ色が強めではあるが、ファンキーなボトムやR&B的なサウンドもしっかりと鳴らされている。“ソワソワ スキップモーション”で始まる「不機嫌ランデブー」などは陽気なディスコ・ファンクの要素とキュートなポップネスがほどよく混ぜ合わさった“ベイエリア・ポップ”といった面白さも。
もう一つ、本作で鍵となるのが前半の「トワイライト・パームビーチ」「センシュアルゲーム」といった楽曲群。歌唱にはまだ“背伸び”感があるものの、しっとりとしたミディアム・スロー・テンポのなかで黄昏を感じさせるアーバン・メロウなムードがアダルトな世界観を構築している。享楽とメランコリー、幻想と刹那といったノスタルジーが充溢する楽曲を収めたことで、本作のキーとなる「パーラメント」のトレンディ色がより鮮やかになり、彼女たちの中に見え隠れしている華やかさやポップな部分が巧みに引き出されている感も。
また、それぞれ『Tarde』『Noche』のみに収録されている楽曲も秀逸だ。『Tarde』には「スカイタイム」「オレンジ・ファストレーン」の2曲。「スカイタイム」は推進力あるシャキシャキとしたドラムのビートとともに高気圧な青空へ上昇する爽快なグルーヴィ・ポップで、特に“かき乱すように そう恋は”からのブリッジの高揚感が胸を躍らせる。心的加速度を高めるファルセットもいい。“恋は追い越し車線で”のフレーズがピッタリの「オレンジ・ファストレーン」は煌びやかなシティ・ポップで、筒美京平が作るような“洋楽風J-POP”や南佳孝、角松敏生ライクなサウンドを想起させる。アース&ウィンド・ファイアやルーサー・ヴァンドロスに影響を受けた角松的な作風が一番近いかもしれない。
一方『Noche』には、山下達郎の40枚目のシングル「MIDAS TOUCH」(2005年1月リリース)のカヴァーを大胆にも組み込んでいる。オリジナルはややくぐもったカーティス・メイフィールド風のヴォーカルがメロウ色を導き出しているが、こちらはガールズ・ポップらしいキラキラとした装飾に。山下が“触ったもの全てを黄金に変える”ミダス王をミステリアスに描いたのに対し、Especiaは気まぐれな女神のような爽やかで甘酸っぱいムードで表現しているのも面白い。
山下達郎はファンキーなディスコ「BOMBER」が特に関西・大阪からヒットしたことでソロとしてのキャリアへの推進と自信が満ちたようだが、そういった大阪との親和性も感じさせる選曲にも思えた。
もう一つの「ステレオ・ハイウェイ」は印象的なブレイクから始まり、徐々に熱を帯びるホーンに背中を押されるように大人の“嗜みの恋”を歌うフュージョン色が色濃くでたシティ・ポップ。ヴォーカル・メロディとバック・トラックのコードのちょっとしたテイストの違いが不思議な感触を生み出しながら、フックで一気にシンクロして高揚感を煽る展開や、フック・ラストの“ニセモノよ”のファルセットがほどよい艶やかさをもたらすところが魅力だ。さらにいえば、冨永悠香のヴォーカル・ソロが多く、彼女の力量=Especiaの歌唱力を問われるという意味でも重要な曲といえるだろう。
現実には知る由もない80年代のトレンディ感覚を、少女から大人への成長過程である彼女たちが演じたドラマ2篇というイメージがフィットするこの2枚。アダルトさもちょっぴり加味しながら、彼女らが本来持つポップネスとともにグルーヴを構築するバランスの妙が、当時を知る人たちや当時のサウンドを好む人たちに受け入れられたのではないか。
Especiaが単なるディスコ/ブギー回顧に終わらないことを示した意味でも重要な作品といえる。
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Especia - パーラメント
途中で入ってくるキャスト名のテロップが最高。