*** june typhoon tokyo ***

Jill Scott@Zepp DiverCity TOKYO


 圧巻のソウル・グルーヴ。

 ビルボードライブ開業のオープニング公演としてスティーリー・ダンやベイビーフェイスらとともにラインナップされていたのが2007年8月。だが、発表直後の2007年5月にジル・スコットの来日公演延期が決定。“延期”ということだったが、その後来日公演決定の知らせは待てど暮らせど届かず、9年の月日が経っていた。
 
 日本には縁がないのか、と諦めかけていた2016年8月、翌9月に横浜・赤レンガで行なわれる都市型フェス〈SOUL CAMP〉での来日決定に続き、一夜限りの単独公演の一報が。ネオソウル好きならば誰もが熱くなること間違いなしのネオソウル・ディーヴァの初来日のステージを目に焼き付けるべく、雨風吹き荒れる天候の中、東京・台場のZepp DiverCity TOKYOへ駆けつけた。

 3連休後の平日の夜、台場というやや不便なロケーション、荒天と悪条件が重なったが、ディアンジェロやマックスウェル公演も盛況ゆえ、ネオソウル、R&Bなどブラック・ミュージック・ラヴァーの多くが集うことを期待していたのだが、開演30分前過ぎに急ぎ足でフロアへ向かうと“グラミー・3タイムス・ウィナー”のライヴとしてはあまりにも寂しい集客状態。後方の一部は立入禁止区域となり、後方高台の前方には急遽パイプ椅子が並べられていた。2階席も合わせて約2500弱のキャパに300人前後の客入りは、非常に残念の一言。「クリス・ブラウンはソールドアウト(その後公演中止が決定)なのに、ジル・スコットはこれか。日本にいるR&Bやソウル好きだと言うヤツの7割は“なんちゃって”でしかないな」など理不尽な怒りにも近い思いが去来する一方、「この状態でジル・スコットは果たして懸命にステージを全うしてくれるだろうか」という不安がよぎる。

 というのも、海外アーティストが来日する場合、いわゆる“やっつけ”というか、特に何か機嫌を損なうと適当にあしらって終えることも少なくない。それゆえ、この惨憺たる集客数にへそを曲げてしまうのではないかと。開演時刻を10分、20分と過ぎてもBGMのヒップホップ・トラックが続いていくばかり。ステージ上には左からコーラス隊のスタンドマイクが3本、パーカッション、ドラムセット、キーボードなどフルバンドらしきセットが薄っすらと窺えるが、いっこうにバンドメンバーが登場してくる気配がない。奇しくもディアンジェロ公演とほぼ同じく定刻より45分が過ぎた頃、BGMと照明が消え、バンドメンバーがステージイン。デビューして16年、フィラデルフィアが生んだ“ネオソウルの女王”の初来日公演が幕を開けた。



 ギター、ベース、キーボード、ドラム、パーカッション、サックス、トランペット、コーラス3名(ザ・パイプス)、そしてジル・スコットと総勢11名が揃ったステージは、開演前の不安を一瞬にして吹き飛ばすようなパフォーマンスに終始。いわば、これぞ“プロフェッショナル”というに相応しいステージングで、フロアの観客を圧倒した。バランスがとれたバンド・サウンドは、歯切れのいいホーン・セクション、ヒップホップ・スタイルを組み込み、踊りながら魅惑のハーモニーで華を添えるキャップを被った男性コーラス隊、ファンクからロックとリズムを奏でるギター&ベース、時にはゴーゴーのような展開でも小気味よいリズムを生み出したドラム&パーカッション、バラードでは麗しいメロディを紡いだキーボードと、スタンドプレーなど皆無な“ミス・ジル・スコット・バンド”として機能しているがゆえ。同時にソウル・グルーヴ濃度の高い演奏で、その矜持を知らしめていた。

 主役であるジル・スコットはさすがの風格、貫録。微笑みを絶やさず、また観客を煽るような表情豊かな顔立ちで語りかける。時には胸の前で手を合わせ、決して多くはない観客へジル・スコットの音楽を愛してくれることとサポートしてくれることへの感謝の言葉も呟いていた。
 彼女のヴォーカルワークはパワフルだが、ただ力でドンと押し付けるような一辺倒のものとは異なり、非常に深みがあってフレキシブル。R&B、ソウル、ファンク、ジャズ、ロックと色合いを変えるサウンドに、包容力と豊かな表現力で彼女ならではのグルーヴを生み出していく。オープニング・パンチにしてファットでゴージャスな音鳴りのなかで怒涛の迫力でフロアを呑み込む「カミング・トゥ・ユー」をはじめ、“I'm taking my freedom~”の一節で即座に耳目を釘付けにした「ゴールデン」、朝の小鳥のさえずりのようなリフレインがキュートで美しい「ホワットエヴァー」、コーラス隊“ザ・パイプス”とのハーモニーとスムースなグルーヴを繰り広げネオソウル然とした「ゲッティン・イン・ザ・ウェイ」(ザ・パイプスは「フールズ・ゴールド」でも良い仕事ぶり)、ホーン・セクションとのアッパー・ジャズ・ファンクなムードも絡めながら“love, love, love,……”のコール&レスポンスやスキャット風のヴォーカルワークを見せた「イッツ・ラヴ」、抑揚激しいフェイクやラップ風パートを巧みに繰り出す「ア・ロング・ウォーク」、そして何といっても、厳かなオペラ風のダイナミックなヴォーカリゼーションで凄味をもって圧倒した導入からしなやかに展開した「ヒー・ラヴズ・ミー」と、楽曲ごとにその懐の深さを体感。紛い物ではない“リアル・ソウル・ショウ”でフロアに集ったファンを文字通り魅了していった。

