*** june typhoon tokyo ***

CICADA@WWW


 集大成からの始まり。

 ヒップホップやR&Bなどの“黒系”のサウンドを生音で発しながらポップネスを築く5人組、CICADA(シケイダ)。2015年2月の1stアルバム『BED ROOM』はHMV「エイチオシ」に選出され、TOKYO FMではマンスリープッシュとして取り上げられるなどシーンで注目を浴び始めている。この11月には新たに7インチアナログ「stand alone」が投下されるということで、渋谷WWWにてレコ発ライヴ〈CICADA 7inch vinyl“stand alone”release party〉を開催。オープニングアクトにはtofubeatsが登場して彩を添えた。開演当初は100人くらいの客入りか。フロアBGMにはデスティニーズ・チャイルドなどが流れていて“黒系”らしさが窺えた。

 CICADAは2015年1月のMixed Up@代官山LOOP以来。この時はEspecia目当てで行ったのだが、非常に強い印象を残したバンドだったことを覚えている。その翌月にはアルバム『BED ROOM』をリリース(アルバムレビューはこちら)。「ポップスの新たな可能性を大いに秘めた一枚」と記したが、それを生の空間でどう表現するのか、非常に興味を持ちながらこの日を待ちわびていた。



 まずはtofubeats。オープニングアクトということだが、1時間という尺もあって事実上ツーマンイヴェントといった形。開演定刻の19時から20分ほど過ぎると、黒のTシャツ姿のtofubeatsが登場。「今日は時間がたっぷりあるので」「秋らしいセットで」とオーディエンスに投げかけながら「STAKEHOLDER」で幕開け。序盤は歪んだ音を挟み込みながらもゆったりとしたグルーヴで“秋の夜長”を演出。「普段はやらないけれど、平日だから」ということで、通常はあまりセット・リストに加えないという「window」や「夢の中まで」なども披露。

 その一方で、森高千里客演曲「Don't Stop The Music」から藤井隆客演曲「ディスコの神様」への展開や「朝が来るまで終わる事の無いダンスを」などのキャッチーなキラー・チューンで観客を踊らせる。「Don't Stop The Music」から「ディスコの神様」への繋ぎでは、森高千里のヴォーカルをループさせ「こんなに(贅沢に)森高さんの声を使うのは今日だけ。平日だから」と普段とは異なるスペシャルな装いを強調。CICADAの“晴れの日”ということも考えての構成でフロアの熱を上昇させていった。

 中盤以降にはウインドシンセサイザー(笛状のシンセ)を駆使しながら、色合いを変化。「I Belive In You」「No.1(Remix)」なども披露し、終盤は「水星」からデモ音源の「BABY」へ。「いつもは〈水星〉で終わるのですが、今日は初めての曲で」「初めてやるのでうまくいかないかもしれませんが」ということもあり、未発表の「BABY」は「ここまでしか出来てないので」と唐突に終了させてステージアウト。本日の主役はCICADAという思いと、CICADAの新たな旅立ちのステージに自らも新たな試みで挑もうという心持ちもあったか。tofubeats自身のメジャー2ndアルバム『POSITIVE』のリリース後のライヴも控えているがゆえの、なかなかレアな構成だったかもしれない。

 非常に知的なルックスからヴォーカルエフェクトを交えてノンストップで1時間。前述のウインドシンセサイザーやポータブルゲーム機やゲームコントローラーを思わせるシンセサイザーを使ったりとDJブース上の狭い空間のなかでも豊かな表情を見せていたところは、豪華な客演陣とのステージ共演も多い彼ゆえの経験値の高さが感じられた。しっかりと時間内での“押し引き”が計算された前座という枠を越えたパフォーマンスが、CICADAにステージを受け渡すのに充分な熱をフロアにもたらしていた。



 tofubeatsの終演から15分ほどで再びステージが暗転。揃いの白いパーカー姿のバンド・メンバーが登場。観客から歓声を受ける中で赤のトップスと白のボトムパンツ姿のヴォーカルで紅一点の城戸あき子が登場。「CICADAの全部をさらけ出す」「CICADAの集大成」と宣言してからリリースパーティはスタートした。

 ミニマルながらも緻密なサウンドを鳴らすバンドという認識が強かったとしたら、冒頭から城戸がヒップホップ・マナー全開のフロウをかます展開に一瞬戸惑ったに違いない。過度な抑揚を控えたアンニュイとソフィスティケイトの狭間をいくようなヴォーカルによるクールなポスト・エレクトロR&B風といったアルバムのイメージとは異次元な、熱い脈を打ちならすステージング。「ふたつひとつ」「Colorful」「夜明けの街」など『BED ROOM』収録曲を連ねていくが、アグレッシヴなパフォーマンスとともに楽曲の表情を変貌させながら、フロアを瞬時に熱波で包み込んでいく。

