アーム通信(海外会員インドだより)

国際子ども権利センターの元運営委員の成田由香子が、インドのデリーで滞在する暮らしの中で体験することを伝えます。

インドの人身売買

2006-01-16 00:00:00 | Weblog
今回は、インドの人身売買についての新聞記事(ヒンドゥスタン・タイムス紙 2005年10月28日付け)をお伝えします。この記事から、インドの人身売買は、被害者の多くは少女であり、性的搾取が主な目的で取引されていることが伺えます。

<ここから>―――――――――――――――――――――――
国連は、『インドは人身売買の主要な中心地になっている』』と報告している。
インドでは、毎年約2万人の女性が売買されている。その内60%が18歳未満45%が16歳未満である。

◆大きな市場
人身売買された女性は一人約5万ルピー(約12,700円)で売られている。人身売買によって毎年1,500万ルピー(約3,800万円)のお金が産出されており、これは、ドラッグ及び武器の密輸に次いで2番目に大きい犯罪市場となっている。

◆どこからどこへ?
国外では、ネパールやバングラデシュの村出身の少女が、約1,000ドル(約115,000円)でインドの売春宿に売られている。国内では、被害者は、主に南インドのアンドラ・プラデシュ州、タミルナドゥ州、アッサム州、北インドではウッタル・プラデシュ州、ラジャスタン州などから連れてこられ、主にデリー、ムンバイ、バンガロールなどの大都市に売られている。

◆なぜ取り締まれないのか?
①取引の活動は闇で行われているため、人身売買の正確な統計を取ることができない。
②被害者は、通常、不法移住者なので、追放されることを恐れて、申し立てることができない。
③あまりに大きな問題に警察が処理できていない。被害者1,000人のケースにつき120人の警察が取り扱っている。
④旅行記録は偽装されており、移動や国境を越えるのは秘密で行われている。
⑤人身売買はグローバル化している。これまで特定のルートで取引されていたが、今は新しい市場をどんどん広げている。
<ここまで>――――――――――――――――――――――――――――

★ムンバイの例:
ムンバイには売春街が多く、そこにはネパール・バングラデシュ・インド国内から少女たちが人身売買によって連れて来られる。国際子ども権利センター(『誰にも奪えない子どもの権利』、2003年、30項を参照)によると、ムンバイには、約5万の売春宿に10万人の売春婦が、また、そのうちカマティプラ地区には8,000人以上の売春婦がいると推定されている。売春に巻き込まれた少女は、同伴する売春斡旋人によって売春宿の奥に追いやられ、すぐに人目につかなくなる。または他の場所に転売されて、すぐに姿が見えなくなってしまう。このため「見えない子ども」(invisible child)とも言われ、街に現れた全体の数を把握することが難しい。このカマティプラ地区で活動するNGO、SAATHIによると(MID-Day(現地の英字新聞), Where did she go?, 2001年5月16日、6項を参照)、売春宿から逃げ出した女性・少女が、ムンバイ市内で最大のボンベイ・セントラル駅と、鉄道・バス停に、それぞれ毎日平均4人程度、目撃されるという。

SAATHIは、私がムンバイで留学中にフィールドワークを行っていたNGOです。詳しくは:http://www.saathi.org/girls_project.htm

★インド政府の取り組み
こどものトラフィッキングや人身売買を防ぎ、被害者を救済・リハビリするなどための取り組みは、各州政府に委ねられている。人材開発省の女性・子ども開発局によるswadharは、トラフィッキングの被害者を含む困難な状況に置かれた女性のためのスキームとして、州政府機関およびNGOを含む民間団体が実施する事業に対し資金助成している。しかし、このスキームは、被害者の施設型ケアへの支援が中心で、人身売買そのものの問題を防ぐものではない。

→さらにインドのChild traffickingに関する情報は: http://wcd.nic.in/indianchild/Children.9.htm

★「子どもの売買、子ども買春および子どもポルノグラフィーに関する子どもの権利条約の選択議定書」
(国連総会決議A/RES/54/263、2000年5月25日、日本語訳:平野裕二)
(http://homepage2.nifty.com/childrights/international/crc/crc_op_se.htmを参照)