 微笑みかける表情にも愛が溢れ、終盤で「日本語が解からないから、しっかりと伝えたい」ということで通訳を呼び出すも、そこで通訳させた言葉がおおまか通訳しなくても理解出来る内容だったり(おそらくライヴ中に発する言葉への反応がイマイチだったゆえ、言葉が通じてないと判断しての機転だったと思うが)というところも含め、ファンにはいっそう愛らしく感じられたのではないだろうか。機嫌が悪くなり、適当にステージを終えて帰るのではないかという当初の不安とは180度異なる姿に、よりプロフェッショナルなものを感じた。

 ただ、惜しむらくはアンコールなしの約70分というやや短めのステージだったということか。最後の楽曲へ入る前にはまだ1時間を経過していなかったが、長尺のバンド・メンバー紹介を組み込んだゆえの1時間超えの70分。素晴らしいライヴだっただけに、“楽しい時間はあっという間”という感覚からするとかなり短く思えたのではないか。とはいえ、セットリストを鑑みると、二日前に行なわれた〈SOUL CAMP〉とほぼ同一らしいということから、当初より〈SOUL CAMP〉に照準を合わせた“追加公演”としての意味合いが大きかったのだろう。さもすれば、致し方ないどころか、初来日となれば充分過ぎるステージだった。集客という意味では、当日価格で1万円を超えるチケット設定は(ビルボードライブやブルーノートではなくライヴハウスとして考えると)やや高価ゆえ、二の足を踏ませたのだと思うが(当日アンドラ・デイやアンダーソン・パックの公演へ行ったR&B/ソウル・ファンはいいとして…苦笑)、どちらかといえばEDMなどのクラブ・ミュージックに重心を寄せている日本では、R&Bやネオソウルの浸透は厳しい状況なのかなとも。

 ようやく2007年から待ち続けた公演を堪能してその余韻が続いているが、次は是非ともビルボードライブやブルーノートほか中小規模のクラブハウスにて、ロケーション良好な状態で迎えたいところ。ソウルフルではなくてソウル、グルーヴィではなくてグルーヴがほとばしる、艶と濃厚なコクを含んだソウル・グルーヴ・エンターテインメント・ショウの真髄を垣間見た瞬間を近いうちに再び体感したいものだ。



◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Coming To You
02 Golden
03 Whatever
04 Is It The Way
05 Fools Gold
06 Getting In The Way
07 Hate On Me
08 It's Love
09 A Long Walk
10 Real Thing
11 Gimme
12 He Loves Me

<MEMBER>
Jill Scott(vo)

Ben O'Neill(g)
Dw Wright(b)
Jamar Jones(key)
Rashid Williams(ds)
Dominique Thomas(perc)
Mike Burton(sax)
Matt Cappy(tp)
The Pipes(back vo)
 Deonis Cook
 Corte' Ellis
 Bluu Suede


◇◇◇











◇◇◇


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コメント一覧

野球狂。
魂は確かに存在してましたよ!
http://blog.goo.ne.jp/jt_tokyo
Hide Grooveさん、欠席されても“グルーヴ”は引き続き名乗ってください。音楽愛の魂はしっかりと心に宿ってますし!

ジル・スコットはR&B/ソウル・ラヴァーズにとってはビッグニュースですが、やはりこのあたりは日本では浸透しづらいのでしょうね。ディアンジェロはジャズやロック・ファンへも訴求出来たのでソールドアウトとなりましたが、ブラック系はクラブ系(EDM)に寄ったコンテンポラリーでないと難しいのかもしれません。日本でR&Bをメインにしてメインストリームにある人、いませんし。

パティ・ラベルは健康に負担がかからないうちに(過去に大病を患ったと思うので)来日してもらいたいものですが……。

> カメラに向かって笑顔のJill
あ、写真はネットで拾ったりしたものでして(汗)、ただ、現地で目があった(ということにしている)のは事実です(笑)
Hide Groove
欠席者です!
Jill Scott来日公演を欠席した分際でHide Grooveなどと名乗って良いのか?
野球狂。さん、どうぞ叱ってください!

野球狂。さん、こんばんは!
揺るぎがない真っ直ぐな野球狂。さんの言葉が、リズムを刻んで伝わってきます。
Jill Scottライヴ欠席者ですが少し語らせてください。

『Jill Scott来日』

この事実はR&B、SOULをこよなく愛する者であれば、どれ程重大なビッグニュースかを感じているはずです。しかし自分は欠席者…💨

チャカ・カーン、シェリル・リンの来日公演は実現しているのに、なぜパティ・ラベルやアンジェラ・ウィンブッシュの来日公演はなぜ実現しないのだろう、というレベルの話しをしているようでは、まだまだ野球狂。さんの言葉が届かないのであります!

野球狂。さんのカメラに向かって笑顔のJill、全てを物語っていますよ👍
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