 その後も「Naughty Boy」など『BED ROOM』収録曲を中心に、その合間にラップ・ステージを盛り込んでくる。左に若林とも、右に及川創介のキーボード勢に挟まれた中央にヴォーカルの城戸あき子が前面に立つ。驚いたのは、色香を程良く漂わせた華奢で細い体躯からは想像出来ない、凛としたという表現とはいささか異なる微かに肉欲的な思惑さえちらつく生々しいヴォーカルだ。生々しさといっても粗野なところは微塵もなく、極めて上質。しかしながら、何かを掴み取りたいと欲する感情をてらいなく露わにした声には、今このステージに全身全霊をもって臨むという強い執念みたいなものさえ伝わってきた。

 両サイドの鍵盤が醸し出すメロウな音色が上質を保つ絶妙なアクセントとしてしっかりと機能していたが、それ以上に耳を奪われたのは櫃田良輔のドラミングと木村朝教のベースだ。特に櫃田のドラムは特筆もの。「君の街へ」やアナログのタイトル曲「stand alone」などでのハイハットを小刻みに叩きまくってのドラムンベース的なリズムで進行するスタイルは、おそらくクリス・デイヴやマーク・コレンバーグといったロバート・グラスパー・エクスペリメント路線のそれ。ロバート・グラスパーは『ブラック・レディオ』でジャズとブラック・ミュージックの共鳴に挑んだが、リズム隊だけでいえばCICADAもさまざまな音感をクロスオーヴァーさせるという点では近いものがあるかもしれない。
 また、木村のベースは漆黒の音を冷淡なまでに繰り返して、深みを演出。一見地味ではあるが、このバンドのタイトな音鳴りを可能にさせているのは、この脇役に徹した分厚いベースあってのこと。決して“黒い”とは言えない城戸のヴォーカルが非常に複雑なクロスオーヴァー・サウンドに染まるのは、このベースの下地があってこそといっても言い過ぎではないだろう。

 アンコール明けで及川がヒップホップ好きと語っていたが、その及川の嗜好がアレンジに大きな影響を与えているのは確かなようで、リズム的にはヒップホップの素地が大きい。とはいえ、前述のドラミングでも分かるようにジャズとの親和性に加え、鍵盤が牽引するポップなメロディから生まれるカラフルな彩りも擁していて、一言では言い表せないサウンドがそこには存在した。敢えて名付けるなら“Jazzin' Hip'n Pop(ジャジン・ヒップンポップ)”とでも言えようか。かつて80年代後半~90年代初頭に流行したニュー・ジャック・スウィングは当初はプログレッシヴR&Bと呼ばれていたが、CICADAのステージから放たれた音もその意味では充分に“プログレッシヴ”。洗練と革新を有した刺激的なサウンドは彼らの“強み”となって、一つのポップ・シーンにおけるムーヴメントを牽引する存在となるかもしれない。

 本編ラストで新しく作った決意表明的なヒップホップ・テイストの楽曲を披露した後、アンコールでは「door」を。こちらはCDのイメージに沿ったもの憂げで中性的なヴォーカルによって、しっとりとエンディングへと導いていく。マネージャーを招き入れての挨拶は、彼らにとっての一つの集大成として観客の目を強く惹きつけた光景となった。

 2016年5月26日、渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライヴが決定したとの報告も。この日のフロアは精彩と刺激とが渦巻くドラマティックなステージであったことは確かだが、正直なところ、その熱度はWWWというフロアの大きさに依るところもある。まだワンマンライヴをしたことがない彼らが、初めて踏み出す大きな一歩。それが来年のCLUB QUATTROだ。会場が大きくなっても今夜と同じかそれくらいの音圧と熱度を生み出すことが出来るか……さまざまな課題が今後も彼らを悩ませるはずだ。CICADAとしての現時点での最高を赤裸々に表現したこの日のステージからまた新たなステージへ。“集大成からの始まり”の時を鳴らす鐘は、自身の成長の扉を開く合図でもある。半年後の彼らは何をもたらすのか、大いに期待したいところだ。

◇◇◇

<MEMBER>
城戸あき子(vo)
櫃田良輔(ds)
若林とも(g&key)
木村朝教(b)
及川創介(key)

Opening Act(Guest):
tofubeats(DJ&vo)



◇◇◇












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