第1条(子どもの売買等の禁止)
締約国は、この議定書が規定する子どもの売買、子ども買春および子どもポルノグラフィーを禁止する。

第2条(定義)
この議定書の適用上、次の用語は次のことを意味する。
(a) 子どもの売買とは、子どもが、いずれかの者または集団により、報酬または他の何らかの見返りと引換えに他の者に譲渡されるあらゆる行為または取引を意味する。
(b) 子ども買春とは、報酬または他の何らかの形態の見返りと引換えに性的活動において子どもを使用することを意味する。
(c) 子どもポルノグラフィーとは、実際のまたはそのように装ったあからさまな性的活動に従事する子どもをいかなる手段によるかは問わず描いたあらゆる表現、または主として性的目的で子どもの性的部位を描いたあらゆる表現を意味する。

第3条(立法上・行政上の措置)
1.各締約国は、最低限、次の行為および活動が、このような犯罪が国内でもしくは国境を越えてまたは個人的にもしくは組織的に行なわれるかを問わず、自国の刑法において全面的に対象とされることを確保する。
(a) 第2条(a)で定義された子どもの売買との関連では、次の行為および活動。
(i) いかなる手段によるかは問わず、次の目的で子どもを提供し、引き渡しまたは受け取ること。
-子どもの性的搾取
-利得を目的とした子どもの臓器移植
-強制労働に子どもを従事させること
(ii) 養子縁組に関する適用可能な国際法文書に違反し、仲介者として不適切な形で子どもの養子縁組への
同意を引き出すこと。
(b) 第2条(b)で定義された子ども買春の目的で子どもを提供し、入手し、周旋しまたは供給すること。
(c) 第2条(c)で定義された子どもポルノグラフィーを製造し、流通させ、配布し、輸入し、輸出し、提供し、販売し、または上記の目的で所持すること。


→そのほか、人身売買/traffickinに関する国際文書等は:
http://homepage2.nifty.com/childrights/international/trafficking/index.htm


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3 コメント

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グローバル化 (JICRC平野)
2006-01-16 11:22:59
インド、カンボジア共通、というか世界共通なのですが、この人身売買という犯罪のグローバル化、組織犯罪化はとどまるところを知らないのに対して、それを取り締まる側が果たしてその変化についていけているのか、というと、どんどん引き離されているのではないかと思えます。ASEAN諸国の場合、「相互不干渉主義」を掲げており、ますます難しいのものになっているのかも知れません。
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RE:グローバル化 (narita)
2006-01-19 03:12:49
国境を越えて取り組まないと解決しない問題なのに、人身売買はますます増加、深刻化しているように思えますね。まず政府がしっかりコミットしなければならないと思いますが、問題そのものを認めようとしない、事実を公表しない政府さえありますね。しかし、おっしゃるとおり、こういった問題には、どのように問題の現状を理解し、取り組むべきか、まず現場からの声を上げて行くことの重要性を感じます。



以下は、ILOのウェブサイトから、世界の子どもの人身取引の状況や取り組みなどの情報があります。

http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/ipec/facts/worst_forms/2traffick/01.htm



そして以下は、UNICEFのウェブサイトから見つけました。

http://www.unicef.org/protection/files/trafficking.pdf
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南西アジアでの地域間協力:SAARC (narita)
2006-01-19 04:35:48
南アジア地域協力連合(SAARC:South Asian Association for Regional Cooperation)における女性・子どもの人身売買への取り組みについての情報は、以下です。



・第11回首脳会議(2002年1月、カトマンズ)において、女性及び子どもの人身売買禁止に関するSAARC地域協定締結等が合意された。その内容では、女性・子どもの人身売買の取り締まり、被害者の社会復帰や帰還のために各国々が協力し合うこと、また国際的な売春ネットワークでの女性・子どもの使用を防ぐことなどがが求められた。

・第13回SAARC首脳会議(2005年11月12~13日、ダッカ)では、「ダッカ宣言」が合意され、SAARCにおける「女性と子どもの人身売買」及び「子どもの福祉促進」に関する2協定を全加盟国が批准した。



詳細は、英語ですが、以下のSAARCのウェブサイトをご覧ください。

http://www.saarc-sec.org/main.php?t=2.8.1



南西アジア(南アジア7カ国+アフガニスタン)では近隣諸国間の協力は公式的に始まっているようですが、動きが遅いようですね。諮問団が2002年に作られてから、調査が始まったのが2004年ですし。具体的なプログラムなどは始まっているのかどうか、ここからはあまりよくわかりません。今後情報があったらお知らせします。
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